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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第3章

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第3章 第81話 完成させるのは遊ぶ人

護衛依頼で訪れた村には、大きな建物こそなかったが、村の中央に広い空き地があった。


昼を過ぎた頃、そこには何人もの子どもたちが集まっている。


「もう一回やって!」


「次はもっと高くして!」


「わ、待って待って! ぶつかるよー!」


子どもたちの輪の中心で、フィーナが両腕を広げて慌てていた。


その足元には、大小さまざまな木片が転がっている。


もともとは、村の柵を修理した際に余った端材だった。


使い道もなく薪にする予定だったらしいが、それを見たユウトが、前世で知っていた遊びを思い出した。


積み木。


ただ木を適当な大きさへ切り分けただけの、単純な玩具だ。


けれど作り始めてみると、思っていたより奥が深かった。


「角はもう少し丸めた方がいいな」


レティシアが小さな木片を手に取り、指先で縁をなぞる。


「子どもが使うなら、落とした時より握った時の方が危ない。尖ってると手を切る」


「なるほど」


ユウトは【鑑定】を使った。


【木製玩具用部材】


【素材:乾燥広葉樹】


【状態:良好】


【危険要因:角部への強い接触で軽微な裂傷の可能性】


【改善方法:角部を丸く研磨】


表示された内容は、レティシアの指摘と同じだった。


ユウトがそれを口にすると、レティシアは鼻を鳴らす。


「だろ? こういうのは数値を見るだけじゃ分からない部分もあるんだよ」


「うん。だから助かる」


「……素直に言われると調子狂うね」


そう言いながらも、レティシアの口元は少し緩んでいた。


彼女は木工を本職としているわけではない。


それでも鍛冶師として、手に持つ物の重さや形、安全性には敏感だった。


ユウトも【道具制作上達】によって加工技術そのものは急速に身につけている。


だが、実際に長年物作りを続けてきた者の感覚まで、自動的に手に入るわけではない。


隣ではセレスが、出来上がった木片を布で拭いていた。


「表面も滑らかにした方がいいですね。ささくれが残っていると危ないですから」


「じゃあ仕上げは細かい研磨にしよう」


「はい。あと、小さい子が口に入れられる大きさの物は避けた方がいいと思います」


「そこまで見るのか」


レティシアが感心したように言う。


セレスは微笑んだ。


「治療する側としては、怪我をしない方が一番ですから」


少し離れたところでは、アイリスが完成した長方形の積み木を二本重ね、その上にさらに一本載せていた。


「ふむ」


三本。


四本。


五本。


慎重に重ねていく。


「アイリス、何してるの?」


フィーナが首を傾げる。


「均衡を見ているのでござる」


「遊んでるんじゃないの?」


「これは確認でござる」


真剣な顔だった。


そのまま八段目を載せる。


ぐらり。


積み木の塔が揺れた。


アイリスの目が鋭くなる。


「まだでござる」


九段目。


さらに揺れる。


十段目へ手を伸ばしたところで、フィーナが横から顔を寄せた。


「わあ、高い!」


「フィーナ殿、動かぬように」


「これ、もっと上までいけるかな?」


「無論。己の限界まで――」


フィーナの尻尾が、塔の横をかすめた。


ぱたん。


一番下の木片がずれる。


次の瞬間、塔は一気に崩れた。


「あっ」


「…………」


アイリスが固まる。


フィーナも固まった。


少しの沈黙の後、フィーナが言った。


「もう一回作ろ!」


「……承知いたした」


肩を落としながら積み木を拾うアイリスを見て、ユウトは笑いをこらえた。


その近くでは、エリシアが別の遊び方をしていた。


同じ大きさの木片を横一列に並べている。


「一、二、三……」


村の子どもが、エリシアの指先を目で追っていた。


「五個ですね」


「うん!」


「では、こちらを二つ足したら?」


子どもが木片を数える。


「……七!」


「正解です」


「もう一回!」


エリシアは眠そうな目のまま、小さく頷いた。


「形だけではなく、数を覚えるのにも使えますね」


その言葉に、ユウトは視線を向けた。


「数を?」


「ええ。大きさを比べたり、同じ形を集めたり、数えたり。遊び方を決めすぎなければ、いろいろ使えそうです」


ユウトは足元の木片を一つ拾った。


四角い木片。


それ自体には何の仕掛けもない。


