カイの抱擁
夫婦が扉を出て行った。
「ほんまや、アスティ、宿屋置いて来てたんやんな……ごめん、全然考えてへんくて……」
アストリッドは首を横に振った。
「わたくしも、すっかり宿屋のことを忘れておりましたわ。」
二人で顔を見合わせてフッと笑う。
「でも、そろそろ朝用のお茶を準備する時間ですからお暇しますわ。」
アストリッドは親父姿のまま、優雅な仕草で礼をする。
「……ゲルツェン先生、くれぐれもお身体ご自愛くださいませ。」
そして、扉に向かおうとした瞬間、
アストリッドはカイの胸に抱き寄せられていた。
(えっ……)
「……僕、足こんなんやったし、
アスティおらんかったら、あの子を生かされへんかったと思う。」
薄暗い待合室で、
カイが言葉を発するたび、
カイの固い胸からアストリッドに振動が伝わる。
「ほんまに、ありがとう。」
カイの長い腕にグッと力がこもる。
……この抱擁に小さな命を乗せているかのように。
これまでのお話▼
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