↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/190

第4章 第100話 初めて読めた文字

 宿へ戻ると、レティシアはさっそく作業台を借りた。


「最初から何十枚も作る必要はないだろ。まずは試しに四枚だ」


「うん。その方が良さそう」


 ユウトも頷く。


 机の上には、薄く削った木片が四枚だけ並べられた。


 紙より丈夫で、何度でも使える。レティシアは一枚ずつ手に取り、厚さを確かめながら角を丸く削っていく。


「子どもも使うなら、ささくれは残せないからね」


「そこは任せるよ」


「任せな!」


 エリシアは隣で、試す文字の候補を書き出していた。


「最初は意味が分かりやすいものがよいでしょうね」


「火、水、薬……」


 セレスが挙げる。


「肉!」


 フィーナが即座に手を挙げた。


「やっぱりそれなんだ」


「一番大事!」


「拙者は危険を推したいところでござるが、一文字ではないでござるな……」


 アイリスが真剣な顔で悩んでいる。


「それは後で生活用の札に入れよう」


 ユウトは笑いながら、四枚の木札を受け取った。


「じゃあ、まず遊んでみよう」


「もうできるの?」


「四枚だけなら」


「やる!」


 フィーナの耳が勢いよく立つ。


 ユウトは一枚目へ大きく文字を書き、その下へ簡単な肉の絵を描いた。


 二枚目は火。


 三枚目は水。


 四枚目は薬。


「取り札はこれでいいかな」


「読み札は?」


 エリシアが尋ねる。


「今回は俺が読み上げる。遊んでみて、必要なら後から作ろう」


「先に試してから直すのですね」


「うん。実際にやってみないと分からないこともあるし」


 四枚を机へ並べる。


「一番早く取った人の勝ち」


「よし!」


 フィーナが椅子から身を乗り出した。


 アイリスも向かい側へ座る。


「勝負であれば手は抜かぬでござる」


「フィーナも負けないよ!」


「私も参加してみますね」


 セレスも座った。


 エリシアも記録用の紙を脇へ置いて椅子を引く。


「興味深いです」


「ちょっと待て。あたしだけ作る側か?」


 レティシアが不満そうに言う。


「レティシアもやる?」


「当然だ!」


 結局、六人で机を囲んだ。


 ユウトが最初の言葉を口にする。


「肉」


「はいっ!」


 ぱん、と乾いた音が響いた。


 フィーナの手が肉の札を押さえている。


「えへへ! 取った!」


「速いでござる……」


「でも今、文字ではなく絵を見ましたね」


 エリシアの指摘に、フィーナの耳がぴくりと動く。


「だって肉の絵があったもん!」


「それだと文字を覚えられないのでは?」


「いや、最初はそれでもいいと思う」


 ユウトは肉の札を持ち上げた。


「絵を見て意味が分かる。その時に文字も一緒に見る。何回も繰り返せば、形を覚えるかもしれない」


「絵で知っているものに、文字を重ねていくわけですね」


「たぶん」


「じゃあいっぱい肉を見る!」


「そこだけ覚える気?」


 皆が笑う。


 二回目。


「火」


 今度はアイリスが取った。


「承知!」


「取る時までそれ言うんだ……」


「勝負ゆえ」


 三回目は薬をセレスが取った。


 四回目は水をエリシアが取る。


「フィーナ、一枚しか取れてないね」


「次は取る!」


 もう一度、札を並べ直す。


「肉」


「はいっ!」


 またフィーナが取る。


 ユウトはそこで気付いた。


 さっきと同じように札へ手を伸ばしているが、フィーナは絵より先に文字の部分を見ていた。


「フィーナ」


「なに?」


「今、絵を見て取った?」


「え?」


 フィーナ自身が札を見直す。


「……分かんない」


「じゃあ試してみよう」


 ユウトは別の木片へ、肉の文字だけを書く。


 絵は描かない。


「これは?」


 フィーナは黙り込んだ。


 耳が少し傾く。


「……肉?」


「正解」


「え?」


「読めたよ」


 フィーナの目が大きく開いた。


「ほんと?」


「うん」


「フィーナ、読めた?」


「読めた」


「肉って?」


「肉って」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、フィーナが勢いよく立ち上がった。


「読めたー!」


 白い尻尾が大きく揺れる。


「ユウトお兄ちゃん! フィーナ、自分で読めたよ!」


「うん」


「誰にも聞いてないよ!」


「そうだね」


「絵もなかった!」


「うん」


 何度確かめても嬉しいらしい。


 フィーナは文字だけの木札を両手で持ち、何度も眺めた。


「これが肉……」


「最初に覚える字として、それでよいのでござろうか」


 アイリスは呆れたように言ったが、口元は緩んでいる。


「本人が覚えたい字ならいいんじゃない?」


 ユウトが答える。


「覚えたという実感がある方が続きそうです」


 セレスも頷いた。


 エリシアは何か思いついたように紙へ書き込んでいる。


「絵ありで意味を覚えて、途中から文字だけにするのも良さそうですね」


「それ、次から試そう」


「記録しておきます」


 レティシアも完成した木札を指先で弾いた。


「札の大きさも悪くない。これなら子どもの手でも持てる」


「じゃあ形はこれでいけそうだね」


「何枚でも作ってやるよ」


「でも一気に増やしすぎないようにしよう」


 ユウトはフィーナを見る。


「覚える方が大変だから」


「フィーナならできる!」


「じゃあ次、何を覚えたい?」


 何気なく聞いたつもりだった。


 フィーナは肉の札を見つめ、それから少し考える。


「うーん……」


「お菓子ではござらぬか?」


 アイリスが言う。


「それも大事だけど……」


 フィーナは首を振った。


 やがて顔を上げる。


「『宿』がいい」


「宿?」


「うん」


「どうして?」


「旅してると、いっぱい見るから」


 フィーナは少し照れたように笑った。


「自分で見つけられたら、便利でしょ?」


 ユウトは一瞬、言葉を失った。


 肉は好きだから覚えた。


 けれど次は、自分の生活に必要だから選んだ。


 誰かに「これを覚えろ」と言われたのではない。


 フィーナ自身が、次に知りたい文字を決めた。


「じゃあ、次は宿にしよう」


「うん!」


「その次は?」


「食堂!」


「やっぱり食べ物に戻るんだ」


「だって大事だもん!」


 再び笑い声が広がった。


 ユウトは新しい木札を一枚取り、そこへゆっくり文字を書く。


 フィーナの前には、さっきまで読めなかった一枚の札が置かれている。


 今はもう、自分で読める文字だった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。