↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/12

第二章⑦【結果】

 青年と巨獣の間から音が消えた。

 実際には静寂などではない。少し離れた場所ではシャーロットがもう一頭を引き付けるために放つ銃声が断続的に響き、咆哮が木々を震わせている。風が梢を揺らし、先ほどまでの戦闘で折れかけた枝が軋み、荒れた地面から舞い上がった土埃がゆっくりと流れていく。それでも今のカナタにはそれら全てがひどく遠く感じられた。

 意識の中心にあるのは十数メートル先でこちらを睨む手負いのバルクレッサーだけだった。


「…………」


 大型レールブレードを握る手に無意識のうちに力が入る。戦闘用グローブの内側では掌にじっとりと汗をかいていた。

 怖くないわけではない。むしろ近距離で対峙した今だからこそ、その恐ろしさが嫌というほど分かる。先ほどシャーロットと戦っている姿を遠目に見た時とは違い、真正面に立てば巨体そのものが壁のように視界を塞いでいた。肩を僅かに動かすだけで筋肉が分厚い体毛の下から盛り上がり、地面へ食い込んだ爪はカナタの指より遥かに太い。

 口元から突き出した巨大な牙もあれで噛みつくためだけのものではない。頭部ごと振り回されればそれだけで十分な凶器になる。

 何より厄介なのは——目だった。


「(もっと単純な生物だと思ってたんだけどな……)」


 青年は僅かに息を吐く。

 傷ついている。脚も万全ではない。片方の前脚にも力が入り切っておらず、彼女から受け続けた銃撃によって身体の各所から血が滲んでいる。

 それでも襲ってこない。怒りに任せて飛び掛かるのではなく、荒い呼吸を繰り返しながら彼の動きを観察していた。

 不用意に踏み込めば反撃する。そう告げているようだった。

 手負いだからこそ危険。追い詰められた獣は生き残るためなら普段以上の力を振り絞る。ましてわこの個体には短時間でシャーロット・アッシュフォードの戦い方を学習するだけの知能がある。こちらが何をしてくるのか分からない以上、向こうも迂闊には動かない。

 そして逃げもしない。少し離れた場所にはツガイのもう一頭がいる。互いを見捨てて逃げるという選択肢がこの生物にあるのかどうかは分からない。だが少なくとも目の前の個体からは背を向ける気配が微塵も感じられなかった。


「(どうする……?)」


 待つか? 相手が先に動くまで。

 それなら反撃に合わせられる。だが時間を掛ければ掛けるほど、もう一頭を単独で引き受けている紫紺の女性の負担が増える。

 彼女自身が言ったのだ。


 ——長くは保たない。


 ならば。


「(……いや)」


 漆黒のルーキーはレールブレードを握り直した。

 考え方が違う。

 どうする、じゃない。


「(行く!)」


 そうして地面を蹴った。

 ——ドッ!

 一歩目からこれまでとは明らかに違った。


「っ!?」


 カナタ自身が驚きかけるほど身体が前へ出る。

 戦闘スーツの人工筋肉が動作を検知して収縮し、元々高い脚力を外側から押し上げる。そして身体の内側ではシャーロットのシックスセンスによって活性化された筋肉がそれをさらに上回る勢いで応えた。

 一歩。二歩。三歩。黒い戦闘スーツが森を駆け抜ける。

 足元の土が後方へ弾け、折れた枝を踏み砕き、隆起した根を一息に飛び越える。

 十数メートルあった距離が瞬く間に消えた。


「グルッ——!」


 バルクレッサーも反応する。

 だが後退しない。青年が懐へ入り込もうとしていることを察したのか、巨体を僅かに沈ませると巨大な頭部を大きく横へ振った。

 口元から伸びる牙が唸りを上げる。

 噛みつくのではない。近づかせないための薙ぎ払い。長大な牙と頭部の質量そのものを利用し、接近してくる青年を横殴りに吹き飛ばそうとしている。

 それは、この個体が今持てる判断力を注ぎ込んだ迎撃だった。


「っ!」


 避ける——。

 一瞬だけ、その選択が頭を過る。

 だがカナタは止まらなかった。

 両手で握った大型レールブレードを持ち上げる。

 青白い刀身が、迫る巨大な牙と交差した。

 ——ガァンッ!!

