↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/165

第4章 第90話 採掘跡に残る異変

 街道を外れて山道へ入ってから、空気の匂いが少しずつ変わっていた。


 湿った土と木々の香り。その中へ、鉄を削ったような独特の臭いが混じっている。


「ユウトお兄ちゃん。この先、やっぱり鉱石の匂いが強いよ」


 先頭を歩いていたフィーナが振り返った。白い耳がぴんと立ち、鼻先が何度も小さく動いている。


「それだけじゃない気がする。なんていうか……変な匂いも混じってる」


「魔物か?」


「うーん……魔物の匂いはする。でも、それとは別」


 フィーナ自身にも正体までは分からないらしい。


 俺は足を止め、前方へ【鑑定】を意識した。


 木々の向こうには、護衛対象である荷馬車が向かう予定の採掘村がある。そのさらに北側には、何年も前に閉鎖された古い採掘跡が存在すると聞いていた。


 周辺の土壌、岩、草木へ順番に【鑑定】をかける。


【山岳土壌】

【状態:正常】

【含有成分:鉄分やや多】

【異常:なし】


【灰岩】

【品質:普通】

【状態:風化】

【異常:なし】


 ここまでは問題ない。


 だが、道端に転がっていた小さな黒い石へ視線を向けた瞬間、表示が変わった。


【鉄鉱石片】

【品質:低】

【状態:微弱な魔力付着】

【付着魔力:性質不明】

【原因:解析不能】


「またか……」


 思わず呟く。


「何か見えましたか?」


 隣へ来たエリシアが石を覗き込んだ。


「魔力が付着してる。ただ、どういう魔力なのか分からない」


「ユウトでもですか?」


「うん」


 エリシアの眠たげな目が、わずかに鋭くなる。


 彼女も石へ手をかざした。


「……確かに、薄いですね。魔力感知では存在そのものを見落としそうです。属性も判別できません」


「自然に残った魔力じゃなさそう?」


「断定はできません。ただ、鉱脈由来の魔力とは流れ方が違います」


 俺は石を布へ包み、収納袋へ入れた。


 調べたい。


 かなり気になる。


 けれど、今日は調査依頼ではない。


 俺たちが受けているのは、商人と荷馬車を採掘村まで無事に届ける護衛依頼だ。


「採掘跡へ寄って調べるのはやめよう」


 そう告げると、レティシアが意外そうに眉を上げた。


「おや。てっきりユウトなら、そのまま突っ込むかと思ったよ」


「俺だって依頼の優先順位くらい考えるよ」


「昔なら怪しいものを見つけた瞬間に目を輝かせてただろ?」


「今も気にはなってるけど」


 否定できない。


 フィーナがくすくす笑った。


 だが、その直後だった。


 彼女の耳がぴくりと動く。


 笑顔が消えた。


「待って」


 フィーナが手を上げる。


 全員が即座に足を止めた。


「前から来る。大きいのが一匹。速い」


「距離は?」


「まだ遠い。でもこっちに向かってる」


 俺も【気配察知】を広げる。


 確かにいる。


 木々の奥を、かなりの速度でこちらへ近づいてくる気配。


 さらに【鑑定】を重ねた。


【アイアンボア】

【危険度:C相当】

【推定生存年数:七年】

【特徴:鉄分を多く含む植物や鉱物を摂取し、皮膚を硬質化させる魔物】

【通常危険度:D】

【状態:興奮/異常成長】

【異常成長要因:解析不能】

【弱点:腹部、眼球、関節部】


「アイアンボアだ。普通より一段階くらい強くなってる」


「原因は?」


「分からない」


「またかい」


 レティシアが盾を構えた。


 護衛していた商人たちの表情が強張る。


「荷馬車を下げてください!」


 セレスが御者へ声を飛ばした。


 俺は周囲を見渡す。


 左は急斜面。右は岩壁。


 荷馬車を大きく移動させる余裕はない。


「レティシア、正面。アイリスは右。エリシアは速度を落として。フィーナは左から牽制。セレスは荷馬車を頼む」


「任せな!」


「承知いたした!」


「分かりました」


「フィーナに任せて!」


 俺は最後に言った。


「俺は抜けたところを潰す」


 次の瞬間、木々が大きく揺れた。


 枝をへし折りながら、巨大な猪が飛び出してくる。


 黒灰色の体表は金属のような光沢を帯び、普通の猪より二回り以上大きい。


「来るぞ!」


 地面が震えた。


 レティシアが大盾を地面へ固定する。


「さあ来な!」


 アイアンボアが正面から激突した。


 轟音。


「ぐっ……!」


 レティシアの足元が土を抉り、後方へ半歩ずれた。


 盾の表面が大きくへこむ。


「レティシア!」


「問題ない! けど、こいつ本当にDランクかよ!」


「今はC相当だ!」


「それを先に実感させるな!」


 さらにアイアンボアが首を振る。


 レティシアごと盾を押し飛ばそうとするほどの力だった。


「拘束します」


 エリシアが杖を向けた。


「アースバインド」


 地面から複数の土の帯が伸び、四肢へ絡みつく。


 通常のアイアンボアなら、これで十分止まるはずだった。


 だが。


「ブモオオオッ!」


 一本。


 二本。


