第21話 国家通達
王国暦・霜月二十七日。
王都より、正式な布告が発せられた。
《連盟信用証書は王国通貨制度を侵害する疑いあり》
《使用・流通は無効とし、課税対象外取引は違法とする》
《違反者には罰金および営業停止処分を科す》
文面は冷静だ。
だが、その意味は明確だった。
連盟は、国家秩序に反する。
ヴェルグ港。
布告文が掲示された瞬間、空気が凍った。
「……違法?」
「俺たちは脱税か?」
ざわめきが波のように広がる。
右目に赤が滲む。
恐怖の色だ。
リシェルが静かに布告を読み終える。
「想定より早い」
「市場封鎖の前段階だな」
アシュレイは言う。
「まず心理を折る」
町長が駆け寄る。
「どうする? 従うのか?」
従えば、連盟は終わる。
逆らえば、国家反逆。
沈黙。
港の空気が重い。
「……使用を強制はしない」
アシュレイは言った。
「選択制にする」
「選択?」
「王国通貨も、連盟証書も、どちらも可」
「それで持つのか?」
「強制は恐怖を生む」
強制すれば、赤が広がる。
恐怖は暴発する。
「市場に委ねる」
リシェルが低く言う。
「国家通達に逆らう形になる」
「逆らわない」
「どう違うの」
「選択を奪わない」
布告は“無効”と宣言した。
だが地方自治の裁量はまだ残る。
港に通達が掲示される。
《ヴェルグ港では、王国通貨および連盟信用証書の双方を受け入れる》
ざわめきが再び起こる。
「……使ってもいいのか?」
「罰せられないか?」
「王国検査が入れば分からん」
不安は消えない。
そのとき、騎馬隊が港に入ってきた。
王国税関監査隊。
「抜き打ち検査を実施する!」
空気が一気に張り詰める。
赤が濃くなる。
倉庫が開かれ、帳簿が調べられる。
監査隊長が冷たく言う。
「連盟証書での取引記録を提出せよ」
「提出します」
アシュレイは即答する。
隠すものはない。
すべて公開。
監査隊は帳簿をめくる。
「……違法性は確認できない」
隊長が歯噛みする。
「だが本通達は王都での使用を禁じている」
「ここはヴェルグです」
静かな返答。
法の隙間。
だが綱渡りだ。
監査隊が去る。
港は重い空気に包まれたまま。
その夜。
連盟都市会議。
オルテナの市長が低く言う。
「国家に敵認定された」
「敵ではない」
アシュレイは否定する。
「国家を支えるもう一つの柱だ」
「王都はそう見ていない」
事実だ。
右目に映る王都の赤は、以前より濃い。
そして。
その赤い糸が、ヴェルグへと伸びる。
負債の竜が、尾を振るう。
「物流制限が来る」
リシェルが言う。
「次は実害」
アシュレイは頷く。
「備える」
「どうやって」
「自立度を上げる」
輸入依存の品目を洗い出す。
代替供給を模索する。
急がない。
だが止まらない。
翌朝。
王都近郊で、地面の陥没が報告された。
財務局倉庫の一部が崩れ、文書が焼失。
公式発表は「地盤不安定」。
だが。
王都の空に、黒い渦が広がっている。
勇者は城壁の上で空を見上げる。
「……嫌な気配だ」
聖女は静かに目を閉じる。
「近づいています」
何が、とは言わない。
一方、ヴェルグ。
信用証書の取引量は微減。
だが停止しない。
細い光が、まだ繋がっている。
国家通達は出た。
経済戦は法的戦争へと移行した。
そして空の奥で。
赤黒い影が、さらに濃くなっていく。
これはまだ、序章に過ぎない。
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