表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/95

第1章 第14話 限界を超える炎

 大牙虎が地面を蹴った。


 その巨体が、視界から消えたように見えた。


「散れ!」


 グレンの声と同時に、村人たちが左右へ飛び退く。


 直後、大牙虎が壊れた柵を飛び越え、村の内側へ着地した。前脚が土を深く抉り、衝撃だけで近くの角灯が倒れる。


 速すぎる。


 岩鎧熊とは、力の使い方がまるで違った。


「広場へ下がれ! 家の間へ入れるな!」


 グレンが矢を放つ。


 大牙虎は首をわずかに傾けただけで矢を避け、そのまま家畜小屋へ顔を向けた。


【行動予測:家畜小屋への突進】


【到達予測:四秒後】


 高い瞬発力を持つことは分かっていた。


 正面から火球を放っても、避けられる可能性は高い。


 それでも、四秒では他の手段を考える余裕がない。


「止めます!」


 ユウトは【ライト】への魔力供給を切った。


 光球が消える。


 右手へ、覚えたばかりの炎の術式を組み上げる。


「赤き炎よ、我が敵を焼け――ファイアボール!」


 火球が大牙虎の顔へ飛んだ。


 しかし、大牙虎は前脚で地面を蹴り、横へ跳ぶ。炎は肩の毛を焦がしただけで通り過ぎた。


【消費MP:6】


【現在MP:20/42】


【損傷:軽微】


 大牙虎が着地し、ユウトへ顔を向ける。


 家畜よりも先に、炎を放つ者を危険だと判断したらしい。


【標的変更:ユウト】


「こっちへ来るぞ!」


 グレンの矢が脇腹へ飛ぶ。


 一本は灰色の毛皮に弾かれ、もう一本は浅く刺さった。だが、大牙虎は速度を落とさない。


 ユウトは広場へ向かって走った。


 背後には民家がある。横へ避ければ、そのまま建物へ突っ込まれる。


 広場まで誘い出すしかない。


「こっちだ!」


 足音が急速に迫る。


 背後から空気を引き裂く音が聞こえた。


【探索上達により、背後からの接近音への反応が補助されます】


 ユウトは横へ跳んだ。


 大牙虎の爪が服の背を裂き、皮膚を浅く切り裂く。


「っ!」


 焼けるような痛みが走った。


【HP:36/42】


【状態:背部裂傷・軽度出血】


 地面を転がり、すぐに身体を起こす。


 大牙虎はすでに振り返っていた。


 爪猿の時のように、攻撃の内側へ入ることはできない。腕の長さも、速さも、体重も違いすぎる。


「正面から近づくな!」


 グレンが叫んだ。


「左右から音を出せ! 注意を散らす!」


 村人たちが鍋や農具を打ち鳴らす。


 大牙虎の耳が左右へ動いた。


 その一瞬を狙い、グレンが右眼へ矢を放つ。


 だが、大牙虎は顔を伏せ、額で弾いた。


【特徴:高い反応速度】


【弱点への直接攻撃成功率:低】


 弱点が分かっていても、当てられなければ意味がない。


 動きを制限する必要がある。


「太い綱を!」


 村人たちが荷車用の綱を運んでくる。


 ユウトとグレンが両端を持ち、大牙虎の進路へ低く張った。


「跳ばせるぞ。着地点を狙う」


 グレンの言葉に、ユウトは頷いた。


 大牙虎が走る。


 綱の直前で地面を蹴、その巨体が宙へ浮いた。


 腹部が露出する。


「今だ!」


 グレンの矢が腹へ飛ぶ。


 しかし、大牙虎は空中で身体を捻り、矢を避けた。そのままユウトへ前脚を振り下ろす。


 速い。


 避けきれない。


 ユウトは近くに落ちていた棒を両手で掲げた。


 爪が棒へ叩きつけられる。


 木が折れ、衝撃が両腕から肩へ突き抜けた。ユウトは身体ごと吹き飛ばされ、肩と背中を地面へ強く打ちつける。


 肺から空気が押し出された。


【HP:24/42】


【状態:左腕打撲・背部打撲・呼吸困難】


 大牙虎が牙を剥いた。


 グレンの矢が口元を掠め、魔物が顔を背ける。


「立て、ユウト!」


 ユウトは左腕を押さえながら、どうにか起き上がった。


 初級魔法では足りない。


 【ファイアボール】を当てても、致命傷には届かない。


 もっと速く、細く、深く。


 硬い毛皮を貫き、身体の内側へ炎を届ける必要がある。


 頭の中で、二つの術式を並べる。


 【ファイアボール】の火属性変換と圧縮。


 【ライト】を移動させた時に使った、魔力へ進行方向を与える構造。


 完全に新しい理論を生み出すわけではない。


 すでに理解した二つの初級術式から必要な部分を抜き出し、つなぎ直す。


 火球のように炎を広げず、細長く圧縮する。


 先端へ魔力を集中し、一直線に加速させる。


【解析上達により、術式の共通部分が整理されます】


【魔法上達により、魔力圧縮および方向制御への理解が補助されます】


【新規魔法術式を構築しますか?】


