第22話:断罪の広場と、中抜きされた祈り。――神への支払額、管理会計上は「使途不明金」ですわ。
「……異端審問、承りましたわ。ですが、場所を変えていただけますかしら?」
砕け散った黄金の杖の残骸をヒールで踏み締め、わたくしは扇を優雅に広げました。
謁見の間を支配していた、凍りつくような沈黙。
筆頭審問官バチカンの顔は、もはや憤怒を通り越し、得体の知れない「数字の怪物」を前にした恐怖に痙攣しております。
「何を……たわ言を……。異端審問は、静謐なる教会の地下で行われるのが理だ……!」
「あら、それではわたくしの『監査』が皆様に届きませんもの。……陛下、帝都の『審判の広場』を開放していただけます? ――大陸全土の魔導通信を繋いで、この滑稽な茶番を全世界へ中継して差し上げましょう」
「……クク。面白い。……執行官殿の望むままだ。……おい、聞こえたな? 全土に伝えろ。――今から、神の代理人の『財布の中身』を検める、とな」
カエルス陛下が愉悦に満ちた声を響かせると、騎士たちが一斉に動き出しました。
一時間後。
帝都ノワールの中央広場。
そこは、数万の市民と、大陸中の魔導通信機のレンズに囲まれた、巨大な「公開法廷」へと変貌しておりました。
「ヴィクトリア・フォン・アストレア! 跪け! 貴殿の罪は、神の聖域である魔導水晶を略奪し、不敬なる通貨に変えたことにある!」
広場の中央、特別に設置された断罪台の上で、バチカンが声を張り上げます。
周囲の市民たちは、教会の権威に怯え、祈るように手を組んでおりますが……。
わたくしは、カエルス陛下から差し出された『最高級のベルベット椅子』に深く腰掛け、退屈そうに指先を眺めました。
「略奪、ですかしら? ……陛下が『未払いの利息』として回収された資産を、わたくしが適切に運用した。……それのどこが不敬ですの? ――クロエ、まずは導入の数字を」
影から現れたクロエが、広場の全モニターに、眩いばかりの「損益計算書」を投影しました。
「……報告いたします。……聖教国が過去百年にわたり、信徒から徴収した『結界維持協力金』。……総額、金貨六百億枚。……名目は、世界を闇から守る『聖域の結界』のメンテナンス費用です」
広場がざわめきました。
金貨六百億。それは、小国の国家予算を何十年分も上回る、天文学的な数字。
「バチカン様。……その六百億ゴルドを費やしているはずの『聖域の結界』。……昨日、わたくしのペンで一撫でしたところ、なんとも安っぽい『不純物の音』がいたしましたの。……監査の結果、その結界の核に使われているのは、最高級の聖魔石ではなく……。……市場に出回っている『工業用の低純度石』。……それも、賞味期限切れの放出品でしたわね?」
「……っ、何を根拠に!」
「根拠、ですか? ……あら。……現在、わたくしの新通貨『アストレア』の裏付けに使っている魔導水晶……。……それこそが、その結界の“真の動力源”でしたもの。――わたくしたちがその水晶を回収した後、なぜ世界の結界は崩壊していないのかしら?」
わたくしは、懐から『錆びた鉄のペン』を取り出し、宙に一線を引きました。
すると、広場の上空に、教会の権威の象徴である「白銀のカーテン(結界)」が投影されます。
「答えは簡単。……あなた方は、水晶の魔力の九割を『私的な裏口座』へ流し込み、残りのわずか一割を、安物の石で薄めて見せかけていただけ。……人々が汗水垂らして支払った祈りの対価は、闇から世界を守るためではなく……。……セレスティア様の商業連盟へ投資され、不当な利益を生むための『軍資金』として運用されておりましたわ」
「…………!!」
バチカンの顔が、真っ白に燃え尽きました。
市民たちの間から、祈りの声ではなく、不信に満ちた怒号が漏れ始めます。
「待てよ……! じゃあ、俺たちが毎年納めている『結界税』は、何に使われてるんだ!?」
「神様を守るんじゃなくて、金貸しの連盟を太らせてたってのか!?」
数字は、残酷です。
一度でも計算式が成立しなくなれば、どれほど神聖な言葉も、ただの「粉飾決算の言い訳」に成り下がる。
「……陛下。……この方の杖が黄金だった理由、ようやく分かりましたわ。……金メッキどころか、中身はすべて『横領』でできていたのですもの」
カエルス陛下が、わたくしの隣で低く、愉しげに笑いました。
「……凄まじいな。……お前のペンは、教会のステンドグラスを叩き割るよりも効率的に、神の化けの皮を剥いでいく」
「あら、陛下。……わたくし、掃除は徹底的に行う主義ですの。……さて、バチカン様。……審問を続けましょうか? ……それとも、今すぐこの場で『破産宣告』をなさる?」
バチカンは、わなわなと震える手で、懐の隠し信号機(魔導具)を握りしめました。
「……おのれ……。……道理などはどうでもよい。……神の権威を冒涜した者は、この地上から抹殺されるべきなのだ……! ――出よ! 神罰騎士団! この悪魔の娘を、その場で処刑せよッ!」
その瞬間。
広場の四方から、白銀の甲冑に身を包んだ、異様な殺気を纏う騎士たちが一斉に飛び出しました。
彼らは法も、対話も、数字も介さない。――神の名の元に「物理的削除」を行う、教会の最終兵器。
数万の市民が悲鳴を上げ、散り散りに逃げ出します。
ですが、わたくしは。
「……陛下。……『強制執行』のお時間のようですわ」
「……ああ。……待ちわびていたぞ」
カエルス陛下が、立ち上がると同時に、その周囲からどす黒い漆黒の魔力が爆発しました。
死神の鎌が、空を裂く。
聖なる騎士と、死神の皇帝。
そして、その中心で冷酷にペンを構える、一人の令嬢。
精算、本番ですわ。
あなた方の「神罰」に、いくらの保険金が掛けられているのか……。……その身で支払っていただきましょう。
「神への支払額、管理会計上は使途不明金ですわ」
……ふふ。信仰の裏側にある「粉飾決算」を暴き、民衆の不信感を煽る。
ヴィクトリア様の手にかかれば、教会の権威もただの「腐敗したコンサルタント」に過ぎませんわね。
次話、ついに神罰騎士団vsカエルス皇帝!
武力での口封じを試みるバチカンに対し、ヴィクトリア様が仕掛ける「騎士団の維持費カット(物理)」という驚愕の戦術とは……?
「教会のぼったくりを暴くの、最高にスカッとした!」
「カエルス陛下の本気が見たい!」
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それでは、血塗られた精算の時間、始めましょうか。




