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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第19話 最初の依頼

 倉庫は冒険者ギルドから大通りを南へ進んだ、商業区の端にあった。


 石造りの建物の前には荷馬車と木箱が並び、働く男たちの怒鳴り声と、板の軋む音が絶えず響いている。開け放たれた大扉の向こうには、天井近くまで荷物が積み上げられていた。


「冒険者ギルドから来ました。ユウトです」


 依頼書の控えと冒険者カードを差し出す。


 現場で指示を出していた腹の出た中年の男が、カードを確かめた。


「Fランク一人か。もっと人を寄越すよう頼んだんだがな」


「すみません。俺一人では足りませんか?」


「来ないよりはましだ。俺はこの倉庫の荷役責任者だ。今日届いた荷物を日没までに仕分けて、指定の場所へ積み直す。勝手に箱を開けるな。壊した物は依頼料から差し引くぞ」


「分かりました。先に荷物の状態を確認してもいいですか?」


「見るだけなら構わん。修理や積み方を変えたい時は、必ず俺へ言え」


 前回学んだことを思い出し、ユウトは許可を得てから木箱へ【鑑定】を使った。


【輸送用木箱】


【内容物:陶器製食器】


【状態:破損寸前】


【耐久低下原因:側板の乾燥・釘の浮き・過積載による圧迫】


【注意:右側面へ強い力が加わると崩壊します】


【応急修理方法:側板への添え木・釘の打ち直し・縄による補強】


 隣の箱も確認する。


【輸送用木箱】


【内容物:瓶入り果実酒】


【状態:底板の一部が腐食】


【注意:持ち上げ時に底抜けの可能性があります】


 普通の木箱で、封印や隠蔽処理もないため、中身まで確認できるらしい。


「この二つは、そのまま運ばない方がいいです」


「何が悪い?」


「大きい方は右側面の釘が浮いています。中身は陶器です。横から抱えると板が外れます。小さい方は底板が傷んでいて、持ち上げると抜ける可能性があります」


 近くにいた若い作業員が鼻で笑った。


「見ただけで中身まで分かるのかよ」


 責任者は木箱の側面を軽く押した。


 板が鈍い音を立ててずれ、隙間から浮いた釘が見えた。


「本当に傷んでいるな」


「応急修理ならできます。ただ、箱は俺の物ではないので、許可をください」


「壊して中身を失うよりましだ。現場の責任は俺が持つ。必要な道具を言え」


「金槌、短い釘、板切れ、縄をお願いします」


 ユウトは木箱を動かさず、傷んだ部分を調べた。


 表示された修理方法だけでは足りない。乾燥した板へ力任せに釘を打てば、かえって割れる可能性がある。


 村で農具を直した時の感覚を思い出し、添え木で力を分散させてから釘を打つ。


 一度目は、釘がわずかに斜めへ入った。


 そのまま打ち込まず、すぐに抜いて位置を変える。


 【道具制作上達】は、失敗を消してくれる力ではない。だが、なぜ失敗したのかを理解し、次の動作へ生かしやすくしてくれる。


 二度目の釘は真っすぐ入った。


 最後に縄を上下へ回し、側板が外へ開かないよう締める。


【応急修理完了】


【状態:運搬可能】


【注意:積み重ね不可】


「これなら運べます。ただし、上に別の箱は置かないでください」


「よし。二人で底を支えて運べ」


 責任者の指示で作業員たちが箱を持ち上げる。


 木箱は崩れなかった。


「次は底が傷んだ箱です。下へ板を差し込んでから荷車へ載せれば安全です」


「運ぶ順番は俺が決める。お前は危険な箱を見つけて印を付けろ」


「分かりました」


 ユウトは炭を借り、問題のない箱には丸、補強が必要な箱には三角、荷車で運ぶ箱には二本線を付けた。


 文字を読めない自分でも、形なら間違えない。作業員たちにも一目で伝わる。


 責任者が印を見ながら運搬順を組み替え、経験のある作業員が積み方を調整する。


 ユウトがすべてを決めるのではない。それぞれが自分の得意な部分を担当することで、混乱していた作業は少しずつ整っていった。


「三角の箱から先だ!」


