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第9話:神々への過払い金請求。――わたくし、未承諾の「恩寵」は受け取らない主義ですの。

『――笑わせる。数千年の間、我らが与え続けてきた奇跡マナに対し、塵に等しい人間が“過払い”だと?』


 魔導貯蔵庫の闇を焼き尽くすような、黄金の光。

 現れたのは、鳥の羽を幾重にも重ねたような翼を持つ、非人間的な美貌を備えた「神の代理人」だった。

 その存在が放つ圧倒的な圧力に、隣に立つカエルス陛下の足が微かに震える。それは恐怖ではなく、彼の魂が背負わされた「負債」が、貸主を前にして悲鳴を上げているのだ。


「陛下、下がっていらして。……督促状を届けるのは、わたくしの仕事ですわ」


 わたくしは一歩前へ出た。

 神の光がわたくしの肌を焼こうとするが、不思議と熱さは感じない。……ああ、そうですわね。わたくしにとって、この輝きは「一方的に送りつけられた、価値不明の粗品」に過ぎませんもの。


『……不遜な。我が光を浴びながら、膝をつくことすら忘れたか。これこそが至高の恩寵。人類が永遠に支払い続けても足りぬ、救いの対価なり』


「恩寵、ですかしら? ……ふふ。精算も済んでいないのに、勝手にサービスを追加なさらないでいただけます? ――クロエ、監査報告を(・・・・・)」


 影の中から、音もなくクロエが現れた。

 彼女は神の放つ光の中でも平然と手帳を開き、事務的な声を響かせる。


「……過去三千年にわたる大陸全土の魔力供給量と、それに対する『原因不明の衰弱死(生命力の徴収)』を対比いたしました。神界側の徴収率は、当初の契約予想を年利換算で三千パーセント上回っております。……これは明白な暴利、および契約情報の非開示による詐欺行為に当たりますわ」


『貴様ら……何を……!』


「加えて」

 わたくしは、手元の『錆びた鉄のペン』を神の代理人へと向けた。

「陛下を含む歴代の皇帝が、不眠という形で肩代わりしてきた『不当な利息』。……これも含めれば、神界側はすでに人類に対し、国百個分に相当する生命力を『過剰に徴収』しておりますのよ。……お分かりかしら? わたくしたちは今、あなたを崇めているのではありません。――“過払い金の返還”を要求しているのですわ」


 わたくしのペン先から、青白い計算式が溢れ出した。

 それは神の黄金の光を侵食し、複雑な幾何学模様となって空間を埋め尽くしていく。


『だまれば、虫ケラめ! 我らの奇跡がなければ、貴様らなど暗闇の中で死に絶える運命にあるのだぞ!』


「暗闇の方が、命を吸われるよりは幾分健康的ですわ。……それに。あなたがた、帳簿を二重に付けていらっしゃいますわね?」


 わたくしは、ペンの先で空間の一点を突いた。

 カチリ、と硬質な音が響く。

 黄金の光の一部が剥がれ落ち、その裏に隠されていた「負のエネルギー」の奔流が露わになった。


「一方では『救い』として魔力を貸し出し、もう一方では、その魔力を使用した際に生じる『負の感情』を、さらに別のエネルギーとして回収している。……貸付先から利息を取りつつ、貸付先の排泄物まで独占して利益に変える。――随分と、欲張りな商売をなさっていますのね」


 神の代理人の顔が、初めて驚愕に歪んだ。

 それは、隠し続けてきた「不正融資」の全貌を、白日の下に晒された小悪党の表情そのもの。


「陛下。……この方の光は、偽物ですわ。……これ以上、一分たりともかねを支払う必要はございません」


「……ヴィクトリア。貴公は、本当に……」

 カエルス陛下が、驚嘆を含んだ溜息を漏らす。

 彼の周囲を縛り付けていた鎖のような気配が、わたくしの言葉一つで、霧散していく。


『……いいだろう。道理を解さぬ無知な民よ。ならば、その命そのものを今ここで強制回収・・してやろう!』


 神の代理人が右手を掲げた。

 貯蔵庫内の全魔力が、わたくしたちを圧殺せんと巨大な槍へと変貌する。

 だが。


「あら。……“差押さしおさえ”の執行中につき、その資産の移動は一切禁じられておりますわよ」


 わたくしは、錆びたペンで虚空に大きな×印を描いた。

 その瞬間。

 神が放とうとした光の槍が、まるで凍りついたように静止した。


「この貯蔵庫の所有権は、現在、暫定的にわたくしが預かっております。……わたくしの許可なく、一ゴルドの魔力も持ち出すことは許しません。――陛下、出番ですわ。……この無礼な『集金人』を、強制退去させていただけますかしら?」


「……承知した。わが執行官どの」


 カエルス陛下が、かつてないほど軽い身のこなしで剣を抜いた。

 不眠の呪縛から解き放たれ、その瞳には真の「死神」の輝きが宿っている。


 精算のお時間です。

 神々であっても、わたくしの帳簿からは逃げられませんわ。

「神界側の徴収率は、年利三千パーセントを上回っております」


……ふふ。神様だろうと、法外な金利は許しませんわ。

ヴィクトリア様の手にかかれば、信仰すら「不当な契約」に早変わり。

カエルス陛下も本来の力を取り戻し、二人の逆襲が加速します。


次話、神の代理人vs死神皇帝!

そしてヴィクトリア様が、貯蔵庫の魔力を利用して「帝国全体」の負債をゼロにするという、驚天動地の経済革命を仕掛けます。


「神相手に詐欺呼ばわりするヴィクトリア様、最高!」

「カエルス陛下の剣が見たかった!」

と少しでもワクワクしていただけたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで、わたくしへの「投資」をお願いいたしますわ。


利息以上のカタルシスを、次話の決着でお返しすることをお約束します。

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