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聖女を辞めましたが、私は静かに暮らすだけです 〜本物の乙女が現れたので聖印をお返ししたら、辺境でなぜか過剰に大切にされています〜  作者: リリア・ノワール


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第27話 加護の正体

セシリアとヨナスがリントに戻ってきたのは、三日後のことだった。


ふたりは私の手紙を受け取り、すぐに馬を飛ばしてくれた。


「間に合いましたね」


セシリアは息を切らしながら、けれど、しっかりとした目で言った。


「証言します。

私がもう加護を取り戻したことを。

だから、エルナ様を王都へ呼ぶ理由はない、ことを」



その翌日。


王都の使者とレオンハルトが、ふたたび教会を訪れた。


召喚の返事を聞きに来たのだ。


教会には、私とユリウス、マレン、そしてセシリアとヨナスがいた。


外には町の人たちが静かに見守っていた。


「エルネスティーネ殿」


使者が切り出した。


「ご決断は」


「お断りいたします」


私は落ち着いて答えた。


レオンハルトの眉が跳ねた。


「これは王命ですぞ。

しかも、聖務への協力という大義が」


「その大義はすでにありません」


私はセシリアを見た。


セシリアが一歩前に出た。


「私が証言します」


その声は震えていなかった。


「私、セシリア・モートは、すでに加護を取り戻しております。

大聖儀は私ひとりで務められます。

エルネスティーネ様の協力は必要ありません」


使者が戸惑った。


「し、しかし、神殿長はセシリア殿の加護が不安定だと」


「神殿長は」


ヨナスが割って入った。


「ご存じないのです。

セシリア様がすでに回復された、ことを。

いえ……」


ヨナスはきっぱりと言った。


「ご存じでありながら、別の意図でこの召喚を進めておられる」


その言葉に使者が青ざめた。


レオンハルトの顔から笑みが消えた。



「……面白い」


レオンハルトが低く呟いた。


その仮面が完全に剥がれていた。


「ならば問おう。

エルネスティーネ殿。

そもそも、なぜあなたは聖女の座を追われた。

それはあなたに本物の加護がなかった、からではないのか。

加護もない者を、なぜ我々が求めると思うのか」


それは苦しまぎれの問いだった。


私を「加護のない偽物」と切り捨てることで、この場を逃れようとする。


けれど、その問いに答えたのは私ではなかった。


「それは違います」


セシリアが言った。


「本物の加護は、エルナ様にあります」


教会がしん、と静まった。


「私はこのリントの町で見ました。

エルナ様が来てから、この町は冬でも井戸が涸れず、畑が実り、病が癒える。

それは加護の力です。

聖印を返してもなお、エルナ様に宿っている。

本物の加護の」


「そのとおり」


マレンが頷いた。


「この教会の古い記録にもある。

『真の加護は冠にあらず、印にあらず、人の在りように宿る』、と。

エルナの在りようが、この土地を祝福しているのです」


レオンハルトは言葉を失っていた。


彼が「加護のない偽物」と切り捨てようとした、その相手こそが、本物の加護を宿す者だと、皆が証言した。



私は静かに口を開いた。


「皆さんがそう言ってくださるのなら、私には加護があるのかもしれません」


私はレオンハルトをまっすぐに見た。


「けれど、レオンハルト様。

ひとつ申し上げます。

たとえ私に加護があったとしても、それはあなたのものにはなりません。

聖女の座を取り戻すためにも使いません」


私の声は静かで、けれど、揺るぎなかった。


「加護は誇るためでも、奪い合うためでもない。

ただ、静かに人を支えるためにある。

私はそう信じています。

だから、私はこの町で、この加護を、ここの人々のために使います。

王都の道具にはしません」


それは宣言だった。


声高なものではない。

ただ、静かな在りようの宣言。


レオンハルトは私をしばらく見つめていた。


そして、何も言えずに、ただ唇を噛んだ。


加護の正体は明らかになった。


それはきらびやかな奇跡ではなく、ただそこに静かに在る、ひとりの人の在りようだった。

本話をお読みいただき、ありがとうございました。


セシリアとマレンの証言で、ずっと問われてきた謎に、ひとつの答えが差し込みました。


次話は「それでも、戻らない」です。

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