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『赤字を見る眼(バランス・アイ)』 追放鑑定士は国家の嘘を暴く ~聖剣が育てた負債の竜を、信用で倒します~  作者: 黒翼ルシオ


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最終話 選択の先へ

 竜の消滅から、三か月。


 王都は、まだ傷跡を残している。


 崩れた中央塔は骨組みだけが立ち、

 石材を運ぶ人々の声が広場に響く。


 復興は順調とは言えない。


 だが、止まってもいない。


 王城の会議室。


 勇者レオハルトが、静かに聖剣を見下ろす。


 刃は落ち着いた金色。


 脈動はない。


「……静かだな」


「ええ」


 聖女エレノアが微笑む。


「契約は安定しています」


「未来を削っていない証です」


 ドミニクは再建計画書を閉じる。


「歳入は減った」


「だが破綻はしない」


「痛みは分散された」


 セレストが補足する。


「痛みを一点に押し込めない限り、竜は再発しない」


 王国は、変わった。


 聖剣は象徴から抑制へ。


 財政は拡張から持続へ。


 恐怖から急がない。


 そして――


 ヴェルグ。


 港はいつも通り忙しい。


 交易船が入り、荷が降ろされ、帳簿が動く。


 アシュレイは事務所の窓から海を見る。


 右目は、もう何も映さない。


 歪みも、竜も。


 ただの海。


「先生」


 あの少年が、帳簿を抱えてやってくる。


 もう少年ではない。


 青年になりつつある。


「これ、合ってますか?」


 アシュレイは数字を見る。


「悪くない」


「未来分配比率、ちゃんと三割に抑えてます」


「よく覚えているな」


「削らないって言いましたから」


 青年は真面目な顔で言う。


「怖いですし」


 アシュレイは小さく笑う。


「恐怖は悪くない」


「え?」


「急がせなければな」


 港に風が吹く。


 灯が揺れる。


 だが消えない。


 遠く、王都の方向を見る。


 空は青い。


 黒雲は戻らない。


 だが保証はない。


 未来は常に選択の連続だ。


 制度も、信用も、完璧ではない。


 だからこそ続ける。


 積み直す。


「先生」


 青年がふと問う。


「また竜が出たら、どうします?」


 アシュレイは少し考える。


「出る前に気づく」


「どうやって?」


「帳簿を見る」


 青年はぽかんとする。


「本気ですか?」


「本気だ」


 数字は嘘をつかない。


 恐怖が一点に集まり始めたら、また歪む。


 だから分ける。


 広げる。


 削らない。


 夕日が海を赤く染める。


 だがそれは、もう不吉な赤ではない。


 ただの光。


「未来は担保じゃない」


 アシュレイは静かに言う。


「未来は?」


「選択だ」


 青年は頷く。


 港の灯がともる。


 小さな光が、いくつも並ぶ。


 一つではない。


 分かれている。


 だから消えない。


 物語は、ここで本当に終わる。


 未来は、まだ続いている。

ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。


この物語は、


「剣で魔王を倒す話」ではなく、

「契約を書き換える話」を書いてみたい、という思いつきから始まりました。


追放、ざまぁ、成り上がり。


なろうの王道テンプレをなぞりながらも、

“武力ではなく制度で世界を救う”という少し変わった方向に舵を切った作品でした。


正直に言えば、

決して読みやすいテーマではなかったと思います。


経済、信用、担保、契約改訂。


ファンタジーの皮を被った、かなり理屈っぽい物語でした。


それでも最後まで読んでくださった方がいるなら、

作者としてこれ以上の喜びはありません。


この物語で一番書きたかったのは、


「未来は担保にするものではない」


という一点です。


短期的な利益や恐怖に押されて、

未来を削ってしまう選択は、現実でも物語でもよくあります。


でも、未来は本来、

“選ぶもの”であって、

“削るもの”ではない。


負債の竜は怪物でしたが、

あれは恐怖や焦りの象徴でした。


そして信用は、

派手ではないけれど、

静かに世界を支える力。


この物語が、ほんの少しでも

「急ぎすぎない選択」を考えるきっかけになったなら嬉しいです。


アシュレイは王にはなりませんでした。


勇者も敗北しませんでした。


竜も“消えた”のではなく、“分かれた”。


完全勝利ではない終わり方にしたのは、

世界は常に未完成だからです。


制度は永遠ではなく、

信用も毎日積み直すもの。


だからこそ、物語は終わっても、

未来は続いていきます。


もしこの世界をまた書くことがあれば、

もう少し感情を強く、

もう少し派手に描いてみたいと思います。


ですが今は、この物語を静かに閉じます。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


またどこかで。

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