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『赤字を見る眼(バランス・アイ)』 追放鑑定士は国家の嘘を暴く ~聖剣が育てた負債の竜を、信用で倒します~  作者: 黒翼ルシオ


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第31話 契約の原文

 王城地下、封印書庫。


 聖剣契約の原本は、王族と財務卿、そして契約者しか立ち入れない最深部に保管されていた。


 厚い石壁。

 封印陣。

 魔力遮断の扉。


 だが今、その扉は開いている。


 レオハルト、ドミニク、アシュレイ、セレスト。


 四人が円卓を囲む。


 中央に置かれたのは、古びた羊皮紙。


 聖剣契約・初版。


「これが、原文だ」


 ドミニクが静かに言う。


 アシュレイは右目を細める。


 文字が、微かに光って見える。


 古代言語。


 だが意味は読み取れる。


『契約者は世界の均衡を守るため力を行使する』

『対価は世界総体の未来可能性より支払われる』


 アシュレイの指が止まる。


「……国家ではない」


 レオハルトが顔を上げる。


「何がだ」


「担保が」


 ページをめくる。


「“国家の未来価値”とは書かれていない」


 セレストが冷静に補足する。


「“世界総体”とある」


 沈黙。


「改訂履歴を」


 ドミニクが別の束を差し出す。


 三代前の王による改訂条文。


 そこにはこうある。


『担保範囲を王国未来歳入に限定する』


 空気が凍る。


「……戦時改訂」


 ドミニクが低く言う。


「外敵侵攻時、迅速な資金調達のため」


 アシュレイは目を閉じる。


 右目に、竜の胸部の亀裂が映る。


 赤黒い傷。


「一点集中化」


「分散されていた未来価値が、国家へ集中」


 セレストが続ける。


「だから歪んだ」


 レオハルトが拳を握る。


「つまり、我々が竜を育てた?」


「育てたというより」


 アシュレイは静かに言う。


「縛った」


「未来を、国家という器に」


 沈黙が落ちる。


 重い理解。


「元に戻せばいいのか」


 勇者が問う。


「戻すだけでは足りない」


 セレストが首を振る。


「世界は当時より複雑」


「王国単体では支えきれない」


 アシュレイは羊皮紙を見つめる。


 古い条文が、淡く光る。


『世界総体の未来可能性』


 それは単なる税収ではない。


 信用。

 信頼。

 選択。

 意志。


「担保を再分散する」


 静かな宣言。


「王国だけでなく、連盟、民間信用、市場流動性」


「世界規模の共同担保」


 ドミニクが眉を寄せる。


「理論上は可能だ」


「だが契約改訂には」


 レオハルトが続ける。


「契約者の合意が必要」


 聖女エレノアが小さく頷く。


「そして、聖剣そのものの承認」


 空が揺れる。


 地下でも分かる。


 竜が近づいている。


「時間は十日」


 アシュレイが言う。


「十日で条文を書き換える」


 セレストが即座に動く。


「監査院は再分散計算を開始」


「王国歳入、連盟信用、地下流通分を合算」


「リスク比率を算出」


 ドミニクも頷く。


「財務局全体で対応」


 レオハルトは聖剣を見下ろす。


 刃が赤黒く脈打つ。


「……応じるか」


 剣は沈黙する。


 だが微かに、金色の光が走った。


 アシュレイの右目に、未来の光景が映る。


 竜の胸の亀裂に、巨大な光の楔が打ち込まれる。


 崩壊。


 だが代償もある。


 王都の一部は失われる。


「……完全勝利はない」


 小さく呟く。


「何を視た」


 セレストが問う。


「損失は出る」


「当然よ」


 冷静な答え。


「だが世界は残る」


 沈黙。


 レオハルトがゆっくりと頷く。


「ならば、進むしかない」


 契約は絶対ではない。


 合意ならば、更新できる。


 世界を担保にするのではなく、


 世界を守るために。


 地下書庫の灯が揺れる。


 上空で、竜が咆哮する。


 その音は、もう王都だけのものではない。


 契約は、書き換えられる。

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