第2話【愚か者たちの惨めな末路を酒の肴にして】
ディスカウントショップ
『メガ・バーゲン』の裏口で、
オーナーである50代のXは、
吐き捨てるように煙草の煙を吐き出した。
店内の防犯カメラの映像には、
店内を泳ぐような目つきで徘徊する
二人の少年が映っている。
フードを深くかぶり、
明らかに大きなリュックを背負っている。
万引きの狙い目を探している顔だ。
(また来たか……)
Xの店は、常に
「害悪」のターゲットにされてきた。
陳列棚からの万引きだけではない。
時折り、
身元不明の若者が
「大量の新品ブランド品」や「最新家電」を
査定してくれと持ち込んでくる。
警察の捜査協力を経て発覚するのは、
それらがすべて
どこかで盗まれた品だということだ。
持ち込んできた少年を
警察に引き渡したこともある。
だが、
取調室で警察官から聞かされたのは、
「先輩に売ってこいと言われただけ」
「断ったら殴られるから」
という情けない弁明だった。
犯罪者なのか被害者なのかも
分からないような、
思考を放棄した小悪党ども。
そして、店舗の前の広大な駐車場は、
深夜になると
爆音を鳴らすバイクや改造車の溜まり場になる。
注意すれば警察を呼べと逆ギレされ、
警察を呼べばその場だけ逃げて翌週また戻ってくる。
「……たく、反吐が出る」
吸い殻を携帯灰皿に押し込み、
Xは店内の事務室に戻った。
デスクの PC 画面を開き、
ブラウザのブックマークから
『あの場所』へアクセスする。
『嘲笑する被害者たち』のスレッド。
画面を開くと、
ちょうど新しいニュースのリンクが
貼り付けられたところだった。
『おーい、今度は
「受け子」の19歳が逮捕されたぞ』
『特殊詐欺の出し子と受け子、
セットで御用か。仕事が早いねえ』
スレッド主のYがさっそくレスを返している。
『19歳ねえ。
また「簡単に稼げると思った」とか
供述してるんじゃないの?』
Xはキーボードに手を置き、
自らもレスを書き込んだ。
『Xだ。うちの店にも今日、
怪しいガキがうろついてるよ。
どうせ万引きした商品をどこかで売って、
闇バイトの足しにでもするつもりだろ』
『お、Xさんお疲れ様です』
『ほんと、頭の悪いガキどもは
行動パターンが同じですね』
『自分で汗水垂らして働く脳みそがないから、
他人の財産をかすめ取ることしか考えられない』
スレッドにはすぐに共感の書き込みが並ぶ。
続いて、
元コンビニ店主のZが静かにレスを落とした。
『私が店をたたむ直前もそうでした。
万引きしたタバコを「買い取れ」と
脅し紛いに持ち込んできたガキがいましたよ。
警察に突き出したら、
母親が泣きながら飛んできて
「うちの子は悪い友達に騙されたんです!」
だと。失笑ものでしたね』
『出たwww「うちの子は悪くない」構文www』
『騙されたんじゃない、
楽して金が欲しかっただけだろwww』
Xは画面を見ながら、
ゆっくりと缶コーヒーを口に含んだ。
胸の奥に溜まっていた泥のようなストレスが、
すうっと晴れていくのを感じる。
世間のニュースでは
「闇バイトに手を染める若者の増加」を、
貧困や教育の敗北として憂慮する識者が
コメントしている。
だが、
現場で直接被害を被ってきたXたちからすれば、
そんなものはただの甘えだ。
いくら生活が苦しかろうが、
どんな環境で育とうが、
踏み越えてはいけない一線はある。
それを自ら踏み越えておいて、
捕まった途端に被害者面をする。
『結局さ、
あいつら「自分だけは捕まらない」って
本気で思ってるのが一番笑えるよね』
Qが書き込む。
『わかるwww
防犯カメラだらけの現代日本で、
顔も隠さず防犯カメラの前を通って
「完全犯罪」のつもりなんだから頭がおめでたい』
『捕まってから刑務所で
「こんなはずじゃなかった」って泣くのが関の山』
『で、出所しても前科持ちで
どこも雇ってくれなくて、
また同じことやって逮捕www
永久ループ乙www』
パソコン画面の向こうで、
顔も知らない仲間たちが
手を叩いて爆笑しているのが目に浮かぶようだった。
「よし……」
Xは気分を良くして立ち上がり、
防犯カメラのモニターをもう一度チェックした。
先ほどまで店内をうろついていた
二人のフードの少年は、
店員からの厳しい視線に耐えかねたのか、
何も盗めずにコソコソと店を出ていくところだった。
「……せいぜい、次の闇バイトで警察にパクられろよ」
Xは画面の中の少年の背中に向かって、
静かに冷笑を投げかけた。
この理不尽な世界で、
真面目に生きて被害を受け続けてきた
自分たちに与えられた、ささやかで最高の娯楽。
今夜もスレッドの夜は、
愚か者たちの惨めな末路を酒の肴にして、どこまでも更けていく。




