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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第52話 救える場所へ

 毒の発生源について報告を終えると、冒険者ギルドの受付職員は何度も頷きながら記録へ書き込んでいった。


 街道で倒れていた男性を襲った毒。咬傷に残っていた痕跡。フィーナが追った匂い。そして、その先で見つけた原因。


 依頼として受けた仕事ではなかったが、同じ被害が出る可能性がある以上、伝えない理由はない。


「分かりました。街道を利用する冒険者や商人にも注意を呼びかけます」


「できれば、毒に咬まれた時の症状も一緒に伝えてもらえませんか?」


「症状も、ですか?」


「はい。原因の魔物を知らなくても、息苦しさや手足の異常が出た時点で毒を疑えれば、治療が早くなると思うので」


 ユウトがそう答えると、受付職員は少し驚いたあと、すぐに新しい欄を書き足した。


 倒した。それで終わりではない。


 今回の毒について自分たちが知ったことを共有すれば、次に同じことが起きた時、誰かが助かる可能性が上がる。


 知っているだけでは足りない。


 使って、伝えて、初めて役に立つ。


「これで、ひとまず大丈夫かな」


「うん! もう誰も咬まれないのが一番だけど、もし咬まれても早く分かるね!」


 フィーナの白い尻尾が嬉しそうに揺れる。


「備えがあるだけでも違うでござろう」


「原因まで確認できたのは大きいですね。記録が残れば、次に似た事例が起きた時の比較材料にもなります」


 アイリスとエリシアもそれぞれ頷いた。


 そこでユウトは、もう一人のことを思い出す。


「セレスにも報告しておこう」


 毒に侵された男性は、町へ戻ったあと治療院へ運ばれている。


 危険な状態は脱していたが、完全に回復したわけではない。あの場で解毒薬を調合したセレスなら、今も経過を見ているはずだった。


 四人で治療院へ向かうと、予想通りセレスは患者のそばにいた。


 男性の顔色は街道で見た時より明らかに良くなっている。呼吸も落ち着き、額にはもう苦しそうな汗が浮かんでいない。


 セレスは脈を確認し、呼吸の様子を見てから、ようやくユウトたちへ気付いた。


「あ、皆さん。戻られたんですね」


「うん。原因も確認できたよ」


 ユウトが調査結果を説明すると、セレスは真剣な表情で耳を傾けた。


 魔物そのものの特徴だけでなく、どこに潜み、なぜ街道付近まで現れたのか。そして今後、同様の咬傷を見た場合に注意すべき点。


「なるほど……。それなら、この方の症状とも合いますね」


「ギルドにも伝えてきた。症状も含めて注意を出してくれるって」


「そこまで?」


 セレスが目を丸くした。


「同じ毒で苦しむ人が出るかもしれないから」


 ユウトとしては、それだけだった。


 しかしセレスはすぐには答えなかった。


 眠っている男性へ視線を向け、それから自分の手に目を落とす。


「私、今日は薬草を集めるために町の外へ出ていたんです」


「薬草?」


「はい。治療院で使う分が少なくなっていましたから。それで帰る途中、この方を見つけました」


 それなら、あの街道で出会ったことにも納得できる。


「普段も外へ?」


「薬草採取や往診で近くまで出ることはあります。でも、基本的にはここで患者さんを待っています」


 セレスはそこで言葉を切った。


「今日まで、それが普通だと思っていました」


 声は穏やかだった。


 けれど、何かを決めようとしていることだけは伝わってくる。


「治療院にいれば、運ばれてきた人を治せます。もちろん、それも大切です。でも今日みたいに……運ばれてくる前に、助けが必要な人もいるんですよね」


 街道で倒れていた男性。


 もしセレスが偶然通らなければ。


 もし自分たちがあの場所を通らなければ。


 考えれば、結果はまったく違っていたかもしれない。


「救える場所へ、自分から行くというやり方もあるんですよね」


 ユウトはすぐには答えなかった。


 それを決めるのは、自分ではないからだ。


「セレスは、どうしたい?」


「……私ですか?」


「うん」


