第24話 分断
王都崩落の報せは、三日で連盟全域に広がった。
「地割れ」
「黒雲の異変」
「巨大な影」
噂は誇張され、恐怖は増幅される。
ヴェルグの広場でも、ざわめきは消えない。
「王都が崩れるって本当か?」
「魔王が復活したんじゃないのか?」
「連盟が何かしたんじゃ……」
その言葉に、空気が凍る。
赤が、ゆっくりと滲む。
リシェルが低く言う。
「始まったわね」
「何が」
「責任の押し付け」
連盟は“異端”。
王都が揺れれば、矛先は向けられる。
その日の午後、オルテナから緊急通信が入った。
《連盟一時離脱を検討する》
アシュレイは目を閉じた。
「……やはり来たか」
会議室に、重い沈黙。
オルテナ市長の声が震えている。
「我々は農業都市だ。民を守るのが最優先だ」
「理解しています」
「王都の崩落が連盟と関係あると噂されている」
「因果は逆です」
「証明できるか?」
言葉が詰まる。
右目に映るのは、王都上空の赤黒い竜。
そしてヴェルグの細い光。
確かに、因果は逆だ。
だが証明はできない。
「……今離脱すれば」
アシュレイは静かに言う。
「国家の圧力は直接来る」
「来ても、王都の側にいた方が安全だ」
恐怖は理屈を超える。
通信が途切れる。
会議室に沈黙。
町長が言う。
「どうする」
「止められない」
正直に言う。
「強制すれば、本当に崩れる」
連盟は強制で成り立っていない。
信用で成り立っている。
リシェルが問いかける。
「あなたはどうしたいの」
少し考える。
「離脱を認める」
空気が凍る。
「それで連盟は」
「弱くなる」
「なら――」
「だが無理に繋いだ線は、いずれ切れる」
強度は数ではない。
残る者を強くする。
翌日、連盟公告が出された。
《各都市の参加は自由意思に委ねる》
広場にざわめきが走る。
「離れるのか?」
「終わりか?」
少年が駆け寄る。
「本当に終わるのか?」
「終わらせない」
即答する。
だが不安は消えない。
その夜。
グランからも通信が入る。
「市内で暴動未遂」
粉飾の過去が蒸し返されている。
王国支持派と連盟支持派が衝突。
「連盟が王都を壊したと叫ぶ者がいる」
赤が、連盟内部に滲む。
アシュレイは机に手を置く。
右目に、光の線が揺れる。
ヴェルグとオルテナの線が、細くなる。
グランの線は不安定。
だがヴェルグは、まだ強い。
「……私は誤ったか」
小さく呟く。
「何が」
「広げたことが」
リシェルは首を振る。
「違う」
「なら何だ」
「あなたは“速さ”を誤った」
胸に刺さる。
「でも方向は間違っていない」
静かな声。
「信用は、まだここにある」
窓の外。
港の灯りが揺れている。
王都の空は、さらに黒い。
その瞬間。
遠くから、低い轟音が響いた。
地面が微かに震える。
ヴェルグではない。
王都方向だ。
竜が、さらに近づいた。
通信が再び入る。
王都近郊、第三城壁に亀裂。
住民避難開始。
連盟内部は揺れ、国家は崩れかける。
世界が、分断されていく。
アシュレイは立ち上がる。
「監査院を正式発足させる」
「今?」
「今だ」
リシェルが目を細める。
「この状況で?」
「混乱こそ、制度を固める」
恐怖の中で残る信用は、本物だ。
「監査院長を呼ぶ」
「誰を?」
アシュレイは答える。
「セレスト・ヴァレンティア」
王都法学院元教授。
国家財政の未来破綻を予測し、追放同然で去った女。
「冷酷よ」
「必要だ」
連盟は揺れている。
だが折れてはいない。
王都の空で、赤黒い影がさらに形を持つ。
分断は始まった。
次に来るのは、選別だ。
残る者と、去る者。
そして――
本当に世界を支えるのは、どちらか。
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