第7話【防犯カメラ越しのショータイム】
日曜日の深夜2時。
Yは部屋の電気を消し、
モニターの光だけで掲示板を開いていた。
画面には、Xが投稿した
動画ファイルのリンクが貼られている。
店内の防犯カメラの映像を、
個人が特定できないよう加工して
スレッド内に共有したものだ。
『Y:Xさん、これ昨日の夜の映像ですか?』
『X:そうそう。閉店後の深夜1時頃。
うちの店の裏口の金庫を狙って
侵入しようとした「闇バイト刺客」の
無様すぎる一部始終だwww』
動画を再生すると、
バールを持った全身黒ずくめの男が
画面に映し出された。
男は
裏口のドアに向かってバールを突きたて、
体重をかけてこじ開けようとしている。
だが、
バールが滑って自分の足に強打したらしく、
その場で両膝をついて悶絶し始めた。
『Q:ブッwww 自爆してるwww』
『Z:ドアの鍵を破壊する技術すらなく、
ただ力任せに
バールを振るっているだけですね。
素人にも程がある』
『X:しかもな、このバカ、
裏口のドアの真上に設置してある
「人感センサー付き超高輝度LEDライト」
の存在に全く気づいてなかったんだよ』
動画の中で、
悶絶していた男が立ち上がった瞬間、
頭上から眩いばかりの白光が照射された。
男は驚いて上を見上げ、
カメラのレンズと真っ正面から目が合った。
パニックになった男は
脱兎のごとく逃げ出そうとしたが、
焦りのあまり足がもつれ、
駐車場の車止めに
派手に躓いて顔面から倒れ込んだ。
『Y:ギャハハハハ! 漫才かよ!』
『Q:車止めに顔面セーフwww
痛そうwww』
『Z:防犯カメラに向かって
バッチリ顔面を提示してくれましたね。
これ以上の証拠写真はありません』
『X:で、
倒れて鼻血を出して倒れているところを、
センサーライトと連動した
自動通報システムで
駆けつけた警備員と警察官に、
その場で取り押さえられたってワケ』
スレッドは
歓喜と大爆笑のレスで埋め尽くされた。
『Y:指示役に
「裏口から簡単に破れる」とか
適当なこと吹き込まれて
送り出されたんでしょうね。
バール1本で
ディスカウントショップの防犯破れると
思ってんのがおめでたいwww』
『Q:警察に連行されるとき、
鼻にティッシュ詰めて泣いてたんですか?
www』
『X:おう、
警察官に両脇抱えられながら
「痛い痛い」って泣いてたわ。
建造物侵入と器物破損、
強盗未遂で一発アウトだな』
『Z:強盗目的での侵入ですから、
執行猶予もつきにくいでしょう。
数年間は刑務所の冷たい部屋で、
自分の鼻の痛みと浅はかさを
噛み締めることになりますね』
Yは冷えたチューハイを一口煽り、
喉を鳴らした。
闇バイトに応募する連中は、いつも
「自分だけはうまくやれる」
「警察なんて大したことない」という
謎の自信に満ちあふれている。
そして、現場に来て
最新の防犯設備や警察の速さに直面し、
初めて
自分がいかに無力で使い捨ての
コマだったかに気づくのだ。
『Y:手錠かけられて泣くくらいなら、
最初から
真面目にバイトして買えって話ですよね。
自業自得すぎて涙も出ない』
『Q:本当ですよ。
今夜も警察の皆さんのおかげで、
美味い酒が飲めます』
『Z:ええ。愚か者が自滅し、
刑務所に収監される。
世界が少しだけ正しくなった証拠です』
『X:ガハハ!
今夜は朝まで飲むぞ! 乾杯!』
画面の上で踊る乾杯の
AAと「www」の文字列。
Yはグラスを画面に向け、
一人静かに笑みを浮かべた。
明日もまた、日本のどこかで
勘違いしたバカが罠にかかり、
無様に手錠をかけられるだろう。
そして自分たちは、その滑稽なショーを
安全な特等席から見下ろし、
祝杯をあげるのだ。