 誰かから命令された道ではない。


 誰かに正しいと言われた答えでもない。


 選ぶのは、セレス自身だ。


 セレスはしばらく黙っていた。


 やがて患者を見つめ、薬瓶の並ぶ棚を見て、最後にユウトたちを見る。


 フィーナは何も言わない。


 アイリスも静かに待っている。


 エリシアも、眠そうな目を細めながら答えを急かさなかった。


 そして。


「私も、一緒に行かせてもらえませんか?」


 はっきりとした声だった。


「治療院を捨てたいわけではありません。ここで救える命もあります。だから、きちんと話をして、今までお世話になった方にも迷惑がかからないようにします」


 そこで少しだけ息を吸う。


「それでも私は、外へ行ってみたいです。怪我をした人。病気の人。毒に苦しむ人。治療院まで来られない人もいるなら――」


 セレスは胸元で手を握った。


「そういう人を、もっと救えるようになりたいです」


「危険な依頼もあるよ」


「分かっています」


「ずっと一緒にいなきゃいけないわけでもない。やっぱり違うと思ったら、戻ってもいい」


 その言葉に、セレスが柔らかく笑った。


「ありがとうございます。でも――」


 一度だけ首を横へ振る。


「誰かに頼まれたからじゃありません」


 その目に迷いはなかった。


「私が行きたいんです」


 その瞬間だった。


 ユウトの視界に、新しい情報が浮かぶ。


【セレス】


【加護:知識神ソフィエルの小加護】


【補助能力:医療上達】


「……あ」


「どうかしました?」


「いや、何でもない」


 やっぱりだ。


 フィーナの時も、アイリスの時もそうだった。


 加護が彼女たちに道を選ばせたわけではない。


 自分で選んだあとに、ソフィエルがその背中をそっと支えている。


 知識や技術を与えるのではなく、これから重ねる努力を理解し、身につける手助けをする力。


「じゃあ、よろしく。セレス」


「はい。よろしくお願いします」


「やったー! セレスも一緒だ!」


 フィーナが勢いよくセレスへ飛びつこうとして――途中で止まった。


 セレスが笑顔で見ていたからだ。


「フィーナさん?」


「……ごめんなさい」


「走って患者さんの寝台へぶつかったら危ないですよ?」


「はい……」


「あとでお説教です」


「もう決まってるの!?」


 白い耳がぺたりと倒れた。


 アイリスが口元を緩め、エリシアは小さく欠伸をしながら呟く。


「賑やかになりそうですね」


「エリシアも人のこと言えないと思うけど」


「私は静かですよ?」


「魔法の研究を始めなければ、でござるな」


「それは別問題です」


 思わずユウトも笑った。


 セレスが加わり、ユウトを含めた五人で歩くことになる。


 ただし、セレスには治療院で済ませることが残っている。正式に旅へ出るのは、それを終えてからだ。


 急がせる必要はない。


 自分で選んだ道だからこそ、自分で納得できる形で歩き始めればいい。


 治療院を出た四人は、今後の依頼を確認するため、再び冒険者ギルドへ向かった。


 掲示板の前では、フィーナが覚えたばかりの文字を一つずつ追っている。


「えっと……これは……ご、えい?」


「うん。護衛だね」


「こっちは?」


「採掘場」


「さいくつじょう……?」


 フィーナが首を傾げた。


 その隣に貼られていた依頼票へ、ユウトの視線が止まる。


【依頼:鉱山への物資護衛】


 その下には、短い追記があった。


【現地で小規模な落盤あり。作業継続中につき護衛要員を募集】


「鉱山か……」


 ユウトが呟くと、アイリスが依頼票を見る。


「次の候補でござるか?」


「まだ決めてないよ。セレスとも相談したいし」


「そうですね。五人で行く最初の依頼になりますから」


 エリシアの言葉に、ユウトは頷いた。


 誰か一人が決めるのではなく、皆で選べばいい。


 ただ――。


 鉱山という文字を見つめていると、なぜか少しだけ気になった。


 ユウトはその依頼票を、候補の一枚として覚えておくことにした。

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