表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を辞めましたが、私は静かに暮らすだけです 〜本物の乙女が現れたので聖印をお返ししたら、辺境でなぜか過剰に大切にされています〜  作者: リリア・ノワール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/30

第16話 冬支度

辺境の、

秋は、

短かった。


ある朝、

目を覚ますと。


窓の外の、

山の、

頂が。


うっすらと、

白く、

染まって、

いた。


「初雪だね」


マレンが、

窓辺で、

目を、

細めた。


「ここの冬は、

長いですよ。

そして、

厳しい。


さあ、

支度を、

始めましょう」



冬支度は、

町じゅうの、

仕事だった。


薪を、

割り、

積み。


野菜を、

塩や、

土に、

埋めて、

蓄える。


屋根の、

隙間を、

ふさぎ。


家畜を、

小屋へ、

移す。


私も、

教会の、

支度を、

しながら。


町の人の、

手伝いに、

回った。


聖女だった頃の私なら、

こんな、

泥にまみれた仕事を。


したことも、

なかった。


けれど、

今は。


土の匂いも。

薪の、

重みも。


不思議と、

心地よかった。


「エルナさん、

そっち持ってくれ!」


「はい!」


ユリウスと、

二人で。


大きな、

薪の束を、

運ぶ。


彼は、

領主でありながら。


誰よりも、

よく、

働いた。


袖を、

まくり。


汗を、

にじませ。


町の人と、

肩を、

並べて。


その姿に。


町の人たちが、

彼を、

慕う理由が。


分かる気が、

した。



昼には。


皆で、

広場に、

集まって。


温かい、

スープを、

分け合った。


「今年は、

蓄えが、

多いねえ」


女将が、

鍋を、

かき混ぜながら、

言った。


「豊作だったからね。


こんな、

あったかい冬支度は。


何年ぶりか」


そして、

彼女は。


私を、

見て。


にっと、

笑った。


「エルナさんが、

来てくれた、

おかげだよ」


「私は、

何も……」


「いいや」


今度は、

パン屋の主人が、

口を、

挟んだ。


「畑も、

井戸も、

家畜も。


あんたが、

来てから。


ぜんぶ、

調子が、

いいんだ。


冬になっても。


ほら、

井戸は、

涸れないし。


風邪っぴきも、

今年は、

少ない」


私は。


何も、

言えなかった。


ただ、

スープの、

湯気を。


見つめて、

いた。


加護は。


聖印を、

返したはずなのに。


それでも、

私の、

まわりに。


残って、

いるのだろうか。


それとも、

これは。


ただの、

めぐり合わせなのか。


私には。


分からなかった。


ただ、

ひとつ。


確かなのは。


私は、

それを。


誇る気も。


利用する気も。


なかった、

ということだ。


ただ。


この、

温かい広場が。


ずっと、

続けばいい。


そう、

思うだけだった。



夕方。


支度を、

終えて。


私は、

ユリウスと、

並んで。


暮れていく、

町を、

眺めて、

いた。


「……疲れたか」


ユリウスが、

尋ねた。


「いいえ」


私は、

首を、

振った。


「こういう疲れは。


嫌いでは、

ありません」


ユリウスは、

小さく、

笑った。


「お前は、

変わった、

聖女だな」


「もう、

聖女では、

ありません」


「ああ。

そうだったな」


彼は、

遠い、

山の、

雪を、

見た。


「だが。


俺は。


『聖女エルネスティーネ』より。


『エルナ』のほうが。


ずっと、

いい」


その言葉に。


私は。


胸が、

温かく、

なった。


「……ありがとうございます」


そのとき。


町の、

入り口の、

ほうから。


一頭の、

早馬が。


駆けて、

きた。


立派な、

身なりの、

使いの者。


それは。


明らかに。


王都から、

来た者の、

姿だった。


「リント辺境伯さまへ。


王都の、

カイ家より。


ご来訪の、

お報せに、

参りました」


ユリウスの、

眉が。


わずかに。


寄った。


私も。


その名に。


聞き覚えは、

なかったけれど。


王都、

という、

言葉に。


胸が、

ざわついた。


冬支度の、

温かさの、

向こうから。


何かが。


静かに。


近づいて、

いた。


本話をお読みいただき、ありがとうございました。


町の冬支度。

肩を並べて働くユリウスと、温かい広場。


けれど、その向こうから、

王都の影が、近づいてきます。


次話「遠縁の名乗り」では、

エルナの過去に関わる人物が、

辺境を、訪れます。


ブックマーク・評価、

どうぞ、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