 金属を巨大な鉄塊で殴りつけたような轟音。


「ぐっ……!」


 腕が軋む。肩へ衝撃が突き抜ける。

 足元の地面が沈んだ。

 人間と巨獣。まともに力比べなどすれば結果は考えるまでもない。

 無茶で無謀。

 本来なら、その二文字で終わる行為だった。

 だが——。


「(いや……)」


 彼の足が止まらない。

 押し返されない。レールブレード越しに伝わる途方もない力を両腕で受け止めている。


「(いける!)」


 自分自身の身体能力。

 AEGIS製強化戦闘スーツによる人工筋肉の補助。

 そして紫紺の女性のシックスセンス。

 三つが重なった今のカナタは巨獣が頭部ごと叩きつけてくる力にすら一瞬とはいえ真正面から食らいついていた。


「おおおおおッ!!」


 踏み込む。腰を捻る。

 両腕へ力を込め、受け止めていた大型レールブレードを一気に振り抜いた。

 この時点ではまだレール機構による瞬間加速を使っていない。

 純粋な刀身の切れ味。

 そして——カナタ・アキト自身の力だけ。

 青白い刃が牙の根元へ食い込む。

 硬い。だが止まらない。

 ——バキンッ!


「グォォォォォォォォッ!?」


 巨大な牙が宙を舞った。切断された牙が回転しながら地面へ突き刺さる。

 次いで響いたのはこれまでの怒りとは明らかに違う絶叫だった。

 巨獣が頭を大きく振り、激痛から逃れるように後退する。傷ついた後肢では急激な移動を支え切れず、巨体が一瞬よろめいた。

 青年も思わず自分の武器を見る。


「……マジか」


 自分でやったことなのに驚きが隠せなかった。

 斬れるとは思った。しかしここまで綺麗に断ち切れるとは想定していなかった。

 腕には確かな手応えが残っている。

 硬いものを断ち切った抵抗。そしてその奥まで刃が抜けた感触。

 これが——今の自分の力。

 しかし。


「グルルルルル……!」

「——っ」


 カナタは即座に顔を上げた。

 まだ終わっていない。牙を一本失ってなお、バルクレッサーは倒れていなかった。激痛に頭を振りながらもやがて再びこちらへ顔を向ける。

 荒い呼吸。口元から漏れる唸り。残された牙。傷だらけの四肢。その状態は満身創痍に近い。

 それでも、その眼から戦意だけは消えていなかった。

 むしろ先ほどより鋭い。カナタを敵として——自分を殺し得る存在として、完全に認識している。


「…………」


 その眼を見た瞬間、彼は理解した。

 こいつは、もう逃げない。

 死ぬかもしれない。そんなことはきっと分かっている。それでもツガイを残して背を向けることなく、最後まで目の前の脅威へ牙を立てる。

 人間の理屈とは違う。善悪でもない。ただ生き残るために戦い、守るために食らいつく。それがエリシアで生きる野生なのだ。

 ならば——。


「……悪いな」


 ここで情けを掛ける方が危険だった。

 中途半端に手を緩めれば自分が死ぬ。自分が倒れれば、次はシャーロットが再び二頭を相手にすることになる。

 甘さは、そのまま誰かの死に繋がる。

 漆黒のルーキーは大型レールブレードを構え直した。

 今度は——機構を解放する。

 親指が柄付近の起動スイッチを押し込んだ。

 ——ヴゥン。

 低い駆動音。黒い刀身を覆う複数の装甲パネルが僅かに展開し、内部に組み込まれた加速機構が露出する。刀身から柄へ伸びる青白い発光ラインが順番に点灯し、脈動するような光が機関部へ集束していった。

 ——ヴゥゥゥゥン……!

