第19話 王都へは、参りません
翌朝。
レオンハルトは。
ふたたび。
教会を、
訪れた。
今日も。
優美な、
笑みを。
たずさえて。
「よく、
お休みに、
なれましたか」
「ええ。
おかげさまで」
私は。
落ち着いて。
答えた。
昨夜。
自分の、
過去を。
知った。
冷たい、
過去だった。
けれど。
ユリウスの、
言葉が。
その冷たさを。
溶かして、
くれた。
だから。
今朝の、
私は。
不思議なほど。
凪いで、
いた。
◇
「さて。
エルナ様」
レオンハルトは。
長椅子に。
腰を、
かけ。
切り出した。
「昨日の、
お話の、
続きを。
王都には。
あなた様を。
待つ者が。
おります。
あなた様の、
お血筋を。
正しく、
評価し。
ふさわしい、
場所を。
用意する、
者が」
「ふさわしい、
場所、
ですか」
「ええ」
レオンハルトの、
目に。
また。
あの、
熱が。
よぎった。
「あなた様の、
血は。
得がたい、
ものです。
その血を。
このような、
辺境で。
朽ちさせるのは。
あまりに。
惜しい」
私は。
彼の、
言葉を。
静かに。
聞いて、
いた。
そして。
気づいた。
この人の、
言葉には。
一度も。
「エルナ」
という。
名前が。
出てこない。
「血」。
「血筋」。
「お力」。
そればかりだった。
神殿の、
人々と。
同じ、
だった。
誰も。
私、
自身を。
見ては。
いない。
◇
「レオンハルト様」
私は。
ゆっくりと。
口を、
開いた。
「ひとつ。
お尋ね、
しても。
よろしいですか」
「ええ。
なんなりと」
「あなたは。
私の、
何を。
王都へ。
連れて、
いきたいのですか」
レオンハルトは。
一瞬。
戸惑った。
「何を、
とは……?
あなた様、
ご自身を、
ですが」
「いいえ」
私は。
首を、
振った。
「あなたが、
ほしいのは。
私の、
血と。
加護でしょう。
エルナ、
という、
人間では、
なく」
レオンハルトの、
笑みが。
わずかに。
こわばった。
けれど。
すぐに。
彼は。
取り繕った。
「これは、
異な、
ことを。
血も、
加護も。
あなた様の、
一部では、
ありませんか」
「ええ。
一部です」
私は。
頷いた。
「けれど。
それが、
すべてでは、
ありません。
私は。
ここで。
土に、
まみれて、
冬支度を、
し。
町の人と、
スープを、
分け合い。
子どもの、
膝を、
洗う。
そういう。
『エルナ』、
です。
その、
すべてを。
あなたは。
見て、
いない」
レオンハルトは。
黙った。
「私は」
私は。
静かに。
けれど。
はっきりと。
告げた。
「王都へは。
参りません」
その声は。
震えて、
いなかった。
「私は。
ここで。
エルナ、
として。
暮らします。
それが。
私の。
選んだ、
道です」
◇
しばらく。
沈黙が。
落ちた。
やがて。
レオンハルトは。
ふっと。
息を、
ついた。
そして。
立ち上がった。
「……賢明な、
お答えだ。
と、
言いたい、
ところですが」
その、
笑みから。
優しさが。
消えて、
いた。
「エルナ様。
物事には。
ご自分の、
意思だけでは。
どうにも、
ならないことが。
あるのですよ」
その、
言葉に。
冷たい、
ものが。
混じって、
いた。
「あなた様の、
お力は。
もはや。
あなた様、
ひとりの、
ものでは。
ありません。
王都の。
しかるべき、
方々が。
それを。
必要と、
している」
「……それは」
「また。
近いうちに。
お会い、
しましょう」
レオンハルトは。
優雅に。
礼を、
し。
教会を。
去って、
いった。
その、
背中を。
見送りながら。
私は。
胸の、
ざわめきを。
感じて、
いた。
彼は。
引き下がった、
わけでは。
なかった。
ただ。
形を、
変えて。
また。
来る。
そして。
その、
背後には。
きっと。
神殿の。
影も。
ある。
「……厄介な、
男だな」
いつのまにか。
ユリウスが。
私の、
隣に。
立って、
いた。
「ええ」
私は。
頷いた。
けれど。
不思議と。
恐ろしくは。
なかった。
なぜなら。
私の、
隣には。
ユリウスが、
いた。
そして。
教会の、
外には。
私を、
案じる。
町の人たちの。
気配が。
あった。
「大丈夫です」
私は。
微笑んだ。
「私は。
もう。
ひとりでは。
ありませんから」
本話をお読みいただき、ありがとうございました。
「王都へは、参りません」。
声を荒げず、ただ静かに、自分の場所を示すエルナ。
けれど、レオンハルトは引き下がらず、
その背後には、神殿の影も。
第四章「冬支度」は、ここまで。
次話からは、第五章「冬の客」。
思いがけない人が、辺境を訪れます。
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