第18話 捨てられた理由
レオンハルトが、
町の宿へ、
引き上げたあと。
教会には。
私と、
ユリウスと。
マレンが。
残された。
「あの男」
ユリウスが。
低く、
言った。
「信用、
できない」
「ええ」
私も。
頷いた。
「けれど。
ひとつだけ。
本当のことを。
言っていました」
「本当のこと?」
「私の、
生まれに。
何か、
秘密が、
ある、
ということ」
私は。
窓の外の。
雪を、
見た。
「私は。
ずっと。
知りたかったのです。
なぜ、
私が。
あんなにも、
幼くして。
家を、
離れ。
神殿に、
出されたのか」
◇
そのとき。
ずっと、
黙っていた、
マレンが。
ぽつりと。
口を、
開いた。
「……エルナ。
あなたの、
家のことは。
私も。
少しだけ、
知っていますよ」
私は。
驚いて。
マレンを、
見た。
「マレンが……?」
「ええ」
マレンは。
古い、
記憶を。
たぐるように。
ゆっくりと。
語り始めた。
「この教会には。
昔から。
いろいろな、
人が。
流れ、
着きます。
その中に。
かつて。
あなたの、
家に、
仕えていた。
老いた、
侍女が。
いたのです」
「私の、
家に……?」
「ええ。
その人が。
死ぬ前に。
ぽつり、
ぽつりと。
話して、
くれました」
マレンの、
声は。
静かだった。
「あなたの、
お血筋はね、
エルナ。
とても、
古い、
家系なのです。
『加護を、
宿しやすい』。
そういう。
血を、
引いている」
私は。
息を。
のんだ。
加護を、
宿しやすい、
血。
「昔から。
その家系には。
聖女や。
聖人が。
何人も。
生まれた、
そうです。
そして。
あなたの、
お家は」
マレンは。
少しだけ。
言いよどんだ。
「その血を。
持て余して、
いたのです」
◇
「持て余す……?」
私が、
問うと。
マレンは。
頷いた。
「強すぎる、
加護の血は。
家にとって。
ときに。
重荷に、
なります。
政治の、
道具に、
使われたり。
あるいは。
ほかの、
貴族から。
ねたまれたり。
あなたの、
お家は。
その血を。
家に、
置いておくことを。
恐れた。
だから……」
「神殿に、
出した」
私は。
その先を。
引き取った。
「厄介払い、
として」
マレンは。
何も、
言わなかった。
ただ。
悲しそうに。
私を。
見た。
その、
沈黙が。
答えだった。
私は。
ゆっくりと。
椅子に。
腰を、
下ろした。
胸の中に。
冷たい、
ものが。
落ちて、
いった。
私は。
生まれた、
ときから。
「役割」だったのだ。
家にとっては。
厄介な、
血の。
預け先。
神殿にとっては。
都合の、
いい。
聖女の。
器。
誰も。
エルナ、
という。
ひとりの、
人間を。
見ては、
いなかった。
最初から。
ずっと。
そう、
だったのだ。
◇
「……エルナ」
ユリウスの、
声が。
した。
気づくと。
彼が。
私の、
すぐ、
そばに。
膝を、
ついて、
いた。
「つらいなら。
聞かなくて、
いい。
無理に、
過去を。
知る、
必要は。
ない」
その、
声が。
ひどく。
優しかった。
私は。
首を、
振った。
「いいえ。
知れて。
よかったのです」
涙は。
出なかった。
ただ。
胸の、
奥が。
しん、と。
冷えて、
いた。
「ずっと。
分からなかった。
なぜ、
自分が。
役割としてしか。
扱われないのか。
なぜ、
誰も。
私を。
見て、
くれないのか。
その、
答えが。
やっと。
分かりました」
ユリウスは。
私の、
顔を。
じっと。
見て、
いた。
そして。
ゆっくりと。
言った。
「お前を、
役割としか。
見なかった、
者たちは。
馬鹿だ」
その、
言葉に。
私は。
顔を、
上げた。
「俺は」
ユリウスは。
まっすぐに。
私を。
見た。
「お前の、
血筋など。
どうでも、
いい。
加護が、
あろうと。
なかろうと。
関係、
ない。
俺が、
見ているのは。
ただ。
エルナ、
という。
お前、
自身だ」
その言葉が。
冷えていた、
胸の、
奥に。
ぽっと。
灯が、
ともった、
ように。
温かく。
広がった。
最初から、
役割だった、
私を。
役割では、
なく。
「私」として。
見て、
くれる、
人が。
ここに、
いる。
それだけで。
過去の、
冷たさは。
もう。
私を。
凍えさせは。
しなかった。
「……ありがとうございます」
私は。
そっと。
呟いた。
窓の外では。
雪が。
静かに。
降り、
続けて、
いた。
本話をお読みいただき、ありがとうございました。
「加護を宿しやすい血」を持て余され、
役割として神殿に出された、エルナの過去。
最初から「私」を見てもらえなかった彼女。
けれど、ユリウスは言います。
「俺が見ているのは、エルナ自身だ」と。
次話「王都へは、参りません」では、
エルナが、自分の意思を、
静かに、告げます。
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どうぞ、よろしくお願いいたします。