 音が一段高くなる。刀身内部に設けられたレール機構へエネルギーが充填され、刃の基部から先端へ向かって青白い光が走った。

 大型レールブレードの本領。

 ただ振るうだけではない。使用者の斬撃に合わせ、刀身そのものへ瞬間的な加速を与える。

 カナタ自身の膂力。戦闘スーツの補助。シャーロットのシックスセンス。そして最後に、兵器そのものが生み出す加速を重ねる。


 《RAIL ASSIST——READY》


 リンクギアに稼働表示が浮かぶ。

 巨獣も感じ取った。目の前の人間が先ほどより危険な何かをしようとしている。


「グォォォォォォォォッ!!」


 残された力を振り絞るような咆哮を放ちながら踏み込んだ。

 青年も同時に走る。


「——ッ!」


 互いの距離が消える。

 バルクレッサーが残った牙を突き出しながら頭部を振り下ろす。

 その直前にカナタは一歩深く踏み込み、巨獣の頭部の横へ身体を滑り込ませた。

 狙うのは太い首。紫紺の女性の銃撃によって傷つき、激しい戦闘によって動きの鈍った今なら——届く。


「これで——!」


 腰を回し、肩を入れ、後は両腕を振り抜く。

 そして斬撃が最高速度へ達する寸前——レール機構が解放された。

 ——ギィンッ!!

 同時に青白い閃光が走った。彼が振るう速度をさらに追い越すように二メートル近い刀身が瞬間的に加速する。


「終わりだぁぁぁッ!!」


 一閃。

 抵抗は、あった。

 分厚い体毛。強靭な皮膚。筋肉。その奥の頑丈な骨格。刃を止めようとする全てを加速した大型レールブレードが力任せに突破する。

 ——ザンッ!

 次の瞬間、彼バルクレッサーの横を駆け抜けていた。数歩先で靴底を地面へ食い込ませ、長大な刀身を振り抜いた姿勢のまま止まる。

 背後では。


「…………」


 巨獣が立っていた。

 一秒。二秒。まるで何が起きたのか理解できていないようにその巨体は動かない。

 やがて——首元に一本の線が走った。

 そして、巨大な頭部が胴体から離れた。

 重い音を立てて地面へ落ちる。続いて支えを失った身体がゆっくりと傾き——。

 ——ズゥゥンッ!!


 大地を揺らしながら倒れ伏した。


 土埃が舞い上がる。


 周囲の草木が衝撃で大きく揺れ、その余波が静まった時には、バルクレッサーはもう動かなかった。


「……はぁ……はぁ……」


 カナタは荒く息を吐きながらゆっくりと身体を起こす。

 大型レールブレードの発光が徐々に弱まり、内部のレール機構も甲高い駆動音を収めていく。

 初めての実戦。初めての大型原生生物との近接戦闘。

 その相手を——倒した。

 だが達成感へ浸る時間はなかった。

 彼はすぐさま顔を上げる。

 まだ終わっていない。もう一頭。シャーロットが引き受けている無傷に近いバルクレッサーが残っている。

 青年はレールブレードを握り直し、銃声と咆哮が響く方向へ視線を向け、駆け出した。


———


 それからの決着は驚くほど早かった。

 一頭目の巨獣を漆黒のルーキーが仕留めたことで二頭による連携は完全に崩れた。残された個体は依然として脅威ではあったものの、今度はこちらが二人。しかも互いの能力と役割を理解した状態で戦えるとなれば先ほどまでとは条件がまるで違う。

 カナタが大型レールブレードを手に前へ出てその巨体と注意を正面から引き受ける。無理に攻撃を狙わず、突進を誘い、牙や前脚の間合いへ入らないよう足を使って立ち回る。

 そこへ紫紺の女性が後方から正確な射撃を重ねた。

 カナタへ意識を向ければ死角から銃弾が飛んでくる。シャーロットへ狙いを変えようとすれば今度は二メートル近い大型レールブレードを持つ青年が前へ出る。そして何より彼女のシックスセンスによる身体機能の活性化がカナタへ作用している。元々の高い身体能力をさらに押し上げられた彼が前衛として巨獣の動きを制限し、その隙を射撃に長けた彼女が拾う。

 先ほどバルクレッサーが見せた挟撃とは違う。こちらは明確な意思を持った連携だった。

 二人に分断されたことで巨獣は次第に行動の選択肢を失い、最後にはシャーロットの射撃によって体勢を崩したところへ彼が踏み込み、レール機構を作動させた一撃を叩き込む。

 そうして巨体が地面へ沈む。

 それきり動くことはなかった。

 想定外に次ぐ想定外。安全圏では遭遇しないはずの大型原生生物が現れ、それも二頭。仮想シミュレーションとは大きく異なる初めての実戦となったものの——カナタ・アキトとシャーロット・アッシュフォードにとっての初任務はひとまず二人揃って生還するという形で幕を下ろした。


