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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第8章

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第8章 第208話 世界連合

 地上最深部へ続く古代大迷宮の存在が明らかになっても、六か国の議論は終わらなかった。


「共同で敵へ当たる。その必要性には異論はない」


 ガルディアの代表が言う。


「だが、“連合”を名乗る以上、何をどこまで共有するのかは明確にしてもらう」


 アルテシア王国の代表も頷く。


「有事のたびに援軍を出す義務まで負うのか。自国が襲われている時まで他国を優先することはできん」


 正論だった。


 ユウトは卓上の六か国地図を見つめる。


 六つの国を、一つの軍にする。


 そんなことばかり考えていた。


「……全部、一緒にしなくてもいいんじゃないですか?」


 思わず口にすると、視線が集まった。


「俺たちのパーティーも、全員が同じことをしてるわけじゃないです」


 フィーナは探す。


 アイリスは前に立つ。


 エリシアは魔法と結界を扱う。


 セレスは命を守る。


 レティシアは装備を支える。


「役目が違っても、一緒に戦えます」


「つまり?」


「それぞれの国が、自分の国を守る。そのうえで……必要な時に助け合える仕組みだけ作るとか」


 そこから先は、ユウトの役目ではなかった。


「制度にするなら、こうでしょう」


 アルテシア王国の官僚が地図へ駒を置く。


「各国の軍権は、各国に属したままとする」


 商業ギルド代表が続ける。


「物資と情報は共通化する。ただし供出量は、各国の状況に応じて調整する」


 大神殿の神官も加わった。


「救援部隊は、原則として要請を受けて派遣する。独断で他国領へ入らない」


「それならガルディアも呑める」


「ドラグニアも異論はない」


 ルーンベルクの老魔導師が顎髭を撫でる。


「つまり、同じ命令で動く軍ではなく、同じ情報を持つ諸国の協力体制か」


「はい」


 ユウトは頷いた。


「それなら、俺にも分かります」


 各国ができることも整理されていった。


 ルーンベルクは通信魔道具と結界技術。


 グランバルドは武具と修理技師。


 エルフィナは薬、治療師、浄化技術。


 ドラグニアは高位魔物への迎撃戦力。


 ガルディアは一度、首を横に振った。


「我が国は、現状では大規模な兵は出せん」


 国内でも邪教徒への対応が続いているからだ。


「ただし、小規模な高速救援隊なら出せる」


「それで十分だと思います」


 ユウトが答える。


 同じ量を出す必要もない。


 同じ役割を持つ必要もない。


 できることを持ち寄る。


 その方が、この世界には合っていた。


 次に商業ギルド代表が、大きな交易地図を広げた。


「輸送については、こちらを使います」


 国境を越えて延びる無数の線。


 フィーナが身を乗り出した。


「これ、見たことある」


「ええ。皆さんの娯楽商品の交易路です」


 カルタ。


 リバーシ。


 童話集。


 木片芝居。


 それらが各地へ広がるにつれ、地方の町にまで定期便が走るようになっていた。


「非常時は娯楽品なんて後でいいよ」


 フィーナが言う。


「その荷車に薬とか食べ物を積んだ方がいい」


「もちろん、そのつもりです」


 商人は頷いた。


「ただし、全部は止めません」


「どうして?」


「避難所には子どももいますから」


 フィーナが黙る。


「食べる物が必要なのは当然です。ですが、不安の中で何日も過ごす者に、“生きているだけで満足しろ”とは私は言えません」


 ユウトの胸に、以前見た光景が浮かんだ。


 魔物に襲われた町の避難所。


 怖いと言いながら、それでも木片を並べて遊んでいた子どもたち。


 ヴォイドは、苦しみそのものを消そうとする。


 でも。


 苦しい時に、自分で笑えるものを選ぶこともできる。


