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第20話:命の値段と、銀貨の音。――暗殺者様、税込の葬儀費用を提示していただけます?

「……美しい数字ですわ。陛下」


 新通貨『アストレア』の発行から一夜明けた、帝都中央銀行の最深部。わたくしは、魔導計算機が吐き出す膨大な流入資産のログを眺め、満足げに扇を揺らしました。

 大陸中の資本が、沈みゆく連盟金貨を見捨て、わたくしの『青い輝き』へと流れ込んでいる。……数字が、生き物のように跳ね、わたくしの帳簿を美しく彩っていく。


「貴公の言う通りになったな。……もはや剣を振るうまでもない。連盟に属していた商商たちが、自ら連盟の首を絞め始めている」


 カエルス陛下が、背後からわたくしの肩に手を置きました。

 その指先が、昨日贈られた『星涙石』のチョーカーに触れ、微かな熱を伝えてきます。


「あら、陛下。……商売とは、最も残酷な投票ですのよ。……昨日まで神と崇めていた相手でも、一ゴルドでも損をさせれば、翌日には地獄へ突き落とす。それが彼らの誠実さ(ロジック)ですわ」


 その時。

 静寂に包まれていた金庫室の空気が、微かに、けれど鋭く爆ぜました。


「――お嬢様、下がって」


 クロエの声と同時に、影が弾けました。

 天井の隙間から、音もなく舞い降りた三つの影。

 大陸でも指折りの暗殺集団『銀の毒蛇』。彼らが振るう短剣には、魔導具すら腐食させる最悪の毒が塗られている――。


 ……はずなのですが。


「……あら。……予約アポイントのないお客様ほど、無礼なものはありませんわね」


 わたくしは、微動だにせず、手に持った『錆びた鉄のペン』をくるりと回しました。

 暗殺者たちの短剣がわたくしの喉元に届く寸前、空間に「数字の・・・・・」が出現し、彼らの動きを凍りつかせました。


「な……っ、動けない!? 防御魔術ではない、これは……!」


監査オーディットの結果をご報告しますわ。……あなた方の命を維持するための食費、装備のメンテナンス代、そして連盟から支払われた前払い金。……合計、一人当たり金貨五百枚。……残念ながら、わたくしの時間を一秒奪う対価としては、あまりに安すぎますわね」


 わたくしがペンをピシリと空間に向けました。


「その『命』という名の資産……価値なしと判断し、現時刻をもって凍結・・いたしますわ」


 瞬間、暗殺者たちの体から、魔力が霧散するように剥がれ落ちました。

 彼らは糸の切れた人形のように床に崩れ落ち、震えることすら許されません。

 わたくしのペンは、所有権だけでなく、存在の『稼働権』すらも取り上げる。


「……貴公の手を煩わせるまでもなかったな」


 カエルス陛下が、一歩前へ出ました。

 彼の瞳には、凍りつくような「死神」の光が宿っています。

 陛下が腰の剣をわずかに抜いただけで、気圧された暗殺者の一人が絶叫しました。


「ま、待て! 俺たちはただ、セレスティア様に雇われただけで……!」


「……セレスティア、か。……あの女、ついに商人の誇りすら捨てて、暗殺という名の『損失補填』に走ったか」


 カエルス陛下は、ゴミを掃くような仕草で剣を振るいました。

 斬撃の風だけで、暗殺者たちは金庫室の壁まで吹き飛び、意識を失います。


「クロエ。……この者たちの身元を特定し、彼らの所属するギルドの全資産を、帝国への『迷惑料』として差し押さえなさい。……一ゴルドの隠し財産も許してはダメよ?」


「……承知いたしました。……地下のネズミ一匹まで、精算させていただきます」


 わたくしは、再び帳簿へと視線を戻しました。

 ですが、わたくしの胸騒ぎは収まりません。

 セレスティア。あの女帝が、これほど成功確率の低い暗殺だけで終わるはずがない。


 その時、室内に設置された緊急通信用の魔導具が、血を吐くような音で鳴り響きました。


『――緊急入電! 北の聖教国より特使が到着! 「帝国による魔導水晶の独占、および新通貨の発行は、神への冒涜である」として、ヴィクトリア様への“異端審問”を要求しております!』


 ……あら。


 わたくしは、思わず笑みを漏らしました。

 

「……経済で勝てぬとなれば、次は『神』を盾にしますのね。……セレスティア様、随分と古典的な帳簿をお持ちですこと」


 カエルス陛下が、わたくしの腰を力強く抱き寄せ、低く笑いました。


「……面白い。……神を破産させた執行官に、神の代理人が裁きを。……ヴィクトリア、準備はいいか?」


「ええ、陛下。……信仰、という名の『不透明な寄付金』。……その裏帳簿をすべて暴き、天界ごと買い叩いて差し上げる絶好の機会ですわ」


 帝都に、教会の鐘の音が不吉に鳴り響きます。

 ですが、わたくしのペンは、すでに神の『資産価値』を計算し終えておりました。


 精算のお時間ですわ。

 聖なる祈りに、一体いくらの『値札』が付くのか……楽しみですわね。

「税込の葬儀費用を提示していただけます?」


暗殺者の襲撃を「経費の無駄」と切り捨て、次は「神の代理人」との直接対決へ。

ヴィクトリア様の手にかかれば、宗教すらも「精査が必要な事業」に過ぎません。


次話、ついに北の聖教国からの「異端審問官」が帝都に降臨!

「神への冒涜」を叫ぶ彼らに対し、ヴィクトリア様が突きつける「教会運営の不正報告書」とは……?


「暗殺者の命すら査定するヴィクトリア様、最高!」

「カエルス陛下の死神オーラに痺れる!」

と少しでも感じていただけたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いいたしますわ。


利息以上の「知的蹂躙」を、次話の審問会でお約束いたします。

それでは、神の裏帳簿、捲らせていただきますわ。

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