表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を辞めましたが、私は静かに暮らすだけです 〜本物の乙女が現れたので聖印をお返ししたら、辺境でなぜか過剰に大切にされています〜  作者: リリア・ノワール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/26

第14話 静かな波紋

噂が、辺境まで届くのには。


少しの、時間がかかった。


けれど、届いたときには。


それは、ずいぶんと大きくなっていた。


「なあ、エルナさん」


市場で、パン屋の主人が、声をひそめた。


「王都の神殿が、えらいことになってるって、聞いたぜ」


「えらいこと……?」


「新しい聖女さまの、お力が、うまく働かないんだとさ。


大きな儀式で、失敗したって。


それで、神殿は大慌てだって、話だ」


私は。


セシリアの手紙を思い出した。


人々の前で、揺らいだ、加護。


その、ほころびは。


もう、王都の外まで広がっていた。



噂は、それだけではなかった。


行商人が、別の話を運んできた。


「王都で、妙なことを聞いたんだ」


彼は、教会で、茶を飲みながら。


声を落とした。


「あんたのことを探っている、貴族がいるらしい」


「私を……?」


「ああ。


エルナという、元聖女の、生まれや血筋を、やたらと気にしている、お人が」


私は。


少し、眉を寄せた。


生まれ。血筋。


私が、幼くして、家から神殿に出された、あの経緯。


それを、気にする者がいる、という。


私自身、よくは知らない、過去だった。


なぜ、私はあんなにも幼くして、神殿に捧げられたのか。


その問いは。


ずっと、胸の奥に沈んでいた。


「……心当たりは、ないのですが」


私が、言うと。


行商人は、肩をすくめた。


「まあ、気をつけな。


王都の貴族ってのは、たいてい、何か企んでるもんだ」


私は、頷いた。


波紋は。


ふたつ、あった。


ひとつは、セシリアのほころび。


もうひとつは。


私の過去を探る、誰かの影。


そのふたつが。


静かに、辺境へと近づいていた。



その夜。


ユリウスが、教会に来た。


今日は、口実を持っていなかった。


ただ、まっすぐに、本題を切り出した。


「噂は、聞いた」


彼の声は、低かった。


「神殿が、お前を呼び戻そうとするかも、しれない」


「……かも、しれませんね」


私は、静かに答えた。


「けれど、私は戻りません。


何度、言われても」


ユリウスは。


私を、じっと見た。


そして、言った。


「お前が、そう決めているなら。


俺は、それを守る」


その言葉に。


私は、顔を上げた。


「守る……?」


「ああ」


ユリウスは、迷いなく頷いた。


「ここは、俺の治める土地だ。


お前は、この土地の人間だ。


もう、よそ者ではない。


神殿が、何を言ってきても。


お前の意思を、踏みにじることは、させない」


その声には。


いつもの、不器用さは、なかった。


ただ、領主としての。


いや。


ひとりの、男としての。


まっすぐな、決意だけが、あった。


「……ありがとうございます」


私は、言った。


ずっと。


私は、ひとりで身を引いて、ひとりで距離を取って、生きてきた。


誰かに、守られることなど。


望んでも、いなかった。


それなのに。


今、この人は。


「お前を守る」と、言ってくれた。


その言葉が。


凍えていた、心の、いちばん奥まで。


じんわりと。


温かく。


染みていった。



ユリウスが、帰ったあと。


私は、窓辺に立った。


辺境の、夜空は。


王都より、ずっと、星が近かった。


波紋は、近づいている。


けれど。


私は。


もう、ひとりではなかった。


町の人たちが、いる。


マレンが、いる。


そして。


ユリウスが、いる。


「守る」と、言ってくれる人が。


いる。


私は、そっと。


胸に、手を当てた。


ことり、と。


また、あの音がした。


それが、何の音なのか。


私は。


もう、はっきりと。


分かっていた。


本話をお読みいただき、ありがとうございました。


セシリアのほころびと、エルナの過去を探る影。

ふたつの波紋が、辺境に近づきます。


けれど、エルナは、もう、ひとりではありません。

「守る」と言ってくれるユリウスがいます。


次話「神殿の、ふたたびの使者」は、

第三章の、ひとつの山場です。


ここまで、十四話。

お付き合いいただき、

本当にありがとうございます。


ブックマーク・評価、

どうぞ、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