「構築する」


 複数の術式が頭の中で結びつく。


 炎の槍。


 そう呼ぶのが最も分かりやすい形だった。


【仮称:フレイムランス】


【属性:火】


【推定階級:中級】


【必要MP:32】


【効果:細長く圧縮した炎を高速で射出し、命中箇所を貫通・燃焼させます】


【警告:現在MPが不足しています】


【現在MP:20/42】


【発動後予測:-12/42】


 必要MPは三十二。


 今のユウトには二十しかない。


 普通なら発動できない。


 それでも表示は、使用不能ではなかった。


【発動条件:現在MPが1以上】


【不足分はマイナスMPとして記録されます】


 使える。


 ただし、発動後に何が起こるのかは分からない。


 大牙虎が村人の一人へ向きを変えた。


 逃げ遅れた村人は地面へ転び、腰が抜けたように動けずにいる。


 迷っている時間はなかった。


「グレンさん! 一度だけ動きを止めてください!」


「何秒だ!」


「一秒で十分です!」


「全員、左から音を出せ!」


 村人たちが一斉に鍋や農具を打ち鳴らす。


 大牙虎の耳と視線が左へ動く。


 同時に、グレンが右側から矢を放った。


 狙いは眼ではない。


 前脚の着地点だ。


 矢を避けた大牙虎が身体を左へ捻る。


 胸から脇腹にかけての柔らかい部分が、ユウトの正面へ向いた。


【弱点露出】


【推奨攻撃部位:左胸部】


【推定有効時間:一・二秒】


 ユウトは右手を突き出した。


 胸の奥に残る魔力を全て引き出す。


 火へ変える。


 細く伸ばす。


 先端へ集中させる。


 揺れる術式を押さえ込み、狙いを左胸へ固定した。


「貫け――フレイムランス!」


 赤い炎の槍が放たれた。


 火球とは比べものにならない速度で広場を走り、大牙虎の左胸へ突き刺さる。


 灰色の毛皮が焼けた。


 皮膚を貫く。


 圧縮された炎が肉の奥深くへ入り込み、心臓へ到達した瞬間、一気に膨れ上がった。


 大牙虎の身体が大きく跳ねる。


【構築魔法【フレイムランス】の発動に成功しました】


【消費MP:32】


【現在MP:-12/42】


【命中部位:左胸部】


【損傷:胸部貫通・心臓損傷・内部熱傷】


 大牙虎は倒れなかった。


 口から血を吐きながら、数歩だけ前へ進む。


 しかし、その踏み込みは先ほどの半分にも届いていない。前脚が震え、身体を支えられなくなっている。


 それでも、残った力を振り絞り、ユウトへ飛びかかった。


「ファイアボール!」


 ユウトは反射的に右手を向けた。


 だが、魔力が集まらない。


 術式の最初の形すら作れなかった。


【発動不能:現在MPが1未満です】


【新規魔法術式の構築も行えません】


 身体に力が入らない。


 視界が傾き、頭の奥へ杭を打ち込まれたような痛みが走る。


【状態:魔力超過消費】


【強い倦怠感】


【頭痛】


【集中力低下】


【身体能力低下】


【反応速度低下】


 逃げなければならない。


 分かっているのに、脚が動かない。


 魔法も使えない。


 自分が完全に無防備になったことを、ユウトは初めて理解した。


「ユウト!」


 グレンが前へ飛び込んだ。


 動きの鈍った大牙虎の爪を身を低くして避け、胸に開いた炎の傷へ矢を深く突き立てる。


「倒れろ!」


 大牙虎の巨体が横へ崩れた。


 地面が大きく揺れる。


 長い牙がユウトの足元すれすれで止まり、前脚が数度痙攣した後、完全に動かなくなった。


【種族:大牙虎】


【状態:死亡】


【死因:心臓損傷】


 誰も、すぐには声を上げなかった。


 村人たちは武器を構えたまま、倒れた大牙虎を見つめている。


「倒した……」


 一人が呟いた。


「本当に、倒したぞ!」


 次の瞬間、村中から歓声が上がった。


 泣きながら抱き合う者。


 その場へ座り込む者。


 震える手で武器を掲げる者。


 東の空から差し込んだ朝日が、倒れた大牙虎と、膝をつくユウトを照らした。


 村は守られた。


 その光景を見届けた瞬間、張りつめていた意識が途切れる。


「ユウト!」


 倒れかけた身体を、グレンが支えた。


 呼吸をするだけで苦しい。


 全身が鉛へ変わったように重く、指一本まともに動かせない。


「魔力を……使いすぎました……」


「分かっている。もう話すな」


 グレンの声が遠ざかっていく。


 強力な魔法を放つことはできた。


 だが、その後に戦いが続いていれば、自分は何もできずに死んでいた。


 その事実を胸へ刻みながら、ユウトは静かに意識を失った。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