宿屋の親父、頑張って
それから、カイは、アストリッドの肩に手を置いて、優しく放した。
「じゃあ、宿屋の親父、頑張って。」
アストリッドは喉がカラカラになって「はい」という返事も出せないまま、
診療所の扉を出て、
澄んだ朝の空気の中、通りを、まるで浮かんでいるかのようにフワフワと歩いて宿屋に戻った。
宿屋に異常はなかった。
いつものカウンター、
いつものソファ、
いつものカップにポット……
(お茶を準備して、掃除して、
チェックアウトのお客様に対応して……)
しかし、最後のカイの抱擁を思い出した瞬間、
アストリッドはソファに倒れ込んで、
クッションに顔を埋めた。
「ゲルツェン先生……」
クッションから覗く青い目は潤んで輝き、
髪の付け根まで林檎のように赤く染まっていた。
これまでのお話▼
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