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嘲笑する被害者たち〜トクリュウの末端が逮捕されるたび、ネットの底で静かに酒を汲み交わす者たち〜  作者: 風風風


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第3話【ささやかな 「神様からのご褒美」】

午前2時。

閑静な住宅街の静寂を切り裂くように、

地響きのような爆音が遠くから近づいてくる。


「……また始まったか」


暗闇の中、Qはベッドの上で重い体を起こした。


頭痛がガンガンとこめかみを突き刺す。


慢性的な睡眠障害。


精神科で処方された睡眠薬も、

直頭を揺さぶる直管マフラーの爆音の前には無力だった。


カーテンを少しだけ開けて街灯の下を見下ろす。


ナンバープレートを折り曲げた

3台の原付と改造バイクが、

大音量の音楽と

空ぶかしの音を撒き散らしながら、

わざわざ住宅街のT字路で

円を描くようにくるくると回っていた。


(警察に通報したところで、

到着する頃には逃げている。

注意しに降りていけば、

包丁やバールを持ったバカどもに

刺されるかもしれない)


かつて、一度だけ

直接注意しようとした近所の住民がいた。


翌日、その家の車は傷だらけにされ、

エアコンの室外機を破壊された。


法を守る一般市民は、

法をハナから無視する無法者に対して

あまりにも無力だ。


Qは冷や汗を拭い、パソコンの電源を入れた。


青白い光が部屋を照らす。


ブラウザを立ち上げ、いつものスレッドを開く。


『Qさん、今夜もですか?』


スレッドを開いた瞬間、

Yからのレスが目に入った。


Qは痺れる手でキーボードを叩く。


『Q:ええ、

今夜も絶好調で爆音を撒き散らしています。

ですが……ふふふ』


『Z:おや、Qさん? 何かありましたか?』


Qはニヤリと口元を歪めながら書き込みを続けた。


『Q:先週、

うちの近所の交差点に

最新型の防犯カメラとオービスが

設置されたんですよ。

治安強化地域に指定されたらしくて。

で、さっきバカどもが

カメラの真下で調子に乗って

ウイリーしまくって、

そのまま赤信号をフルスピードで

無視していきました』


『X:うわあ……w』


『Y:完全に見られてるじゃんwww』


『Q:もちろん、

ナンバーを折り曲げていても

今の高精細カメラなら

車両の特徴もヘルメットのステッカーも

丸見えです。

速攻で110番通報して

「映像残ってますよ」って教えてあげました』


スレッドが一瞬で歓喜のレスで埋め尽くされた。


『ナイスQさん!!』


『警察「ごっつぁんです!」www』


『暴走行為+信号無視+

治安維持特別警戒で即一網打尽だな』


『明日あたりの朝のニュースで

「暴走族グループ検挙」って出るのを

楽しみにしてますwww』


Qは深く背もたれに体を預けた。


先ほどまでの

吐き気を催すほどのイライラが、

嘘のようにスーッと引いていく。


ネットのニュース欄を見ると、

ちょうど

「闇バイトで集められた強盗グループが、

防犯カメラの映像から足がついて

逮捕された」という速報が入っていた。


『しかしさ、』


Zが静かにレスを繋ぐ。


『Z:暴走族も、闇バイトの強盗も、

なんで

「自分たちだけは警察から逃げ切れる」

って思えるんでしょうね。

頭の構造を疑いますよ』


『Y:だってバカだもん。

「今さえ良ければいい」

「自分だけは特別」って本気で思ってる。

だから指示役に

「警察には絶対にバレないシステムだから」

って言われたら、

そのまま信じ込んじゃうんだよ』


『X:知識もなければ、

先を見通す想像力もない。

だから買い叩かれ、使い捨てられ、

最後は警察に差し出される。

悲惨とも思わんね。自業自得だ』


『Q:本当にその通りです。

彼らの浅はかさのおかげで、

今夜はいい酒が飲めそうですよ』


Qは台所へ行き、

冷蔵庫からウイスキーのボトルを取り出した。

グラスに氷を放り込み、黄金色の液体を注ぐ。


外の爆音は、いつの間にか遠ざかっていた。


数日後には、

あの騒音を出していた愚か者たちが

警察署の取調室で俯き、

警察官に怒鳴られながら

ビクビクと供述書を書いているはずだ。

親が呼び出され、学校や会社をクビになり、

一生消えない「前科」という刻印を背負って。


「……乾杯」


Qはパソコン画面に向かってグラスを掲げた。


自分たちは何も悪いことはしていない。


復讐の刃を振るったわけでもない。


ただ、ルールを守らない愚か者が

勝手に自滅していく姿を、

特等席で見物しているだけだ。


理不尽な騒音に怯え、

眠れぬ夜を過ごしてきた被害者たちの、

これはささやかな

「神様からのご褒美」なのだから。


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