「二本線は荷車を使え!」


 責任者の指示が飛び、作業員たちが動く。


 ユウトも荷物を持ち上げた。


 重い箱を身体へ近づけ、膝を使って立ち上がる。孤児院を出る子どもの荷物運びを何度か手伝った時、腰だけで持ち上げると傷めると教えられたことがある。


「無理に腕だけで持たない方がいいです。膝を曲げて、箱を身体へ寄せてください」


「こうか?」


「はい。その方が腰への負担が少ないです」


 最初は疑っていた若い作業員も、次第にユウトの話を聞くようになった。


「新人、次はどれだ?」


「奥の丸い印の箱です。ただ、その前に戻る人の通路を空けた方がよさそうです」


 責任者が倉庫内を見回し、すぐに判断した。


「荷車を壁際へ寄せろ。入口側は運び込み、反対側は戻る者専用だ!」


 動線が分かれると、人同士がぶつかる回数も減った。


 作業は順調に進んだが、すべてが予定通りとはいかなかった。


「危ない!」


 倉庫の奥で声が上がった。


 積み上げた箱の一つが傾き、下にいた作業員へ倒れかけている。


 ユウトは考えるより先に駆け出した。


 箱の側面へ肩を入れ、両腕で押し返す。


 重い。模擬戦で見た【身体強化】を使おうとしたが、まだ習得できていない。


「支柱を持ってこい!」


 責任者の指示で、二人の作業員が太い木材を差し込む。


 全員で力を合わせ、傾いた荷物をゆっくり戻した。


「助かった……」


 下にいた男が青ざめた顔で座り込む。


 ユウトが箱へ【鑑定】を使う。


【積載状態:不安定】


【原因:床板の沈み・重量配分の偏り】


「箱だけではなく、床板が沈んでいます」


 責任者が足元を確かめ、険しい顔になった。


「この列は全部移す。床は明日、職人に見せる」


 小さな異常を見落とせば、人が傷つく。


 【鑑定】で情報を得られても、使うタイミングが遅ければ防げないこともある。ユウトは残りの床と棚も、責任者の許可を得て確認した。


 日が城壁の向こうへ沈み始める頃、最後の荷物が指定位置へ収まった。


 破損した品は一つもなく、けが人も出なかった。


「終わったな」


 責任者は完了証明書へ署名し、ユウトへ渡した。


「これをギルドへ出せば報酬が支払われる。今日の働きなら、文句なしだ」


「ありがとうございます」


「次も荷運びを受けるなら、お前を指名してやる」


 初めての依頼で信用を得られたことが、素直にうれしかった。


 完了証明をしまおうとした時、倉庫の最奥に置かれた小箱が目に入る。


 ほかの荷物とは離され、封縄を巻いた上から粗い布を掛けられていた。布の隙間から、黒い染みのような魔石が見える。


「それは依頼の荷物ではない。明日、商業ギルドの鑑定士に見せる品だ」


「古い魔石ですか?」


「北西の廃坑から出た物らしい。魔力が弱いから、売り物になるか調べる」


「【鑑定】してもいいですか?」


 責任者は少し考えてから頷いた。


「箱を開けず、封を壊さないなら構わん」


 ユウトは布の隙間から魔石へ意識を向けた。


【劣化した魔石】


【魔力残量:微量】


【状態:変質】


【異常要因:外部からの魔力干渉】


【詳細:解析不能】


 村を襲った大牙虎と同じ表示だった。


「この魔石には、普通の劣化とは違う異常があります」


「危険なのか?」


「今すぐ爆発するような状態ではありません。ただ、村で異常成長した魔物にも、同じ外部干渉が表示されました」


 責任者の顔から疲れた笑みが消えた。


「明日来る商業ギルドの鑑定士へ、その話も伝える」


「俺も冒険者ギルドへ報告します。廃坑周辺の魔物に変化がないか、確認した方がいいと思います」


「分かった。今夜は念のため、この箱へ誰も近づけないようにする」


 日没を告げる鐘が町へ響いた。


 初めての依頼は無事に終わった。


 だが、布の下に隠された黒い魔石は、森で起きた異変が村の周辺だけではないことを示していた。


 ユウトは完了証明書を握り、冒険者ギルドへ戻るため倉庫を後にした。

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