表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/80

第1章 第10話 初めての魔法

 光の境界へ踏み込んだホーンウルフは、柵の前で足を止めた。


 五体。


 どの個体も痩せ、灰色の毛皮には血と泥がこびりついている。その後方では、長い牙を持つ三頭の森猪が作物を踏み荒らしながら迫っていた。


 ユウトは先頭のホーンウルフへ【鑑定】を向けた。


【種族:ホーンウルフ】


【危険度:F】


【状態:疲労・興奮・軽度の裂傷】


【行動傾向:前方の障害を警戒・後方の脅威から逃走】


【弱点:眼球・喉・腹部】


 村を襲うために集まった群れではない。


 背後から迫る何かに追われ、進行方向を塞ぐ柵と人間を前に立ち止まっている。


「グレンさん。あいつらは村を狙っていません」


「分かっている。だが、後ろから押されれば柵へ突っ込む」


 グレンは柵の隙間から弓を構えた。


「全員、勝手に攻撃するな! 逃げ道を失った魔物は、傷つけるほど暴れる!」


 槍や斧を握る村人たちが、緊張した顔で頷く。


 老人の【ライト】が照らす畑の先で、枝の折れる音がさらに近づいた。


 魔物たちが一斉に森を振り返る。


 森猪の一頭が甲高い声を上げ、柵へ向かって駆け出した。


「来るぞ!」


 グレンの矢が前脚へ突き刺さる。それでも勢いは止まらない。


 森猪が向かう先は、補強が間に合わなかった古い柱だった。


「右側です! あの柱は持ちません!」


「荷車を寄せろ!」


 村人たちが内側から荷車を押すが、間に合わない。


 森猪が柵へ激突した。


 鈍い音とともに柱が傾き、横木が大きくたわむ。縄が一本切れ、隙間から土埃が舞い込んだ。


【状態:破損進行】


【注意:次回の強い衝撃により倒壊する可能性があります】


「もう一度受けたら壊れます!」


「槍を出せ! 近づけさせるな!」


 村人たちが柵の隙間から槍を突き出す。森猪は傷ついた脚を引きずって後退したが、背後のホーンウルフとぶつかり、再び興奮して鼻息を荒らした。


 その横から、別の森猪が前へ出る。


「光を動かせ!」


 グレンが老人へ叫んだ。


「左には水路沿いの空き地がある! そこへ誘導する!」


「分かっておる!」


 老人が杖を動かすと、光球も左へ移動した。


 その瞬間、老人の膝が大きく震えた。


「大丈夫ですか?」


「長く維持しすぎた。もう長くは持たん」


 ユウトは老人へ【鑑定】を使う。


【現在MP:3/19】


【使用中の魔法:ライト】


【継続消費:一定時間ごとにMPを消費】


 光が消えれば、魔物の動きも、グレンの狙うべき場所も見えなくなる。


「俺が代わります」


 老人が鋭く振り返った。


「魔法を使ったこともない者が、何を言っておる」


「さっき、魔力の流れと術式を見ました」


「見ただけで扱えるものではない。失敗すれば魔力だけを失うぞ」


「それでも、何もしなければ光が消えます」


 ユウトは胸の奥へ意識を向けた。


 呼吸とも鼓動とも違う、ぬるい水のような力が身体の内側を巡っている。前よりも、はっきりと感じられた。


 老人が魔法を使った際の流れを思い出す。


 魔力を集め、腕へ導き、術式を形作る。


 右手を前へ出した。


「闇を退け、我らの道を照らせ――ライト」


 胸の奥から魔力を動かす。


 しかし、腕へ届く前に流れが散り、何も起こらなかった。


【発動失敗】


【原因:術式形成前に魔力が拡散しました】


【消費MP:1】


【現在MP:41/42】


 情報を理解しただけでは、身体は思いどおりに動かない。


「肩に力を入れるな!」


 老人が杖を支えながら怒鳴る。


「魔力を押し出そうとするな。水を細い溝へ流すように導け!」


 水を流す。


 ユウトは森で見た小川を思い浮かべた。


 水は力で押さなくても、道さえあれば流れていく。


