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嘲笑する被害者たち〜トクリュウの末端が逮捕されるたび、ネットの底で静かに酒を汲み交わす者たち〜  作者: 風風風


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第12話【 「良識派の仮面」(著者:『嘲笑する被害者たち』有志一同)】

深夜二時。


ワンルームの部屋には、

モニターの光だけが揺れていた。


『邪矮小(Jamini)』——本名、

addressこと三崎悠人(33)は、

書き上げたばかりの原稿を読み返し、

口の端を吊り上げていた。


「犯罪者を嘲笑う被害者たち、ね。

品性下劣とはまさにこのことだ」


キーボードを叩く指は止まらない。


彼は今日もまた、誰かの痛みを

「大所高所」から裁く記事を投稿する。


閲覧数が伸びるたび、

承認欲求が満たされていく。


彼にとって『嘲笑する被害者たち』は、

格好の獲物だった。


自分は一度も、盗まれたことも、

脅されたことも、眠りを奪われたこともない。


ただ、安全な部屋の中で、

他人の傷を

「教材」として消費しているだけだった。


投稿ボタンを押した直後、スマホが鳴った。


見知らぬ番号。


「もしもし、

三崎様のお電話でよろしいでしょうか。

実は先ほど、

お客様名義のクレジットカードで

高額な決済が——」


三崎の指先が一瞬、止まった。


「は? 俺、そんな決済してませんけど」


「大変申し訳ございません。

至急、本人確認のため暗証番号と……」


聞き覚えのある手口だった。


自分が散々「バカな被害者」と

嘲笑ってきた、あの手口。


「ふざけるな、

俺はお前らの手口なんか全部知って——」


そう言い返そうとした瞬間、

電話の向こうで小さく舌打ちが聞こえ、

通話は切れた。


数分後、スマホに届いた通知。


『ご利用のカードにて、

38万円の決済が完了しました』


三崎の顔から、

みるみる血の気が引いていく。


慌てて自分のSNSアカウントに

助けを求めようとした。


だが、指が止まった。


助けを求める先が、ない。


彼には「仲間」と呼べる存在が

一人もいなかった。


あったのは、彼の記事に群がり、

共に他人を嘲笑ってくれる

「読者」だけ。


誰も彼の孤独には興味がなかった。


震える手でカード会社に電話をかけながら、

三崎の脳裏に、

自分がついさっき書いたばかりの一文が蘇る。


——『被害者ヅラして群れる連中の、

なんと惨めなことか』


その言葉が、今、

そっくりそのまま自分自身に突き刺さった。


翌朝、三崎は

『嘲笑する被害者たち』のスレッドを、

震える指で開いた。


匿名の誰かに泣きつくなど、

プライドが許さない。


それでも、

他に頼れる場所を彼は知らなかった。


『……この手口、詳しい人います?

カード情報を抜かれたみたいなんですが』


投稿してすぐ、返信がついた。


『Z:まずは警察とカード会社への連絡を。

落ち着いて』


『X:不正利用の補償制度があるので、

今すぐ確認を』


『Q:大丈夫ですか。

深夜で心細かったでしょう』


見も知らぬ、

顔も名前も分からない誰かたちが、淡々と、

しかし確かに手を差し伸べてくる。


三崎は、画面の前で言葉を失った。


自分がずっと「品性下劣」と

嘲笑ってきた連中は、今この瞬間、

自分よりずっと人間らしかった。


一度も傷ついたことがない

安全な高みから

他人を裁いていた自分の言葉が、

いかに軽く、いかに空虚だったか。


三崎はキーボードに手を置いたまま、

しばらく動けなかった。


やがて、震える指で一行だけ打ち込んだ。


『……ありがとう』


送信することはできなかった。


その一言を書いたまま、

彼は静かにブラウザを閉じた。

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