「……ふぅぅ……」


 全てが終わったことを確認すると青年は近くに転がっていた倒木へ腰を下ろした。

 急激に身体が重くなったような感覚がある。シックスセンスによる身体補助が弱まった反動もあるのだろう。それ以上に緊張が解けたことで今まで意識の外へ追いやっていた疲労が一気に押し寄せてきた。

 両腕が重く、脚にも疲れが溜まっている。

 何より今さら心臓が早鐘を打っていた。


「……よくやったな、俺」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 大型原生生物を相手に近接戦闘を行い、その首をレールブレードで断った。改めて考えると自分でやったこととは思えない。

 そんな彼のもとへ足音が近づいてきた。

 顔を上げるとシャーロットが見える。その紫紺の長髪には戦闘で付着した細かな葉や土埃が残り、戦闘スーツにも何か所か擦れた跡が見える。それでも大きな負傷はなく、歩き方にも問題はない。

 彼女はカナタの前まで来るとしばらく無言で彼を見下ろした。


「…………」

「…………」

「……何だよ」

「別に」


 少し間を置いて。


「ま、及第点ね。よくやったわ」

「……あれで及第点なのか?」


 思わず聞き返してしまった。

 一人ならどうしようもなかった状況から二頭のバルクレッサーを撃破して生還。

 それで及第点。


「(満点取るには何したらいいんだよ……)」


 これ以上となれば果たしてどんな偉業を達成すれば彼女は素直に満点を出してくれるのだろうか。

 青年の疑問など知らず、彼女は左腕のリンクギアを確認する。


「休みたい気持ちは分かるけど、早めに帰還するわ。この異常事態は可能な限り早く共有するべきよ。対応が遅れれば次の犠牲者が出るかもしれない」


 その一言でカナタの表情から僅かに気が抜けた様子が消えた。


「……そうだな」


 立ち上がりながら、倒れた二頭の巨獣を見る。


「安全圏にあれが出てくるなら行動範囲を制限してる意味そのものが怪しくなる」

「ええ、少なくとも現在設定されている危険度をそのまま信用して行動するのは危険ね」


 本来バルクレッサーの生息域はフロンティアセクターA・B・Cより外側。

 それが安全圏の内部へ入り込んでいた。

 しかも一頭ではない。これは偶然迷い込んだ一個体として簡単に片付けていい問題ではない。

 安全圏が安全ではない。その事実が正式に確認されれば今後の惑星エリシアにおける調査計画そのものへ影響する可能性がある。ルーキーの活動範囲はもちろん、各地域の危険度評価、任務の推奨人数、携行装備、救難体制——見直すべきものはいくらでも出てくるだろう。

 二人は必要最低限の休息を済ませると、リンクギアを用いて現場情報を記録した。

 巨獣の出現座標と二頭で行動していた事実。交戦記録。

 そして可能な範囲で生体サンプルを採取する。体毛や爪、牙の一部など、後の分析に利用できる素材を専用容器へ収め、二頭の死骸についても位置情報と映像記録を残した。

 もちろん本来の依頼品であるルミナリスも無事だ。

 全てを確認した二人は来た道を引き返し——アステリアへの帰還を果たした。


———


 帰還後もすぐに解散とはならなかった。むしろ現地での戦闘よりその後の方が細かな作業は多かったかもしれない。

 まずAEGIS側へ提出する活動記録。安全圏内部におけるバルクレッサーとの遭遇報告。二頭の個体が連携するような行動を見せたこと。救難信号を発した隊員たちの状況。戦闘経過。採取した生体サンプル。

 リンクギアに蓄積された映像や位置情報も添付し、可能な限り正確に共有する。特に安全圏内での危険種出現については通常の任務報告とは別に優先度を引き上げて処理されることとなった。

