表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/90

第3章 第75話 六人の役割

 森を抜けて城壁都市へ戻った頃には、空が茜色に染まくり始めていた。


 救助した薬草採取人を連れたまま冒険者ギルドへ入ると、受付にいた職員がすぐに立ち上がった。


「見つかったんですね!」


「はい。足を怪我していますが、命に別状はありません」


「よかった……!」


 職員は胸を撫で下ろし、別の職員へ治療院への連絡を頼む。


 薬草採取人は椅子へ座らされる前に、何度もフィーナへ頭を下げていた。


「本当にありがとう。この子が来てくれなかったら、俺はあのまま……」


「えへへ……」


 フィーナの耳が照れたように横へ倒れる。


「ユウトお兄ちゃんたちが魔物を倒してくれてたから、フィーナは探せたんだよ」


「それでも、見つけたのはフィーナだろ」


 ユウトが言うと、フィーナがこちらを見た。


「俺たちが戦ってる間に匂いを追って、倒木のところまで見つけた。フィーナが助けたんだよ」


「……フィーナが?」


「うん」


 自分の功績だと言われることに、まだ少し慣れていないらしい。


 それでもフィーナはしばらく考えたあと、尻尾をゆっくり揺らした。


「そっか。じゃあ……フィーナ、ちゃんと助けられたんだね」


「そういうこと」


「えへへ!」


 今度の笑顔には、さっきまでとは違う誇らしさが混じっていた。


 報告を終えると、ユウトはブラッドエイプの魔石を受付へ提出した。


「通常よりかなり大型化していました。【鑑定】では異常成長と出たんですが、詳しい原因までは分かりませんでした」


「分かりました。過去の討伐記録も確認して、専門の鑑定士へ回します」


 職員は魔石を慎重に箱へ収める。


「結果が分かりましたら、皆さんにもお知らせします。それと――」


 職員が一枚の書類へ視線を落とした。


「明日から調査依頼として出す予定なのですが、近郊の低級ダンジョンで罠の作動数が急に増えているそうです」


「罠が?」


「はい。魔物そのものは低級ばかりですが、怪我人が続いています。原因調査と安全確認が目的です」


 まだ正式な依頼票になる前らしく、職員は書類を束へ戻した。


「皆さんなら適任かと思いましたが、今日戻ったばかりですし、今すぐ決めていただく必要はありません」


「ありがとうございます。みんなと相談します」


 ギルドを出た頃には、日はほとんど沈んでいた。


 宿屋へ戻り、夕食を済ませる。


 いつものように一階では冒険者たちが食事をし、片隅では宿の主人が客とリバーシをしていた。


「そこ置いたら全部ひっくり返されるぞ」


「えっ?」


「ほら」


「ああっ!」


 盤を囲んだ笑い声を聞きながら、ユウトたちは自分たちの卓へ集まった。


 今日の森での戦いを振り返るためだ。


「今日は、前よりかなり動きやすかったでござる」


 アイリスが最初に口を開く。


「ユウト殿が全部倒そうとしなかったゆえ」


「……やっぱりそこ?」


「そこですね」


 エリシアまで即答した。


「そんなに酷かったかな……」


「ユウトお兄ちゃん、敵を見るとすぐ前に行くもん」


「強いから仕方ねえっちゃ仕方ねえけどな」


 レティシアが笑う。


「でも今日みたいな方が、あたしはやりやすい。自分が何をすりゃいいか分かるからな」


 その言葉にユウトは頷いた。


「俺もそう思った。だから、これからはもっと役割をはっきりさせたい」


「役割ですか?」


 セレスが首を傾げる。


「うん。絶対にそれしかやらないって意味じゃないけど、最初に誰が何を見るか決めておけば動きやすいと思う」


 ユウトはまずフィーナを見る。


「フィーナは索敵と偵察。それから罠や隠し通路を見つける役」


「フィーナ、先頭?」


「先頭とはちょっと違うかな。必要なら俺たちより先へ行って、危険がないか調べてもらう」


「先に行くなら先頭じゃないの?」


「……確かに」


 ユウトが言葉に詰まると、エリシアが淡々と補足した。


「戦闘が始まった時に最前列で攻撃を受ける役ではない、という意味ですね」


