第17話 遠縁の名乗り
その人が、
教会を、
訪れたのは。
翌日の、
午後だった。
仕立ての、
いい、
外套。
手入れの、
行き届いた、
手袋。
辺境の、
雪道には、
似合わない、
洗練された、
姿。
歳は。
四十の、
半ば、
だろうか。
穏やかな、
笑みを、
浮かべて。
彼は、
丁寧に、
頭を、
下げた。
「初めて、
お目にかかります。
私は、
レオンハルト・カイ、
と申します」
その、
物腰は。
非の打ちどころが、
なかった。
「あなた様の、
遠い、
親類に、
あたります」
◇
私は。
戸惑った。
親類。
私の、
家との。
つながり。
「……失礼ですが。
私には、
親類の、
記憶が、
ほとんど、
ありません」
正直な、
言葉だった。
私は、
幼くして。
家を、
離れた。
神殿に、
出された。
実家の、
記憶さえ。
おぼろげだった。
「ええ。
存じております」
レオンハルトは。
優しげに。
頷いた。
「あなた様は、
ごく幼い頃に。
神殿へ、
入られた。
ご実家との、
縁も。
薄いまま、
だった。
それは。
おいたわしい、
ことです」
その言葉は。
労わりに、
満ちて、
いた。
けれど。
私は。
なぜか。
少しだけ。
身構えた。
優しすぎる、
言葉には。
ときに。
別の、
意味が、
隠れている。
それを。
私は。
神殿で。
嫌というほど。
学んで、
いた。
◇
「お茶を、
どうぞ」
私は、
彼を、
長椅子に、
招き。
マレンの、
淹れた茶を、
出した。
レオンハルトは。
優雅に、
それに、
口を、
つけ。
「素朴で。
けれど、
心の、
こもった、
お茶です」
と、
微笑んだ。
それから。
彼は。
本題を、
切り出した。
「単刀直入に、
申し上げます。
エルネスティーネ様。
いえ。
エルナ様、
と、
お呼びすべき、
でしょうか」
「エルナで、
結構です」
「では、
エルナ様。
私は。
あなた様を。
王都へ、
お迎えに、
参りました」
私は。
カップを、
持つ手を。
止めた。
「王都へ……?」
「ええ」
レオンハルトは。
身を、
乗り出した。
その目に。
ほんの一瞬。
熱の、
ようなものが。
よぎった。
「あなた様は。
このような、
辺境で。
埋もれて、
よいお方では、
ありません。
あなた様の、
お血筋には。
特別な、
意味が、
あるのです」
「血筋……?」
「ええ」
レオンハルトは。
声を。
少し、
ひそめた。
「あなた様の、
お生まれには。
あなた様、
ご自身も、
知らない。
大きな、
秘密が。
あるのです」
その言葉に。
私の、
胸の、
奥が。
ことり、と。
鳴った。
けれど。
それは。
ユリウスの、
名を、
聞いたときの。
温かい、
音とは。
違った。
もっと。
冷たく。
ざらりと、
した。
私が、
なぜ。
幼くして。
家を、
離れたのか。
なぜ。
神殿に、
出されたのか。
その、
答えを。
この人は。
知って、
いる。
「……お聞かせ、
願えますか」
私が、
尋ねると。
レオンハルトは。
ゆっくりと。
微笑んだ。
「もちろん。
ですが。
それは。
王都で。
ゆっくりと。
お話し、
しましょう。
ここでは。
あまりに。
寒すぎる」
その、
はぐらかし方に。
私は。
確信した。
この人は。
私の、
過去を。
「餌」に、
している。
私を。
王都へ。
連れて、
いくための。
「……失礼します」
そのとき。
教会の、
扉が。
開いた。
ユリウスだった。
彼は。
レオンハルトを、
見て。
その、
洗練された、
姿を、
見て。
すっと。
目を、
細めた。
「客人か」
低い、
声だった。
レオンハルトは。
立ち上がり。
辺境伯に。
優雅に、
礼を、
した。
「これは。
リント辺境伯さま。
ご挨拶が。
遅れました」
ふたりの、
視線が。
静かに。
交わった。
冬の、
冷たい、
空気が。
教会の中に。
ひととき。
張りつめた。
本話をお読みいただき、ありがとうございました。
遠縁を名乗る、優美な貴族レオンハルト。
エルナの「血筋の秘密」を餌に、王都へ誘います。
そこへ現れたユリウス。
静かな緊張が、走ります。
次話「捨てられた理由」では、
エルナが、自分の過去の意味と、
向き合うことになります。
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どうぞ、よろしくお願いいたします。




