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聖女を辞めましたが、私は静かに暮らすだけです 〜本物の乙女が現れたので聖印をお返ししたら、辺境でなぜか過剰に大切にされています〜  作者: リリア・ノワール


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第26話 揺れない心

翌朝。


私はユリウスとマレンを教会に呼んだ。


「決めました」


私の声は落ち着いていた。


「私は王都の使者に会います。

逃げず。

けれど、王都へは行きません」


ユリウスが眉を寄せた。


「どういうことだ」


「召喚の名目は『聖務への協力』、です」


私はゆっくりと説明した。


「セシリア様の加護が不安定だから、私に協力させる、と。

ですが、その前提はもう崩れています」


「崩れて……?」


「ええ」


私は頷いた。


「セシリア様はもう加護を取り戻しました。

肩の力を抜いて、ちゃんと火を灯せるようになった。

それはこの教会で皆が見ています」


マレンが静かに頷いた。


「ええ。

この目で見ましたよ。

あの子の灯した火を」


「セシリア様ご自身が『私はもう大丈夫です』と証言してくだされば、『聖務への協力』という名目は成り立たなくなります」


私は続けた。


「名目が崩れれば、残るのはレオンハルト様の私欲だけ。

それを白日のもとにさらせば、王都も無理を押し通せなくなります」



ユリウスはしばらく考えていた。


「……理屈は分かる。

だが、セシリア殿が証言してくれるか。

神殿がそれを許すか」


「セシリア様は証言してくださいます」


私は迷いなく言った。


「あの方はもう恐れに縛られていません。

そして、ヨナス様も味方になってくださっています」


私はすでに、セシリアとヨナスへ手紙を送っていた。

事情を記し、証言をお願いする、手紙を。


「あとは待つだけです。

ふたりが来てくださるのを」


ユリウスは私をじっと見ていた。


「お前は変わったな」


「え?」


「前のお前なら、人に頼らず、ひとりで身を引いていた」


ユリウスの口元がわずかにゆるんだ。


「だが、今のお前は人を頼り、人とともに立とうとしている」


私はその言葉に少しだけ笑った。


「あなたが教えてくださったのです。

ひとりで背負わなくていいのだと」


それはかつて、私がセシリアに言った言葉でもあった。

巡り巡って、その言葉は私自身を支えていた。



その日の午後。


私はひとり、雪の積もった庭に立っていた。


あの枯れかけた木のそばに、小さな芽が雪の下で春を待っている。


私は懐から白百合の押し花を取り出した。


私の出自。

加護を宿しやすい血。

家に持て余され、神殿に出され、今また利用されようとしている。


その血が私を縛ろうとする。


けれど、私はもう知っていた。


血が何であろうと、加護があろうとなかろうと、私は私だ。


ユリウスがそう言ってくれた。

ヨナスが、セシリアが、町の人たちが、「エルナ」を見てくれた。


私の価値は血に宿っているのではない。

私の在りように宿っている。


そう思えた。


「……大丈夫」


私はそっと呟いた。


「私はもう揺れない」


冷たい風が頬を撫でた。


私の心は、不思議なほど凪いでいた。


——それでも、ひとつだけ。


なぜ私だったのか。その理由だけは、まだ、誰も教えてくれない。

本話をお読みいただき、ありがとうございました。


次話は「加護の正体」です。

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