 そして最後に本来の目的。

 依頼者へ採取したルミナリスを引き渡す。

 保存状態にも問題はなく、指定された条件を満たしたサンプルであることが確認され、正式に依頼達成の処理が行われた。

 報酬の受領が確定し、そこでようやく——。


「終わったぁ……」


 青年は心の底から息を吐いた。

 長かった。実際には一日の出来事でしかない。それなのに初めてエリシアへ降り立った時の感動がもう随分昔の出来事に感じられる。

 隣ではシャーロットがリンクギアに表示された活動記録を睨んでいた。


「降下から帰還まで約四時間半……」


 何やら小声で呟いている。


「正式な報告処理と依頼者への納品。それから報酬確定までを含めれば……丁度六時間前後。想定外の戦闘時間と救難対応を差し引けば……いえ、でも次回から帰還後の報告時間も予定へ組み込んで——」

「…………」


「移動速度については悪くない。ルミナリスの採取時間も許容範囲……バルクレッサーとの遭遇がなければ——時間以上短縮できた可能性が——」


 終わらない。ずっと喋っている。どうやら今回の任務に要した時間を早くも次回以降の計画を組み立てるための指標にするつもりらしい。


「(真面目だなぁ……)」


 彼は半ば呆れながらもその横でようやく安心して肩の力を抜いた。

 その時だった。


「あっ!」


 前方から声が飛んできた。


「……ん?」


 見れば数人のAEGIS隊員がこちらへ歩いてくる。

 見覚えがあった。今日エリシアで救難信号を発していたルーキーたちだ。

 そのうち一人がカナタに気付くなり足を速め、真っ直ぐこちらへやって来る。


「さっきはありがとう!」

「え?」

「あんたが来てくれなかったら本当に駄目だった。助かったよ」

「あ、ああ……」


 真正面から礼を言われると途端にどう反応すればいいのか分からなくなった。

 漆黒のルーキーは照れ臭そうに頬を掻く。


「いや……無事だったなら、それでいいよ」


 するとそれを皮切りに残りの面々まで寄ってきた。


「なあ! 結局あの巨獣倒したのか!?」

「え?」

「あれだよ! バルクレッサー!」

「あ、ああ。シャーロットと協力して、なんとか」

「マジかよ!?」


 一気に声が大きくなる。


「凄いな! しかも見たところほとんど怪我してないじゃないか!」

「同じルーキーなんだろ!?」

「やっぱりマスターライセンス持ちと組んでると違うのか?」

「ま、まあ……そんなところだよ」


 どう答えれば角が立たないか分からず、カナタは曖昧に笑った。

 実際彼女がいなければ勝てなかった。

 最初の一頭をあそこまで消耗させたのも彼女。自分の身体能力を引き上げたのも彼女。もう一頭を引き受けてくれたのも彼女だ。しかしカナタがそう説明しようとするより早く、ルーキーたちから次々と言葉が飛んでくる。


「いや、それでも前に出るのは無理だって!」

「あの大きさだぞ!?」

「俺、姿見た瞬間に頭真っ白になったからな!」

「近接武器で戦ったって本当か!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれって!」


 気付けば囲まれていた。

 肩を叩かれ、質問を浴びせられ、戦闘のことを聞かれ、助けた側である青年の方が困り果てる。

 そうしてしばらく。


「——あら?」


 聞き慣れた声が後ろから飛んできた。


「終わったの? ヒーローさん?」

「…………」


 ようやく解放されたカナタが振り返る。

 そこにはリンクギアを閉じた紫紺の女性が立っていた。


「……よしてくれよ。まだあんまり実感ないんだから」

「なら——」


 シャーロットはカナタの背後へ視線を向ける。

 そこには今も二メートル近い大型レールブレードが収められている。少し前までエリシアの森林であの巨獣と真正面から打ち合っていた兵装。


「ちゃんと噛み締めて、自覚することね」


 いつもの刺々しさを残しながらもその言葉には先ほどの「及第点」とは少し違う響きがあった。


「貴方は自分の力でバルクレッサーを討伐した」


 紫紺の瞳が、真っ直ぐ彼を見る。


「それも——その背中のレールブレードでね」

「…………」


 カナタは答えられなかった。

 ただ僅かに視線を逸らしながら、背中にある巨大な武器の重さを改めて感じる。

 仮想シミュレーションの記録ではない。訓練の成績でもない。

 今日自分は初めて惑星エリシアへ降り立ち、誰かを助け、仲間と肩を並べ、そして——本物の脅威を自分の手で退けた。

 ようやくその事実だけが少しずつ実感となって青年の中へ沈み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。