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『赤字を見る眼(バランス・アイ)』 追放鑑定士は国家の嘘を暴く ~聖剣が育てた負債の竜を、信用で倒します~  作者: 黒翼ルシオ


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第20話 聖女の代償

 王城、聖堂区画。


 静寂の中、白いカーテンが揺れている。


 聖女エレノアは、寝台の上で浅い呼吸を繰り返していた。


 額には汗。

 指先は冷たい。


 部屋には勇者レオハルトと、王国経済顧問アルベルトがいる。


「……また、発動後に」


 アルベルトが低く言う。


「負担が増しています」


「戦況は逼迫している」


 レオハルトは短く答える。


「振るわねば防衛線は崩れる」


「承知しています」


 アルベルトは机の上の書類を見つめる。


 そこには聖剣契約の補足条項。


《契約負担は国家総体へ分散される》


「だが分散には限界があります」


「……何が言いたい」


「財政と、身体の両面です」


 レオハルトの眉が寄る。


「財政?」


「聖剣の維持費は、通常の軍備とは別枠です」


 アルベルトは続ける。


「契約負担を緩和するため、国家は未来価値を担保にしています」


「未来価値」


「国債です」


 静寂。


「発動回数が増えるほど、担保が増える」


「それが?」


「利回りが上がり、市場が不安定になる」


 遠くで雷鳴が響く。


 聖堂の窓が震える。


「……偶然だ」


 レオハルトが言う。


「魔物が増えているのは事実だ」


「ええ」


 アルベルトは否定しない。


「ですが、契約の歪みが“何か”を呼んでいる可能性も」


「何か?」


 その瞬間。


 聖堂の床が微かに揺れた。


 石の継ぎ目に、細い亀裂が走る。


 エレノアが苦しげに呻く。


「……重い」


「無理をするな!」


 レオハルトが駆け寄る。


「……剣が」


 聖女の瞳がうっすら開く。


「遠くで、何かが育っている」


 アルベルトの背筋に冷たいものが走る。


「……竜の伝承」


 古い文献を思い出す。


 《契約が歪めば、負債は形を持つ》


 迷信だと思っていた。


 だが最近、王都近郊で地盤沈下が報告されている。


 財務局倉庫が崩落しかけた。


 偶然では説明できない。


「……聖剣を止めろと言うのか」


 レオハルトの声は低い。


「止めれば防衛線が崩れる」


「止めろとは言いません」


 アルベルトは静かに言う。


「だが、無限ではない」


 沈黙。


 外で再び雷光。


 その一瞬、空が裂けたように見えた。


 レオハルトは拳を握る。


「ならどうすればいい」


 答えはない。


 アルベルトも分かっている。


 財政は限界に近い。


 聖女の身体も。


 そして何より――


 王都の空に、黒い渦が広がっている。


 彼には見えない。


 だが、感じる。


 一方、ヴェルグ。


 新制度の下で、信用証書は静かに循環している。


 発行量は少ない。


 だが交換率は安定。


 掲示板の数字は揺れない。


 アシュレイは報告書を閉じた。


「……戻りつつある」


「完全ではないけれど」


 リシェルが頷く。


「だが強度は増した」


 右目に、光の骨組みが映る。


 以前より細い。


 だが折れない。


 その瞬間。


 遠くで雷鳴。


 アシュレイの視界が歪む。


 王都の空。


 赤黒い竜が、明確な輪郭を持ち始めている。


 翼が雲を裂き、尾が城壁をかすめる。


 その瞳が、こちらを見た。


「……臨界が近い」


「何が」


「王都が」


 リシェルの顔が強張る。


「あとどれくらい」


「分からない」


 だが直感は告げている。


 二か月は持たない。


 聖剣が振るわれるたび、竜は育つ。


 ヴェルグの光は強くなった。


 だがまだ小さい。


 王都を支えるには足りない。


「連盟を広げる」


 アシュレイは静かに言う。


「急がないと言ったばかりよ」


「急がない」


 視線を上げる。


「だが止まらない」


 信用は積み始めた。


 王都は削られ続ける。


 対比は明確だ。


 夜空を雷が走る。


 王都の聖堂の亀裂は、静かに広がっていた。


 そして誰も気づかない。


 地中深く。


 赤黒い何かが、ゆっくりと脈動していることに。


 嵐は、確実に近づいている。

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