押せば音が鳴るわけでもない。


魔力を流して動くわけでもない。


ただの木片だ。


なのに、子どもたちは飽きる様子もなく遊んでいる。


塔を作る子。


横に並べる子。


家のような形を作る子。


誰かが作った物を真似する子もいれば、まったく違う並べ方をする子もいる。


「最初は、形を何種類か決めようと思ってたんだけど」


ユウトが呟くと、レティシアが振り返った。


「決めすぎない方がいいね」


「やっぱり?」


「ああ」


レティシアは子どもたちを見る。


「完成品を渡すんじゃない。使う奴が自分で完成させるんだ」


その言葉に、ユウトは木片へ視線を落とした。


なるほど。


積み木は、作った時点では完成していない。


遊ぶ人が積み、並べ、崩し、また作ることで、初めて形になる。


「面白いな」


「何がだい?」


「作った側が、完成形を決めなくていいってこと」


レティシアは少し考え、それから笑った。


「職人としては妙な話だけどね。でも、玩具ならそれでいいのかもな」


その時だった。


「ユウトお兄ちゃん! 見て!」


フィーナの声が響く。


振り返ると、フィーナと数人の子どもたちが積み木を囲んでいた。


そこに作られていたのは、奇妙な形だった。


細長い木片を横へ伸ばし、その下に短い木片を何本も付けている。


後ろ側には三角形に積んだ部分まである。


「何を作ったの?」


ユウトが尋ねる。


子どもの一人が得意そうに胸を張った。


「空を飛ぶ船!」


「空を?」


「うん! ここが翼で、ここに乗るの!」


ユウトは思わず、その形を見つめた。


船なら、この世界にもある。


鳥もいる。


空を飛ぶ魔物もいる。


けれど、目の前の子どもは、それらを組み合わせて自分なりの物を作っていた。


ユウトは教えていない。


こんな形にしろとも言っていない。


同じ木片を渡しただけだ。


それなのに、子どもの頭の中には、ユウトが用意していなかった形が生まれている。


胸の奥が、わずかに温かくなった。


「いいね」


「ほんと?」


「うん。すごくいい」


子どもが嬉しそうに笑う。


隣でフィーナも胸を張った。


「フィーナも手伝ったんだよ!」


「どこを?」


「ここ!」


指差したのは、なぜか船の一番上に載っている小さな塔だった。


「これは?」


「お肉を焼くところ!」


「空を飛びながら?」


「うん!」


「危なくないかな……」


「魔法でなんとかする!」


「そこは魔法なんだ」


ユウトが笑うと、周囲の子どもたちも笑った。


その直後、別の子が積み木へ手を伸ばす。


「次はもっと大きいの作ろう!」


「あ、待って! 今の船が――」


誰かの腕が当たり、空飛ぶ船が崩れた。


木片がぱらぱらと地面へ散らばる。


一瞬だけ静かになる。


だが、フィーナはすぐにしゃがみ込んだ。


「大丈夫!」


木片を一つ拾う。


「崩れたら、また作ればいいよ!」


子どもたちも次々と木片を拾い始めた。


「今度はもっと大きくする!」


「翼二つにしよう!」


「塔も増やそう!」


さっきまでとは違う形が、もう作られ始めている。


ユウトはその様子を黙って見ていた。


一度壊れても、そこで終わりではない。


やり直してもいい。


違う形にしてもいい。


誰かと一緒に作ってもいい。


遊び方は一つではない。


正解も一つではない。


――こういうものも、知識になるのかもしれない。


文字や計算だけではない。


試して、失敗して、工夫する。


自分で考える。


誰かの考えを見て、さらに別の形を思いつく。


今すぐ何か大きな意味があるわけではない。


それでも、この光景を覚えておこうとユウトは思った。


「ユウトさん?」


セレスに呼ばれ、ユウトは顔を上げる。


「どうしました?」


「ううん。ちょっと面白いことを思いついただけ」


「また何か作るんですか?」


「まだ分からない。でも……遊びながら覚えるっていうのも、ありなのかなって」


エリシアが興味を示した。


「興味深いですね」


レティシアも腕を組む。


「その前に、まずはこの積み木をちゃんと作れる形にしないとな」


「うん」


ユウトは頷いた。


まだこれは、小さな村で生まれた、ただの木片の玩具だ。


けれど。


その小さな木片を囲み、子どもたちは自分たちで次の形を考えていた。


そして遥か上空。


地上からは誰にも見えない神界の片隅で。


長い年月、ほとんど消えかけていた小さな光が――ほんのわずかに、力を取り戻した。

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