「……少しだけ残してください」


 ユウトが言う。


「食料や薬を邪魔しない範囲で」


「承知しました」


 物流の次は、避難情報だった。


「文字を読めない者への伝達が問題です」


 王国役人の言葉に、セレスが一枚のカルタを手に取った。


「大きな絵と、短い言葉ならどうでしょう?」


 エリシアがすぐ紙へ書き出す。


 避難所。


 危険区域。


 黒い瘴気。


 治療所。


 子どもでも分かるほど単純な絵。


「カルタで文字を覚えた人なら読めるよ」


 フィーナが言う。


「完全に読めない人には?」


「木片芝居の語り手を各地へ回せます」


 商業ギルド側から声が上がった。


「人前で説明することには慣れていますからな」


 今回は、避難札の量産だけが正式に決まった。


 語り手による避難説明については、各地で試すことになった。


 議論はさらに続いた。


 最後まで慎重だったガルディア代表が、文書を読み直す。


「一つ確認する」


「どうぞ」


「我が国が援軍を出せない状況なら、断ることもできるのだな?」


「できる」


 アルテシア王国代表が答える。


「これは支配のための盟約ではない。互いに潰れぬための協力だ」


 しばらくの沈黙。


 やがてガルディア代表が署名具を取った。


「ならば、我が国も加わる」


 最後の一国だった。


 六つの署名が揃う。


「ここに、六国対邪神協定の成立を宣言する」


 拍手は起きなかった。


 歓声もない。


 ただ。


 その場にいた全員が、静かに文書を見つめていた。


 国は一つにならない。


 だからこそ。


 それぞれの意思で、同じ敵へ向き合う。


「……できたね」


 フィーナが小さく笑った。


「ああ」


 ユウトも頷く。


 その時だった。


「まだ終わりじゃないぞ」


 冒険者ギルド本部長グレイグが立ち上がった。


「《アカシックレコード》。前へ出ろ」


「俺たち?」


 六人が並ぶ。


 グレイグは六枚の冒険者カードを机へ置いた。


「今回の会議に合わせて、六か国の冒険者ギルドでも協議していた」


 ユウトの眉が上がる。


「本来なら、魔物異常進化への対応が終わった時点で認定すべきだった」


 ゴブリンロードの軍勢。


 オークキング。


 複数国家で起きた異常進化。


 大規模な住民避難と救助。


「すでに功績は、国家規模の危機へ対応する冒険者の域に達している」


 グレイグが六人を見る。


「今回の世界連合成立は、その認定を正式に行う契機になっただけだ」


 そして。


「《アカシックレコード》を、正式にSランクパーティーへ認定する」


 カードの文字が変わる。


 A。


 その一文字が。


 Sへ。


 フィーナの耳と尻尾が同時に跳ねた。


「……え」


 アイリスは目を見開き、すぐに姿勢を正す。


「身に余る評価。されど、恥じぬ働きをいたす所存」


 エリシアは自分のカードをじっと見た。


「興味深いですね。私たち、本当にここまで来たんですね」


 セレスは胸元でそっと手を重ねる。


「……無事にここまで来られて、よかったです」


 レティシアは鼻を鳴らした。


「遅いくらいだろ」


 それから、にやりと笑う。


「ま、悪い気はしねえけどな」


 最後に。


「えええええっ!? Sランク!?」


 フィーナの声が議事堂へ響いた。


 重かった空気が、ほんの少しだけ緩む。


 グレイグも苦笑した。


「なお、今後の危機はSSランク相当になる可能性が高い」


 六人の表情が戻る。


「だが、今は昇格審査をしている暇はない。まず世界を守れ」


「……はい」


 ユウトは新しいカードを握った。


 Sランク。


 嬉しくないわけがない。


 けれど。


 視線は、机の上に置かれた古代大迷宮の地図へ向いていた。


 世界連合はできた。


 地上を守る者たちも決まった。


 次に必要なのは。


 その世界を任せて、自分たちが最深部へ向かうための準備だった。

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