 土の拘束が力任せに裂けた。


 エリシアの目が見開かれる。


「……予想以上ですね」


 俺も同意する。


 単純に体が大きくなっただけではない。


 筋力も、皮膚の硬さも、明らかに通常個体の範囲を超えている。


「フィーナ!」


「うん!」


 左から飛び出したフィーナが小石を投げた。


 狙いは眼球ではない。


 鼻先。


「こっちだよ!」


 アイアンボアが反射的に顔を向ける。


 フィーナは追撃せず、すぐに木の陰へ飛び込んだ。


 その判断は正しい。


 真正面から相手をする必要はない。


「アイリス!」


「承知!」


 視線が逸れた一瞬。


 アイリスが踏み込む。


 狙うのは前脚の関節。


「はあっ!」


 刃が硬い皮膚の隙間へ滑り込んだ。


 血が散る。


 アイアンボアが大きく体勢を崩した。


 俺はそこへ踏み込む。


 最初は中級魔法で十分だと思っていた。


「フレイムブラスト!」


 炎が腹部へ直撃する。


 爆発。


 普通の個体なら致命傷になる威力だった。


 だが煙の中から、アイアンボアが立ち上がった。


「まだ動くのか」


 皮膚の一部は焼け落ちている。


 それでも倒れない。


【HP:残存】

【状態:重傷/興奮】

【硬質化:通常個体比大幅上昇】


 異常だ。


 なら、出し惜しみする理由はない。


「みんな、離れて!」


 俺は魔力を絞る。


 威力は高く。


 範囲は極限まで狭く。


 荷馬車にも森にも被害を出さない。


「ブルーフレア」


 青白い炎が一本の槍のように走った。


 アイアンボアの腹部だけを正確に貫く。


 一瞬遅れて巨体が崩れ落ちた。


 周囲へ炎は広がらない。


 地面さえほとんど焦げていなかった。


「……相変わらず、上級魔法の使い方がおかしいですね」


 エリシアが呟く。


「ちゃんと範囲は絞ったよ?」


「そこではありません」


 何が問題なのだろう。


 帝級は使っていない。


 十分自重していると思う。


 アイリスが剣を収めながら、苦笑していた。


「ユウト殿。その認識については、いずれ皆で話し合う必要がありそうでござるな」


「え?」


「あとでです」


 セレスまで微笑んでいる。


 納得できない。


 ともかく、先に魔物を調べる。


 俺は倒れたアイアンボアへ近づき、【鑑定】を使った。


【アイアンボア】

【状態:死亡】

【通常危険度:D】

【死亡時危険度:C相当】

【異常成長:確認】

【成長期間:通常推定より著しく短い】

【原因:解析不能】


 やはり分からない。


 体内の魔力循環も確認する。


 心臓。


 筋肉。


 硬質化した皮膚。


 胃の内容物。


 そして魔石。


【アイアンボアの魔石】

【品質:中】

【状態:魔力構造に微細な乱れあり】

【異常魔力:微量】

【性質:解析不能】


 先ほどの鉱石と似ている。


「同じだ」


「採掘跡で拾った石と?」


 エリシアが聞く。


「かなり近い。でも、まだ同じものだとは断定できない」


「持ち帰って比較するべきですね」


「うん」


 そこでフィーナが、採掘跡の方角を見た。


 耳が少し伏せられている。


「ユウトお兄ちゃん」


「どうした?」


「フィーナ、あっち気になる」


「俺も」


「でも……今日は行かない方がいいと思う」


 俺は少し驚いた。


 フィーナは採掘跡を見つめたまま続ける。


「まだ荷馬車を村まで送ってないし、この大きい猪以外にもいるかもしれないから。調べるなら、ちゃんと準備してから来た方がいいよ」


 誰かの指示ではない。


 自分で状況を考え、自分で出した判断だった。


「そうだね」


 俺が答えると、フィーナの耳が少しだけ立った。


「えへへ。じゃあ、まず護衛を終わらせよ!」


「うん」


 俺たちは討伐証明に必要な部位と魔石を回収し、荷馬車を再び進ませた。


 採掘村へ到着した頃には、空が赤く染まり始めていた。


 村の入口で待っていた住民たちは、荷馬車を見るなり安堵した表情を浮かべる。


 だが、アイアンボアの話をすると、その顔色が変わった。


「また出たのか……」


 老人の一人が漏らした言葉を、俺は聞き逃さなかった。


「また?」


 尋ねると、老人は一瞬迷ってから古い採掘跡の方角を見た。


「ここ最近なんだ。あっちの山から下りてくる魔物が、妙に大きくなってる」


「いつ頃からですか?」


「ひと月……いや、もっと前からかもしれん。最初は気のせいだと思ってた」


 俺は仲間たちと顔を見合わせた。


 フィーナの耳が緊張したように動く。


 エリシアも何も言わず、山の方角を見ていた。


 通常より早く成長した魔物。


 正体の分からない微弱な魔力。


 そして、閉鎖された採掘跡。


 まだ材料が足りない。


 何が起きているのかも分からない。


 けれど一つだけ確かなことがあった。


 この山では、普通の魔物被害だけでは説明できない何かが起き始めている。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。