32-2
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「やぁっ! せいっ!」
「そのような稚拙な攻撃、掠りもしませんわ」
アルテミスと真理が平行線のケンカをしている少し離れた場所では、叢雲とレベヂィーノエ・オーゼロのドール、オデットが戦っていた。
「こぉんの! ちょこまかと!」
「あらあら、ハエが止まりそうなくらい遅いです」
天之叢雲剣の連撃を紙一重で避けるオデット。彼女の体幹制御プログラムは一級品のようで、まるで新体操かのようなアクロバティックな動きで叢雲を翻弄している。また、大きな動作の度に白くヒラヒラとした彼女のドレスが目の前でぶわりと翻るため、相対するほうは視覚的にも翻弄されるという二段構えだった。
『叢雲! 一旦距離を取って!』
「うるっさい吹雪! それが出来たら苦労しないわよ!」
『うるさいってなに?! 私はマスターとしてきゃっかん的な意見をだね?!』
「まるで撃ってくれと言わんばかりですね?」
一瞬の隙を突いたオデットは、一体どこに隠し持っていたのか小型のサブマシンガンを両手で構えていた。まるでモーターのような発射音と共に大量の銃弾が叢雲を襲い、その動きを牽制してくる。
「くっ、この!」
どうにか回避しようとするが、しかしオデットはその軽やかな身のこなしで執拗に一定の距離を保つ。接近すれば仕込みナイフとカポエイラ、少し離れればサブマシンガンの掃射。見た目以上に獰猛な攻撃性能を持つオデットを前に、さしもの叢雲も劣勢を強いられる。
「虫ケラのようにしぶといですわね。いい加減、プチっと踏み潰してあげましょう」
「誰が化石同然の三葉虫よ! 私はそんなに古くなってぇの! 十種雲形!」
天之叢雲剣がうっすらと青白く発光する。剣に蓄えられたエネルギーが開放され、叢雲自身の膂力が増幅、圧倒的な剣速を生み出す。
「乱層雲!」
一呼吸のうちに十の斬撃を生み出すという十種雲形・乱層雲。相手が変幻自在な身のこなしだろうと、この神速の斬撃には太刀打ちできないはずだ。
「……! シュエット、支援を要請します」
それまで鉄のように硬かったオデットの表情がわずかに歪む。叢雲の反撃が予想以上に応えたのだろう。しかしその程度で狼狽える彼女ではなかった。
「ッ?! 狙撃?! どこから……!」
またもや銃声を伴わない狙撃が。叢雲を襲った銃弾は、しかし偶然にも剣で弾いたおかげでダメージはなかった。
「お許しくださいませ、貴女方を少々……いえかなり見くびっていましたわ。この私がシュエットに支援を求めるなど、久しくありませんでしたので」
「へぇ、じゃあその余裕たっぷりな顔をもっと歪ませてあげようじゃないの!」
『ダメダメ叢雲! いつどこから狙撃がくるか分からないんだよ! もっと慎重に!』
「吹雪、ちょっとあんた黙ってなさいな!」
「あらあら、マスターと諍いですか? そのような不和を抱えて……そちらこそ随分と余裕がお有りのようで」
「……よし決めたわ。あんたを倒すのは最後にしてあげる」
「とてもお優しいこと。しかし、そのような配慮は不要ですわ」
「何言ってんのよ。最後の最後まで徹底的に痛めつけてから倒してあげるってんのよ!」
最後まで言い切る前に叢雲は地を蹴る。単純な間合いと一撃の攻撃力では叢雲のほうが勝っている。ここは多少強引でも、無理矢理押し切るほうが得策と考えたのだ。
「見た目よりも猪武者ですのね?」
「言ってなさい!」
『ああ、だからそんなに突っ込んでいっちゃ駄目だって! ちょっと叢雲、聞いてるの?!』
オデットのカポエイラは確かに独特の攻撃軌道と技のキレがあるが、しかしそう何度も剣を交えば叢雲の眼も慣れてくる。先程までの手数で対応から、今ではしっかりと一撃一撃をいなすことが出来ている。
(……この短時間で私の武術に対応するとは……ですが、ここいらで身の程を思い出させてあげましょう)
相変わらずの冷たい表情をしたまま、オデットは静かにサインを出す。それはレベヂィーノエ・オーゼロにしか分からない一種の暗号のようなものだった。
* * *
「くふふ……作戦は成功してる! この調子なら私たちの勝ちは決まったも同然ね!」
レベヂィーノエ・オーゼロのマスターブースでは不気味に微笑む白谷リノアがいた。リノアのドールは現在、叢雲と戦闘中のオデットだ。
「いくつか……不安要素はありますけど……概ねこちらの思惑どおり……」
そしてその隣には準決勝戦前、街中で真理とぶつかったあの女性の姿が。彼女もチームのメンバーだったのだ。名前は黒佐モア、どこかミステリアスな雰囲気の女性だが、彼女も意味ありげな笑みを浮かべている。
「あ、あはは……そーですねー」
そして彼女が三人目のマスター、飯豊マリア。快活そうな見た目の少女だが、彼女だけは何故か焦ったような素振りを見せている。
モアのドールは森林の中に潜んでいるスナイパー、オディール。その機動力と支援射撃に優れた構成のAIによってオデットを後方から支援するのが基本戦術だ。
ここにリリアのドール、長距離狙撃と広範囲の索敵に特化したシュエットがバトルフィールド全体を見渡すことでより的確に相手を追い詰めていく。
しかし、彼女たちがこの準決勝戦で仕込んだ必勝の作戦は他にもあった。
「ちょっと、マリア? あなた作戦通りにあいつらを仲違いさせるように仕向けたのよね?」
「ふぇ?! あ、えっと……そ、それがね……?」
「もしかして……失敗したのですか……?」
「あー……端的に言うと……そうなるかも?」
「はぁ?! 私とモアはちゃんと成功してるのにマリアだけミスってるってどういう事?!」
「はい……私とリリアは事前の打ち合わせ通り、マスターである神代吹雪と愛宕真理に接触……その後、短時間で信頼関係を構築した後にドールに対する不信感を植え付けるよう誘導しました……」
「いやー、ね? あのチミっ子に話しかけようと頑張ったんだけどさー?」
そこまで言うとマリアははぁ、とため息を吐く。
「めっちゃこっちを警戒してくんのよ。いくら話しかけても『はい』と『そうですか』しか言わないし。さながらオデットみたいな鉄面皮だわ、ありゃあ」
やれやれとオーバーアクションをするマリアに、リノアは口を魚のようにパクパクさせる。
「あんった、あれほど自信満々で出掛けてたじゃない?! そういえば一回戦のときも相手チームのマスターに警戒されてたし!」
「あ、あれは仕方ないじゃん! 試合開始までの短い時間でマスターとドールをケンカさせるなんて結構な無茶だよ?! 本来はもっと時間を掛けてだねぇ……」
「お二人とも……私たちが仲違いしては本末転倒ですよ……それに、オデットが例のサインを出しています……」
「うげ。あのサインを出すってことは結構苦戦してんじゃん。こりゃあとことん痛めつけてやんなきゃね。それこそ、バトルするのがトラウマになるくらい……! モア、マリア! オディールとシュエットの配置はオッケー?!」
こくりと頷くモアと、ブンブン頭を上下させるマリア。
「さぁて……私たちが優勝するために、ブロッサムなんとかってチームにはここらで敗退してもらおうかしら!」




