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『赤字を見る眼(バランス・アイ)』 追放鑑定士は国家の嘘を暴く ~聖剣が育てた負債の竜を、信用で倒します~  作者: 黒翼ルシオ


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第34話 分散された未来

 金色の光が収まったあと、広場には粉塵だけが残っていた。


 竜の姿はない。


 黒雲も、消えている。


 ただ、崩れた中央塔と、割れた石畳が現実を物語っていた。


 しばらく、誰も動かなかった。


 最初に膝をついたのは、勇者レオハルトだった。


 聖剣を支えに、深く息を吐く。


「……軽い」


 刃は、もう赤黒く脈打たない。


 静かな金色。


 聖女エレノアが微笑む。


「契約は更新されました」


 ドミニクは崩れた財務局の方向を見る。


 半壊。


 だが全壊ではない。


 王都は、残った。


「損失は大きい」


 低く言う。


「だが、破綻ではない」


 セレストが淡々と答える。


「分散された」


「痛みは残る」


「だが一点集中よりは持続可能」


 アシュレイは空を見上げる。


 右目に、もう歪みは映らない。


 代わりに、無数の小さな光が見える。


 王都。

 ヴェルグ。

 オルテナ。

 グラン。

 地下市場。

 農村。

 商会。


 細く、弱く、だが確かに繋がる光。


 未来は、縛られていない。


「……見えるか?」


 勇者が問う。


「何も」


 アシュレイは笑う。


「それが正常です」


 竜は消えたのではない。


 分かれた。


 削られた未来は、完全には戻らない。


 中央塔は崩れたままだ。


 商人の倉庫も失われた。


 家族を失った者もいる。


 完全勝利ではない。


 だが、世界は続く。


 広場の隅で、ひとりの少年が立っていた。


 瓦礫を見つめている。


「……これで終わり?」


 誰にともなく呟く。


 アシュレイは近づき、答える。


「終わりじゃない」


「じゃあ何?」


「毎日だ」


 少年は眉をひそめる。


「竜はもう出ない?」


「未来を削れば、出る」


「削らなければ?」


「出ない」


 単純な答え。


 だが難しい。


 ドミニクが口を開く。


「王国は再建に入る」


「痛みは共有する」


 勇者も頷く。


「聖剣は、もう乱用しない」


「限定出力のみ」


 セレストが冷静に言う。


「監査院は常設化」


「国家財政と連盟信用は接続を維持」


 決戦は終わった。


 だが仕事は始まる。


 数日後。


 王国布告が出る。


《未来を担保にする財政運営を改める》

《連盟との制度接続を正式承認する》


 王都は、変わる。


 ヴェルグ港。


 海は穏やかだ。


 アシュレイは帳簿を開く。


 赤はない。


 過剰な黒もない。


 静かな数字。


 リシェルが隣に立つ。


「終わったわね」


「一区切りだ」


「あなた、王都に呼ばれてるわよ」


「断る」


 即答。


 リシェルが笑う。


「でしょうね」


 王にならない。


 英雄にもならない。


 制度設計者でいい。


 夕暮れ。


 少年がまたやってくる。


「未来って、担保にできるの?」


 前と同じ問い。


 アシュレイは帳簿を閉じる。


「できる」


「でも?」


「するな」


「どうして?」


 少し考えてから、答える。


「削れるからだ」


 少年はしばらく黙り、やがて頷いた。


「じゃあ、増やせばいい」


 アシュレイは笑う。


「それが正解だ」


 港の灯がともる。


 小さな光。


 だが消えない。


 竜はもういない。


 だが未来は、毎日試される。


 未来は担保ではない。


 未来は、選択だ。


 物語は、ここで終わる。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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