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第3話:王家の破産手続き。――陛下、その王冠の「所有権」は既にわたくしにございます。

「不敬であるぞ、ヴィクトリア! 近衛兵、この狂った娘を捕らえよ! 即刻、地下牢へ叩き込め!」


 国王アルベルトの咆哮が、静まり返った広間に激震を走らせる。

 先ほどまで床で丸まっていたジュリアン殿下が、父王の登場に縋り付くように声を上げた。


「父上! この女を……この無礼な女を処刑してください! 私に、こんな、こんな屈辱を……!」


 裸に近い醜態を晒しながら叫ぶ息子の姿に、国王の顔は怒りで赤黒く染まっている。

 だが、殺気立つ近衛騎士たちが剣を抜こうとしたその瞬間。


「……おやめなさい。怪我をなさるのは、そちらですわよ?」


 わたくしは、手に持った『錆びた鉄のペン』で、騎士たちの鼻先を指した。

 ただの文房具。魔力も、鋭さもないはずのそれが、なぜか彼らの足を止める。

 本能が――死の予感が、彼らを踏み止まらせたのだ。


「陛下。不敬罪、とおっしゃいましたかしら? それは『正当な権力を持つ君主』に対してのみ成立する罪ですわ。……わたくしの計算が正しければ、現在、この国において陛下は『王』ではなく、単なる『管理人』に過ぎませんのよ」


「……何だと? 何をたわ言を!」


「たわ言かどうか、こちらの『国家機密会計帳簿(裏帳簿)』の写しをご覧になれば分かりますわ」


 わたくしが扇を閉じると、クロエがまた別の書類を取り出した。

 それは、王家が十年前の飢饉の際、アストレア公爵家から『緊急支援』を受けるにあたって署名した秘密契約書。


「十年前、陛下はわたくしの父と契約を交わしました。……『王都の土地、および王城の所有権を担保に、金貨五十億枚を無利子で借り受ける』。ただし、その婚約――わたくしとジュリアン殿下の婚姻が成立しなかった場合、即座に返済義務が生じ、不履行の際は所有権が債権者に移譲される、と」


 国王の顔から、一気に血の気が引いた。

 周囲の貴族たちが「嘘だろ……」「この城が担保だったのか?」とざわめき始める。


「忘れたとはおっしゃいませんわよね? 陛下自らの署名と、王家の血印が押されたこの契約書。……そして、先ほどジュリアン殿下は、衆人環視の中で婚約破棄を宣言なさいました。つまり、この瞬間、この城も、この土地も、法的には『わたくしの私有地』となりましたの」


「ぐ、ぐぬ……! だが、その借金は既に返済したはずだ! 毎年、公爵家には莫大な利権を与えていただろう!」


「あら。それは『利息』ですわよ。陛下。元金は一ゴルドも減っておりません。むしろ、毎年の軍事費の不足分をわたくしが『立て替え』てきましたから、債務は膨れ上がる一方ですわ」


 わたくしは一歩、また一歩と、玉座に座るかのような威厳で国王へと近づく。


「現在、王家の借入総額は千二百億ゴルド。……国の年収の五倍です。陛下、あなたはこの国の将来を、わたくしの十年間という時間に賭けていたのです。それを、あの愚かな息子様が灰になさいましたのよ」


「そんな……馬鹿な……」


 国王の膝がガクガクと震え始める。

 絶対的な主権者だと思っていた男が、今や借金取りに追い詰められた平民のような顔をしていた。


「陛下。わたくしは慈悲深い人間ですわ。……ですから、今すぐこの城を明け渡し、わたくしへの借金を認める公文書にサインなさるなら、これ以上の『取り立て』は猶予いたしましょう。――もちろん、隣国の死神皇帝陛下が黙っていれば(・・・・・・・・・)、の話ですが」


「カエルス……だと? 先ほども言っていたな。あ奴がどう関係している!」


「簡単なことですわ。わたくし、先ほどカエルス皇帝陛下と魔導通信で『債権譲渡』の予約契約を締結いたしましたの。四十八時間以内に返済がなされない場合、この国の『取り立て権』は、帝国へと移ります」


 会場に、今日一番の絶望が満ちた。

 帝国。大陸最大の武力を持つ国。

 あそこの皇帝が債権者になるということは、返済が滞れば『国ごと差し押さえられる(侵攻される)』というと同義だ。


「ジュリアン、貴様……貴様というやつは……!!」


 国王が、震える手で下着姿の息子を指差す。

 息子が愛を優先して投げ捨てたのは、婚約者ではない。国の「命」そのものだったのだ。


「精算の期限は、明後日の日没。……それまでに千二百億ゴルドをご用意ください。さもなくば、この国から王家という名前は消え、皇帝陛下の『直轄領』となりますわ。――楽しみですわね、陛下。あなたがたが、明日からどこで夜を明かされるのか」


 わたくしは、動かなくなった国王と、泣き叫ぶ気力も失った王子を一瞥し、優雅に背を向けた。


 錆びたペンを懐にしまい、クロエと共に広間を後にする。

 背後で、王妃の悲鳴と、エララの泣き声が遠ざかっていく。


 さあ、次は帝都へ向かわなくては。

 わたくしの価値すうじを正しく評価してくれる、あの冷酷な皇帝陛下が待っているのですから。

「この国において、陛下は単なる管理人ですわ」


……ふふ、最高の「格下げ」ですわね。

王様ですら、ヴィクトリア様の前では借金まみれの経営者に過ぎません。


次話、ついに舞台は「死神皇帝」の待つノワール帝国へ!

ヴィクトリア様がなぜ「錆びたペン」を後生大事に持っているのか……その理由の片鱗も明かされますわ。


「ヴィクトリア様の毒舌が癖になる!」

「もっと王家が絶望する様を見たい!」

と少しでも思っていただけたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで、わたくしの「帳簿」に足跡を残していってくださいな。


投資していただいた分は、次話の「ザマァ」という名の配当でお返しいたしますわ。

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