第10話【 『名無し』って、誰? 】
火曜日の深夜1時。
いつものように液晶画面の青白い光が、
Yのワンルームを照らしていた。
『嘲笑する被害者たち』のスレッドには、
すでに多くの書き込みが並んでいる。
今夜のニュースは、
首都圏で起きた闇バイト強盗事件の
続報だった。
指示役から
「現場の鍵は開いている」と嘘をつかれ、
ガラスを割って侵入した瞬間に
警報装置が作動、パニックになって
近所の公園に逃げ込んだところを
現行犯逮捕されたという。
『X:鍵が開いてるわけないだろ(笑)。
どこまでピュアなんだよ
闇バイトのガキどもは』
『Q:公園の便所に隠れてたらしいですね。
警察官に見つかって
泣きながら出てきたとかw』
『Z:防犯システムも警察の動向も考えず、
指示役の言葉ひとつで突っ込む。
まさに走る爆弾……
いや、ただの動く標的ですね』
『Y:便所に隠れて号泣逮捕はダサすぎる
www
刑務所の便所掃除から
やり直してこいって話ですねwww』
画面の上を流れていく嘲笑の文字。
Yは冷えたチューハイを口に含み、
喉を鳴らした。
(やっぱり、この時間が一番落ち着く……)
理不尽に傷つけられ、
世の中に裏切られてきた自分たちが、
ルールを破った愚か者の自滅劇を
高みから見下ろす。
この祝宴こそが、
Yにとって日々の鬱屈を解消する
唯一の救いだった。
しかし、その宴の途中で、
『名無し:ねえ、
さっきから気になってたんだけど……』
『名無し:このスレで話題にしてる
「公園で捕まったガキ」のニュース、
逮捕された場所って
〇〇区の〇〇町あたりじゃね?』
Yは缶を置く手を止めた。
(……え?)
そこは、Yが住んでいるアパートから、
徒歩でわずか十数分ほどの距離にある
地域だった。
『Y:〇〇町? え、それ俺の近所なんだけど』
ていうか、このサイト、俺たちだけの
溜り場だよね?
『X:だよね?
誰か、他の人に教えた?』
誰からも、「教えた」という言葉はなかった。
『X:マジで? Yさんのすぐ近くかよ』
『Q:うわ、リアルで近くに
そんなバカが潜伏してたと思うと
ゾッとしますね』
それきり、『名無し』を名乗る人物からの
書き込みはなかった。
『X:とにかく、ちょっと
気を付けた方がいいかも?』
Yの心臓が、ドクンと嫌な跳ね方をした。
(……〇〇のアパート?)
それは、まさに自分が今住んでいる、
築古い木造アパートの名称だった。
『Z:Yさん……?』
『X:おいおい、偶然だろ?
たまたま同じ名前のアパートが
近所にあるとか』
『Q:ですよね。
指示役が適当に言った逃走経路の場所が、
たまたまYさんのアパートと
同じ名前だっただけですよ』
スレッドの仲間たちが
楽観的なレスを打ち込む。
Yもまた、
冷や汗を拭いながらキーボードに指を走らせた。
『Y:だ、よねwww 焦った〜。
指示役なんて現場の地理も知らんと
適当に言ってるだけだし、単なる偶然――』
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本日、19:30 に、第11話を投稿します。