「あ、そっか!」


 フィーナが納得して耳を立てる。


「じゃあ、危ないのを一番最初に見つける!」


「頼む」


「任せて!」


「拙者は前衛でござるな」


 アイリスは迷わなかった。


「うん。特に強い敵を止めてもらう」


「承知いたした」


「私は後ろから魔法と結界ですね」


「エリシアにはそれと、魔法関係の仕掛けも見てもらいたい」


「興味深いものなら歓迎します」


「危なくない範囲でね」


「善処します」


 その返事は少し不安だった。


「私は治療と補助ですね」


 セレスが微笑む。


「戦闘中だけじゃなくて、怪我人が出た時はセレスの判断を優先したい。今日もレティシアの腕の状態、俺より先に判断してたし」


「……私の判断でいいんですか?」


「むしろ、そのためにセレスがいるんだと思う」


 セレスは少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それから嬉しそうに頷いた。


「分かりました。無茶をした人を止めるのも役目に入れておきますね」


「それ、主に俺?」


「主にユウトです」


 即答された。


「で、あたしは盾役と装備だな」


「うん。前を守るのと、武器や防具の状態を見るのはレティシアに任せたい」


「任せな!」


 五人の役目は、驚くほど自然に決まった。


 問題は――。


「ユウトお兄ちゃんは?」


 フィーナの一言で、全員の視線が集まる。


「俺は……」


 剣も使える。


 魔法も使える。


 索敵も治療も、罠解除も鍛冶も、覚えればできる。


 だからこそ、どれか一つを担当すると決めるのは違う気がした。


 今日の戦いを思い出す。


 フィーナへ捜索を任せた。


 アイリスへ攻撃を任せた。


 レティシアへ防御を任せた。


 エリシアへ魔法を任せ、セレスへ治療を任せた。


 自分がしていたのは――。


「全体を見る」


「全体?」


「敵を【鑑定】して、分かったことをみんなに伝える。それから、足りないところがあったら俺が入る」


 アイリスが腕を組む。


「なるほど。前衛が足りなければ剣を振り、魔法が必要なら魔法を使う」


「負傷者が多ければ私を手伝う」


「罠解除に人手が要ればフィーナのところへ来る!」


「装備が壊れたら、あたしの補助もできるってわけだ」


 エリシアが小さく頷いた。


「解析し、全体を見て、必要な場所へ入る。ユウトらしいですね」


「万能補助でござるな」


「補助って言われると弱そうなんだけど……」


「なら、何でも屋だな!」


「もっと弱そうになったよ」


 卓を囲んで笑いが起きる。


 けれど、その笑いの中でユウトには自分の役割がはっきり見えた。


 何でも自分でやるのではない。


 何でもできるからこそ、仲間が力を発揮できるように全体を見て、必要な場所だけを埋める。


 それが自分の《万能戦闘》なのだ。


「じゃあ、これで決まりだね」


 フィーナが嬉しそうに言う。


「六人でやること、ちゃんとできた!」


「そうだな」


 ユウトは五人を見回した。


 ただ一緒に旅をしているだけではない。


 少しずつ、本当のパーティーになっている。


 その実感があった。


「そういえば」


 ユウトはギルドで聞いた話を思い出す。


「明日から、低級ダンジョンの調査依頼が出るらしい。罠が増えて怪我人が出てるって」


 フィーナの耳がぴんと立つ。


「罠?」


「魔法の仕掛けもあるかもしれませんね」


 エリシアの目にも急に興味が宿った。


「負傷者が出ているなら、治療の準備も必要ですね」


「狭い場所なら盾の使い方も変わるな」


「拙者も、連携を試すにはよい機会と思う」


 五人がそれぞれ、自分の役割から依頼を考えている。


 その光景を見て、ユウトは笑った。


「じゃあ、明日の朝、依頼を確認してみよう」


「うん!」


 今日決めた役割が、本当に六人の力になるのか。


 その答えを確かめる場所は、すでにすぐ近くで彼らを待っていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