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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第8章

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第8章 第209話 世界を守るための道

 世界連合が成立した翌朝。


 王都の西門前には、これまで見たこともない数の荷馬車が並んでいた。


 保存食。


 回復薬。


 予備の武具。


 結界用の魔石。


 そして、その隙間には少量のカルタや童話集まで積まれている。


「本当に残したんだ」


 フィーナが荷台を覗き込み、耳を揺らした。


「避難先へ運ぶ分だけですが」


 商業ギルドの職員が答える。


「食料と薬を最優先にしています。ただ、子どもが何日も避難生活を送る可能性もありますから」


「うん。その方がいいと思う」


 フィーナは嬉しそうに頷いた。


 ユウトも荷馬車へ目を向ける。


 かつてリバーシやカルタを運んでいた定期便が、今は人の命を守るための物資を積んでいる。


 世界を救うために始めた商売ではない。


 それでも、積み重なったものが別の形で役立ち始めていた。


「第一便、出発!」


 号令とともに、馬車がゆっくり動き出す。


 その時。


「あっ」


 フィーナが声を上げた。


「どうした?」


「北西の荷馬車、この道を通るんだよね?」


 広げられていた運行図を指す。


「ああ」


「じゃあ、森の向こうの集落は?」


 職員が首を傾げた。


「集落?」


「前に通ったことあるよ。街道から外れてて、獣道みたいな細い道しかないところ」


 フィーナは地図を睨む。


「たしか、十軒くらい家があった」


 記録にはない。


 だが、フィーナは旅の途中で一度立ち寄っていた。


「名前は?」


「えっと……ルーメ村、だったかな」


 職員が帳簿をめくる。


「……ありません」


 ユウトも地図へ【鑑定】を使う。


【名称】

北西部交易路図


【状態】

最新版


【記載範囲】

主要街道

登録集落

商業経路


【不足情報】

未登録の小規模集落が存在する可能性があります。


 そこまでだった。


 どこが危険なのか。


 何日遅れるのか。


 そこまでは表示されない。


 ユウトは地図とフィーナの話を照らし合わせる。


「主要街道しか見てなかった」


「フィーナ、探してくる!」


「一人で?」


「近くだけ! 他にも同じような場所がないか見たい」


 白狼族の嗅覚と、何度も各地を歩いてきた経験。


 これはフィーナの仕事だった。


「分かった。護衛をつける」


「えへへ! フィーナに任せて!」


 その日のうちに。


 交易路から外れた小規模集落を洗い出す調査が始まった。


 ***


 午後。


 王都中央広場では、別の試みが行われていた。


「まず、この札を見てください」


 セレスが住民たちへ試作品を見せる。


 黒い霧。


 走る人。


 大きな矢印。


 避難所を示す印。


 文字は、最低限だけ。


「これ、分かる人?」


 老人が手を上げた。


「黒いのが出たら、矢印の方へ逃げろってことだろ?」


「はい」


「じゃあ、これは?」


 今度は治療所の印。


 子どもが首を傾げた。


「教会?」


「……やっぱりそう見えますか」


 セレスが苦笑する。


 横でレティシアが笑った。


「だから言ったろ。作った奴には分かってても、使う奴に伝わらなきゃ意味ねえって」


「直そう」


 ユウトはすぐ紙を取り替えた。


 十字に似た印をやめ。


 包帯を巻いた腕の絵へ変える。


 再び見せる。


「怪我した人が行くところ!」


 今度は子どもが即答した。


「よし」


 だが、次の問題が出た。


 黒い瘴気を示す絵を見て、別の老人が言う。


「火事じゃないのか?」


「煙に見えますね」


 エリシアが淡々と頷く。


「色だけでは区別できません」


「じゃあ、この印を付けるのは?」


 セレスが、瘴気の中に歪んだ魔石の絵を加える。


「少し調べてみましょう」


 エリシアが複数の案を並べた。


 子ども。


 老人。


 商人。


 読み書きができない人。


 獣人。


 エルフ。


 様々な人へ見せる。


「これは怖そう」


「こっちは何か分からない」


「この矢印なら見たことがある」


「丸印の方が見やすい」


 意見がばらばらに出た。


 だから。


 一つずつ直した。


「完成……ではないですね」


 セレスが試作品を見つめる。


「王都では伝わっても、他の国で同じとは限りません」


「うん」


 ユウトは頷いた。


「各国でも試してもらおう」


 六か国共通で使う記号だからこそ。


 王都だけで決めてはいけない。


 試作版を送る。


 現地で試してもらう。


 違いが出たら直す。


 その方がいい。


 ***


 夕方には、木片芝居の語り手たちが広場へ集められた。


 一人の男が、避難札を掲げる。


「黒い霧を見たら、近寄らない!」


 いつもの芝居のように、大きな声。


「怖いからって、一人で走り回らない!」


 子どもたちが真剣に聞いている。


「この印を見つけたら?」


「避難所!」


「怪我をしたら?」


「治療所!」


「よし!」


 歓声が上がる。


 芝居ではない。


 物語でもない。


 それでも、人へ伝える技術は同じだった。


 フィーナが笑う。


「いつもお話してた人が、今度は逃げ方を教えてる」


「役に立つなら、何だって使えばいいさ」


 レティシアが腕を組む。


「そのために覚えた技術なんだからな」


 ユウトは何も言わず、広場を見た。


 子どもが札を覚える。


 その子が母親へ教える。


 文字を少し読める者が。


 読めない者へ伝える。


 今まで続けてきたことが。


 別々の場所で、別々の意味を持ってつながっていく。


 その時だった。


 王城から緊急通信の光が上がった。


 エリシアが通信魔道具を開く。


『ルーンベルク北部、黒色瘴気を確認』


 続けて。


『エルフィナ国境にて精神干渉を受けた住民を保護』


 さらに。


『ドラグニア西部で高位魔物の異常行動を確認』


 広場の空気が一変する。


「来たか」


 ユウトが呟く。


 だが。


 今度は報告だけでは終わらなかった。


『ルーンベルクより追加。周辺住民の避難開始。共通避難札の試作品を使用する』


『エルフィナ、治療師二十名を国境へ派遣』


『グランバルド、ドラグニア方面の武具便を優先出荷へ変更』


『ガルディア、高速救援隊を待機状態へ移行』


 次々と通信が届く。


 命令した者はいない。


 同じ国でもない。


 それでも。


 それぞれが、自分たちで判断して動いている。


 フィーナの尻尾が大きく揺れた。


「動いてる……!」


「ああ」


 ユウトも通信魔道具を見つめる。


 世界連合。


 昨日までは、紙に書かれた約束だった。


 今は違う。


 一つの国で異変が起きれば。


 別の国が。


 別の町が。


 別の誰かが動く。


「俺たちも行こう」


 ユウトが仲間たちを見る。


 アイリスが刀へ手を添える。


「承知いたした」


「どこから確認します?」


 エリシアが地図を開く。


「負傷者情報を先にください」


 セレスもすぐ動く。


「装備ならいつでも出せるぞ」


 レティシアが笑う。


 その時。


 広場の向こうから、フィーナが戻ってきた。


 息を弾ませながら。


「ユウトお兄ちゃん!」


「どうした?」


「見つけた!」


 その顔から笑みが消える。


「地図に載ってない村……三つあった」


 ユウトの表情も変わった。


「そのうち一つで、黒い霧の匂いがした」


 世界を守るための道は。


 もう動き始めている。


 だからこそ。


 その道からこぼれ落ちる人間を。


 一人でも見逃すわけにはいかなかった。

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