第2話:愛より重い請求書。――王族の誇り、その鑑定価格は銅貨一枚分ですわ。
「な、何を馬鹿なことを……! 私が服を脱ぐだと!? この国の第一王子である私に、裸になれと言うのか!」
ジュリアン殿下の叫びが夜会の広間に木霊する。
顔を真っ赤にし、血管を浮かべて憤慨する姿は、先ほどまで「聖女」を抱き寄せ、優雅に愛を語っていた男と同一人物とは思えないほど醜悪だった。
私は、扇の隙間からその様子を冷ややかに眺める。
「ええ、左様ですわ。耳の機能まで負債とともに売却なさいましたの? その服の生地、仕立て代、金糸の刺繍――そのすべて、わたくしのアストレア商会が代金を立て替えております。契約上、婚約が解消された時点で、それらはわたくしの所有物として即時返還される義務がございますのよ」
「ふざけるな! こんな公衆の面前で……エララ、見ていないで何か言ってくれ!」
助けを求められた「聖女」エララは、涙を浮かべて私を見上げた。
「ヴィクトリア様、あまりにも酷いです! ジュリアン様はあなたを愛そうと努力されていたのに……。お金なんて、愛に比べればちっぽけなものでしょう? その清らかな光で、どうか心を改めて――」
「清らかな光、かしら?」
私は彼女の言葉を遮り、一歩踏み出す。
エララの手から放たれる、人々を魅了する温かな魔力の光。
それ(・・)を見るたびに、私の脳内では正確な「コスト」が弾き出される。
「エララ様。あなたが今、その『奇跡』で会場の空気を和らげようとするたびに、この国の魔導貯蔵庫からどれだけのマナが消費されているかご存知? そしてそのマナの補充費用を、誰が寄付という名目で支払ってきたか」
「えっ……それは……教会の神聖な力で……」
「いいえ。わたくしのサイン一つで動く、公爵家の資産ですわ。あなたのその『安っぽい光』を維持するために、わたくしがこの一年で投じた金額は三億ゴルドを下りません。――愛よりお金の方が、よほど誠実にあなたを支えてきたようですわね」
エララの顔が、一瞬で土気色に変わった。
慈愛の聖女という仮面の裏で、彼女は「計算外の事実」に震えている。
「さて、殿下。お喋りの時間は終わりですわ。――クロエ」
「はい。回収作業員を(・・・・・・・)」
背後にいたクロエが指を鳴らす。
すると、広間の入口から黒いスーツに身を包んだ屈強な男たちが数名、無表情で行進してきた。
彼らは兵士ではない。アストレア商会が雇う、法的執行を専門とする「資産回収官」だ。
「な、なんだ貴様ら! 私は王子だぞ! 無礼者、下がれ!」
ジュリアン殿下が腰の剣を引き抜こうとする。
だが。
「……抜けない!? なぜだ、鞘が……!」
「あら。その剣の鞘も、わたくしの商会が開発した特殊魔導具ですの。登録された『持ち主』が支払停止を命じれば、二度と抜けることはございませんわ」
カチャカチャと無様な音を立てて、抜けない剣を振り回す王子。
回収官たちは一切の容赦なく、その腕を掴み、押さえつけた。
「やめろ! 放せ! 脱がせるな! あああっ!」
悲鳴が上がる。
きらびやかな刺繍が施された上着が剥ぎ取られ、宝石の付いたカフスボタンが弾け飛ぶ。
それらはすべて、クロエが捧げ持つ布の上へ、恭しく、そして事務的に積み上げられていった。
数分後。
夜会の中心に立っていたのは、華やかな第一王子ではなかった。
下着姿で床に膝をつき、必死に肌を隠そうと丸まっている、ただの情けない男だ。
「……なんてことだ。あのジュリアン殿下が……」
「本当に、公爵家の金がなければ、あの御方は何も持っていないのか……?」
観客たちの「認識」が、音を立てて崩れていく。
蔑まれていたのは私ではなく、金という名の背骨を抜かれた、この無能な王子だったのだと。
私は、手元に残った『錆びたペン』を弄びながら、震える王子を見下ろした。
「殿下。その姿、今のあなたの『価値』を実によく表しておりますわよ。鑑定価格、銅貨一枚分といったところかしら?」
「ヴィクトリア……貴様……殺してやる……絶対に許さないぞ……!」
床に額を擦り付けながら、呪詛を吐くジュリアン。
その時、広間の大扉が勢いよく開け放たれた。
「――そこまでだ! 何事か、この騒ぎは!」
現れたのは、黄金の冠を戴く初老の男。
この国の主、国王アルベルト。
激昂する王の背後には、武装した近衛騎士団がずらりと並んでいる。
普通なら、ここで震え上がるべき場面だろう。
だが、私は優雅にカーテシーを捧げ、唇の両端を吊り上げた。
「あら、陛下。お待ちしておりましたわ。――ちょうど今、王家の破産手続き(・・・・・・)を開始したところですの」
王の顔が驚愕に歪む。
精算劇は、まだ始まったばかり。
王家という名の巨大な砂上の楼閣を、わたくしが根こそぎ買い叩いて差し上げますわ。
「鑑定価格、銅貨一枚分」
スカッとしていただけましたでしょうか?
王子を文字通り「身ぐるみ剥がす」ヴィクトリア様の容赦のなさが、筆を走らせていて最高に心地よかったです。
次回、ついに国王との直接対決!
しかし、ヴィクトリア様の手元には、すでに王家を詰ませる「第二の請求書」が……。
「このザマァ、もっと加速してほしい!」
「ヴィクトリア様、かっこいい!」
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あなたのその一票が、ヴィクトリア様の次の「利息」に変わります。




