第27話 加護の正体
セシリアとヨナスがリントに戻ってきたのは、三日後のことだった。
ふたりは私の手紙を受け取り、すぐに馬を飛ばしてくれた。
「間に合いましたね」
セシリアは息を切らしながら、けれど、しっかりとした目で言った。
「証言します。
私がもう加護を取り戻したことを。
だから、エルナ様を王都へ呼ぶ理由はない、ことを」
◇
その翌日。
王都の使者とレオンハルトが、ふたたび教会を訪れた。
召喚の返事を聞きに来たのだ。
教会には、私とユリウス、マレン、そしてセシリアとヨナスがいた。
外には町の人たちが静かに見守っていた。
「エルネスティーネ殿」
使者が切り出した。
「ご決断は」
「お断りいたします」
私は落ち着いて答えた。
レオンハルトの眉が跳ねた。
「これは王命ですぞ。
しかも、聖務への協力という大義が」
「その大義はすでにありません」
私はセシリアを見た。
セシリアが一歩前に出た。
「私が証言します」
その声は震えていなかった。
「私、セシリア・モートは、すでに加護を取り戻しております。
大聖儀は私ひとりで務められます。
エルネスティーネ様の協力は必要ありません」
使者が戸惑った。
「し、しかし、神殿長はセシリア殿の加護が不安定だと」
「神殿長は」
ヨナスが割って入った。
「ご存じないのです。
セシリア様がすでに回復された、ことを。
いえ……」
ヨナスはきっぱりと言った。
「ご存じでありながら、別の意図でこの召喚を進めておられる」
その言葉に使者が青ざめた。
レオンハルトの顔から笑みが消えた。
◇
「……面白い」
レオンハルトが低く呟いた。
その仮面が完全に剥がれていた。
「ならば問おう。
エルネスティーネ殿。
そもそも、なぜあなたは聖女の座を追われた。
それはあなたに本物の加護がなかった、からではないのか。
加護もない者を、なぜ我々が求めると思うのか」
それは苦しまぎれの問いだった。
私を「加護のない偽物」と切り捨てることで、この場を逃れようとする。
けれど、その問いに答えたのは私ではなかった。
「それは違います」
セシリアが言った。
「本物の加護は、エルナ様にあります」
教会がしん、と静まった。
「私はこのリントの町で見ました。
エルナ様が来てから、この町は冬でも井戸が涸れず、畑が実り、病が癒える。
それは加護の力です。
聖印を返してもなお、エルナ様に宿っている。
本物の加護の」
「そのとおり」
マレンが頷いた。
「この教会の古い記録にもある。
『真の加護は冠にあらず、印にあらず、人の在りように宿る』、と。
エルナの在りようが、この土地を祝福しているのです」
レオンハルトは言葉を失っていた。
彼が「加護のない偽物」と切り捨てようとした、その相手こそが、本物の加護を宿す者だと、皆が証言した。
◇
私は静かに口を開いた。
「皆さんがそう言ってくださるのなら、私には加護があるのかもしれません」
私はレオンハルトをまっすぐに見た。
「けれど、レオンハルト様。
ひとつ申し上げます。
たとえ私に加護があったとしても、それはあなたのものにはなりません。
聖女の座を取り戻すためにも使いません」
私の声は静かで、けれど、揺るぎなかった。
「加護は誇るためでも、奪い合うためでもない。
ただ、静かに人を支えるためにある。
私はそう信じています。
だから、私はこの町で、この加護を、ここの人々のために使います。
王都の道具にはしません」
それは宣言だった。
声高なものではない。
ただ、静かな在りようの宣言。
レオンハルトは私をしばらく見つめていた。
そして、何も言えずに、ただ唇を噛んだ。
加護の正体は明らかになった。
それはきらびやかな奇跡ではなく、ただそこに静かに在る、ひとりの人の在りようだった。
本話をお読みいただき、ありがとうございました。
セシリアとマレンの証言で、ずっと問われてきた謎に、ひとつの答えが差し込みました。
次話は「それでも、戻らない」です。




