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嘲笑する被害者たち〜トクリュウの末端が逮捕されるたび、ネットの底で静かに酒を汲み交わす者たち〜  作者: 風風風


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第5話【境界線のこちら側】

平日の午後11時。


20代の青年・Yは、

狭いワンルームの部屋で

缶チューハイのプルタブを開けた。


テレビの画面では、またしても

トクリュウ関連の事件が報じられている。


今度は

「SNSで集められた実行役による

偽ブランド品の売買・特殊詐欺グループ」の

摘発だった。


画面に映し出されるのは、

捜査員に抱え込まれるようにして

警察署へ引かれていく18歳と19歳の少年たち。


(18歳か……)


Yはグラスの氷をガラリと鳴らした。


彼らが犯した罪の重さと比べれば、

規模はまったく違う。


だがYは、その若すぎる逮捕者の姿に、

かつての自分を重ねずにはいられなかった。


中学2年の冬。


Yはクラスのいじめグループから

逃げ場のない脅迫を受けていた。


「今日の放課後、ドラッグストアで

この整髪料盗んでこい。できなかったら、

明日からどうなるか分かってるよな?」


震える手で商品をポケットにねじ込み、

店を出ようとした瞬間に

鳴り響いた防犯ブザー。


店員の怒声。

駆けつけた警察官。


警察署の冷たい取調室で、

Yは泣きながら

「強制されたんだ」と訴えた。


だが、

駆けつけた両親の失望に満ちた目と、

学校での「万引き犯」という烙印が

消えることはなかった。


あの日、Yの心は死んだ。

「自分は被害者なのに、

世界は自分を加害者として裁いた」

という理不尽な絶望。


だからこそ、

Yはパソコンを立ち上げ、

いつものスレッドを開く。


『Y:今夜の18歳と19歳の摘発、

見ました?

「先輩に脅されてやった」って

供述してるらしいですよ』


速攻でレスが返ってくる。


『X:出た出た、定番の言い訳(笑)』


『Q:脅されたら

何してもいいと思ってんのかね。

断って警察に駆け込めば済む話だろ』


『Z:本当にそうですね。

本当に追い詰められている人間は、

他人の財産を奪うような犯罪に走る前に、

必死で助けを求めるものです。

彼らは「楽な逃げ道」として

犯罪を選んだに過ぎない』


Yは画面の文字を追いながら、深く頷いた。


そうだ。Y自身、

あのとき万引きを強要されて補導されたが、

その後二度と犯罪に手を染めることはなかった。


どんなに惨めで、

どんなに理不尽な目に遭おうとも、

自分の意思で

一線を越えることだけは拒絶し続けてきたのだ。


だが、今

ニュースで連行されている闇バイトの連中は違う。


「簡単高収入」「即日即金」という

甘い言葉に自ら飛びつき、

いざ捕まれば

「脅されていた」「自分も被害者だ」と泣き言を言う。


『Y:自分も昔、

理不尽な目に遭いましたけどね。

こいつらみたいに

「自ら罠に飛び込んでおいて被害者面する奴ら」

と一緒にされると思うと、反吐が出ますよ』


『Z:Yさんの言う通りです。

意志を持って一線を踏みとどまった人間と、

欲望に流されて一線を越えた人間。

そこには天と地ほどの開きがあります』


『X:踏み越えた奴らに待ってるのは、

ただの自滅だ。自業自得、因果応報』


『Q:今日もメシが美味い!

バカが一人捕まるたびに、

世の中がほんの少しだけマシになりますねwww』


『Y:ほんとそれです。ゴクロウサマwww』


画面の上で踊る「www」の文字列。


Yは冷えたチューハイを喉に流し込んだ。


世の中には、理不尽に傷つけられ、

誰にも救われなかった人間がたくさんいる。


自分も、Zも、Xも、Qもそうだ。


だからこそ、

ルールを破って

他人の人生を踏みにじる愚か者たちが、

己の浅はかさゆえに警察に捕まり、

人生を詰ませていく姿を見下ろすことだけが、

彼らに許された密かな復讐であり、救いだった。


「俺は、お前たちとは違う」


Yは静かに呟き、画面の中の

連行される少年に冷ややかな視線を送った。


こちら側は、法を守り、痛みに耐えて生きてきた人間の場所だ。

あちら側は、欲望に負けて自滅した愚か者たちの泥沼だ。


境界線のこちら側から、落ちていくバカどもを嘲笑う。

今夜もスレッドの明かりは、静かで歪んだ暗闇の中で、温かく灯り続けていた。

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