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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第8章

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第8章 第211話 知識を渡す

 王都へ戻った《アカシックレコード》を待っていたのは、休息ではなかった。


 冒険者ギルド本部の会議室には、六か国へつながる通信魔道具が並んでいる。


 中央の机には、地図にない村から回収した汚染魔石と、帰路からユウトとエリシアが何度も書き直した術式図。


 さらに、セレスがまとめた治療記録、レティシアの分解手順、アイリスの非殺傷対応案、フィーナが書き加えた注意事項まで置かれていた。


「確認数、二百四十一か所」


 グレイグの言葉に、空気が重くなる。


「まだ増えている」


 フィーナが指を折りながら数え始める。


「一日十か所行っても……えっと……」


「二十四日以上です」


 エリシアが答える。


「移動を考えれば、もっとかかります」


「間に合わないな」


 ユウトは迷わなかった。


「解除方法を共有します」


 通信魔道具の向こうから、ルーンベルクの魔導師が声を上げる。


『神力に関わる術式だ。我々に扱えるのか?』


「神格そのものまで理解する必要はありません」


 ユウトは術式図を開いた。


「でも、何を切って、何を残すのかは理解してから触ってください」


 魔法陣の一部を指す。


「分からないまま手順だけ真似するのが一番危険です」


 エリシアが続ける。


「今回まとめたのは、軽度から中度の汚染祠を想定した基本手順です。神格へ直接接続しているもの、重度汚染、住民の判断能力が著しく低下している場合は、専門家へ回してください」


 その上で、手順を五つに分けた。


 一つ。


 住民の状態を確認し、精神干渉の強さを把握する。


 二つ。


 外部から神力が流れ込む接続部分を特定する。


 三つ。


 結界で接続を隔離し、再接続を防ぐ。


 四つ。


 干渉術式だけを停止し、本来の守護や祈願の機能を残す。


 五つ。


 解除後は必ず治療師が診察し、判断能力が戻った段階で、その後の治療をどうするか本人へ確認する。


「そこは絶対に省かないでください」


 セレスの声は穏やかだったが、強かった。


「怖さや悲しみが戻ることもあります。だからといって、こちらが勝手に感情を抑え直してはいけません」


「あと!」


 フィーナが手を上げる。


「祠を守ろうとする人がいても、その人を悪い人って決めつけないで」


 通信の向こうが静まる。


「操られてるかもしれないから。できるだけ傷つけないでね」


 アイリスが頷く。


「抵抗者への対応は非殺傷を第一とされたい。意識を奪うより、拘束と距離の確保を優先する方がよいでござる」


「石台も乱暴に壊すなよ」


 レティシアが腕を組む。


「古い祠は、術式と構造が一体になってる。魔石だけ力任せに外しゃ、神力が漏れることもある」


「質問は?」


 ユウトが尋ねる。


 すぐに声が重なった。


『結界術師がいない村では?』


『本来機能と干渉術式を見分ける基準は?』


『住民が治療そのものを拒否した場合は?』


『魔石ではなく祭具全体が汚染されていたら?』


 ユウトは一つずつ答えていく。


 【鑑定】で見えた複雑な構造を。


 魔導師が追える形へ。


 神官が判断できる形へ。


 職人が触れられる形へ。


 治療師が使える形へ。


 翻訳していく。


 それが今のユウトにできることだった。


 ***


 やがて。


 今度は各国から修正版が返ってきた。


『ルーンベルクより。外部接続の魔力波形を三種類に分類した。簡易判別式を送る』


「これ、俺たちのより分かりやすいな」


 ユウトが目を見開く。


「興味深いですね」


 エリシアがすぐ書き写す。


『グランバルドより。古い祠を傷つけずに魔石を固定解除できる器具を試作した。図面を送る』


 レティシアが身を乗り出した。


「おい、これ考えた奴誰だ。あとで絶対会わせろ」


『エルフィナより。解除後の精神反動を三段階に分類。治療基準を追加する』


 セレスがすぐ頷く。


「こちらの記録にも加えましょう」


『ガルディアより。抵抗者を傷つけずに制圧するため、二人一組の救援班方式を採用する』


 アイリスが満足そうに頷く。


「理にかなっておる」


『ドラグニアより。古い祭祀記録を照合し、祠と祭壇の所在を地図へ追加中』


 フィーナの耳が立つ。


「地図にない場所も探してくれてる!」


 ユウトは通信記録を見つめた。


 自分が渡した方法が。


 もう、自分だけのものではなくなっている。


 各国が理解し。


 直し。


 より使いやすくして。


 こちらへ返してくる。


「……いいな、これ」


「何がです?」


 セレスが尋ねる。


「俺一人じゃ思いつかなかったやり方が増えてる」


 それだけ言って、ユウトは笑った。


 ***


 しばらくして、成功報告が届き始めた。


『ルーンベルク東部、汚染魔石三基を解除』


『グランバルド山間部、五基処置完了。負傷者なし』


『エルフィナ南部、住民二十一名を段階治療へ移行』


『ガルディア、抵抗していた住民七名を非殺傷で保護』


 フィーナの尻尾が大きく揺れた。


「フィーナたち、ここにいるのに、いろんな場所で助かってる」


「そうだな」


 ユウト一人なら。


 同じ時間に救える場所は、せいぜい一つか二つ。


 でも今は違う。


 同じ知識が。


 同時に何十か所でも使われている。


 その時だった。


 大神殿から運び込まれていた四枚の古い神紋石板が、淡く光った。


 遊戯。


 物語。


 芸能。


 祝祭。


「神力反応です」


 エリシアが目を細める。


 ユウトも【鑑定】する。


【対象】

古代神紋・四種


【神力反応】

増大


【状態】

相互共鳴


【確認可能効果】

精神干渉への抵抗補助

再接続速度の低下


【詳細】

神格情報のため閲覧不能


「完全に止めてるわけじゃない」


 ユウトが言う。


「でも、干渉が入り直すまでの時間が延びてる」


 通信の向こうからも報告が飛ぶ。


『解除後の再汚染が遅くなっています!』


『精神干渉濃度、一段階低下!』


 セレスが石板を見る。


「どうして今……?」


 エリシアは少し考えた。


「世界中で、本人の意思を守るための行動が同時に始まったからかもしれません」


 遊ぶこと。


 物語を選ぶこと。


 歌うこと。


 祭りへ参加すること。


 どれも。


 本来は自分で選ぶものだ。


 誰かに幸福を決められるのとは、反対のもの。


 四柱は。


 人々の選ぶ力そのものへ、呼応しているのかもしれない。


 その時。


 神紋石板の光が、机の上に広げられていた古代封印記録へ重なった。


「待ってください」


 大神殿の神官が息を呑む。


 今まで読めなかった欠損部分。


 そこへ四つの神紋が重なる。


 文字が浮かび上がった。


『四柱、主を封ずる門を守る』


『八主神、最深封印を施す』


『封印中枢――地上最深部、大迷宮最下層』


 さらに。


 ドラグニアから届いていた古代地図の一部と。


 大神殿の記録。


 ルーンベルクの古代魔力線。


 三つが一致する。


 ユウトは指で一点を押さえた。


「ここだ」


 会議室が静まり返る。


 ヴォイドの封印中枢。


 そこへ至る場所が。


 初めて一つに絞られた。


 グレイグが低く言う。


「地上は、ようやく各国だけで回り始めた」


 ユウトは頷く。


「なら次は――」


 四つの神紋を見て。


 その先にある、世界の底を思う。


「俺たちが、下へ行く番だ」

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