 再び胸の奥へ意識を集中した。


 魔力を掴もうとせず、進む道だけを思い描く。


 胸から肩へ。


 肩から腕へ。


 掌へ届いた魔力を、【鑑定】で見た術式へ整えていく。


【魔法上達により、魔力操作への理解が補助されます】


 集める。


 光へ変換する。


 球状に保つ。


 指定した場所へ送り出す。


「闇を退け、我らの道を照らせ――ライト」


 掌の上に、小さな光が生まれた。


 一瞬大きく揺らぎ、消えかける。


「明るさを欲張るな! まず形を保て!」


 ユウトは光を強めるのをやめ、術式の輪郭だけへ意識を集中した。


 漏れ出そうとする魔力を内側へ戻す。


 光は拳ほどの大きさで安定した。


【初級光魔法【ライト】を習得しました】


【消費MP:2】


【現在MP:39/42】


 自分の魔法が、目の前に浮かんでいる。


 胸の奥から喜びが込み上げたが、見入っている場合ではない。


「左の空き地へ動かせますか?」


「術式へ位置の指示を加えろ。急に動かせば崩れるぞ」


 ユウトは光球がゆっくり左へ進む姿を思い描いた。


 光は頼りなく揺れながらも、柵の外へ移動する。老人の【ライト】が消え、代わりにユウトの光が畑を照らした。


「本当に使った……」


 村人の一人が呆然と呟く。


 老人も目を見開いていた。


「魔力を感じるだけで何月もかかる者がおる。それを、一度失敗しただけで……」


 だが、すぐに険しい表情へ戻った。


「驚くのは後じゃ。森猪を見ろ!」


 ユウトは先頭の森猪へ【鑑定】を向けた。


【種族:森猪】


【危険度:F】


【状態:興奮・前脚負傷】


【感覚特性:夜目に優れる】


【弱点:急激な強光により視覚が一時的に低下】


 ユウトは光球を低く下げ、森猪の正面へ寄せた。


 暗闇に慣れていた森猪が顔を背け、急に足を止める。後ろの個体がぶつかり、二頭とも左へ進路を変えた。


「今だ!」


 グレンの矢が先頭のホーンウルフの鼻先をかすめ、右側の地面へ突き刺さる。


 右を塞ぎ、左の空き地へ逃げ道を示す一射だった。


 ホーンウルフたちは森猪の後を追い、村の横を駆け抜けていく。残った森猪も、村人たちの叫びと突き出された槍を避け、仲間の後を追った。


 足音が水路沿いに遠ざかっていく。


 それでも、誰も武器を下ろさなかった。


「行ったのか……?」


「まだだ。あいつらを追い出したものが残っている」


 グレンは矢をつがえたまま、森を見据えていた。


 ユウトも光球を森へ向ける。


 光を維持する間も、胸の奥から少しずつ魔力が抜けていく。移動させるたびに術式が揺れ、集中を緩めればすぐに消えてしまいそうだった。


【術式安定性:低下】


【原因:魔力供給の偏り】


【現在MP:38/42】


 ユウトは光の形を立て直す。


 すると、新たな情報が表示された。


【初級光魔法【ライト】】


【習熟度:初歩】


【改善可能項目:明度・持続時間・移動速度・消費MP】


【進化系統:中級・上級・帝級・伝説級・神級】


 光球を大きくするだけではない。


 広い範囲を昼のように照らす魔法。


 闇や幻影を退ける魔法。


 さらに先には、世界の法則へ干渉する神級魔法まで存在している。


 自分は、普通なら見ることすらできない領域へ続く道を確認できる。


 その事実を、ユウトは初めて実感した。


 だが、進化系統を詳しく確かめる余裕はなかった。


 森の奥で木々が大きく揺れる。


 先ほどの魔物たちよりも重い足音が、一歩ずつ近づいてきた。


 ユウトの光が届くぎりぎりの場所で、太い木の幹が音を立てて折れた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで。

明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