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『赤字を見る眼(バランス・アイ)』 追放鑑定士は国家の嘘を暴く ~聖剣が育てた負債の竜を、信用で倒します~  作者: 黒翼ルシオ


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第17話 信用の骨組み

 信用証書の凍結から三日目。


 ヴェルグ港は、奇妙な静けさに包まれていた。


 取引は現金と物々交換に戻り、流通量は一時的に減少している。


 だが――暴落は止まった。


 掲示板の前で人々が議論している。


「止めたのは正解だったのか?」

「少なくとも、混乱は収まった」


 赤は、濃くならない。


 不安はあるが、暴発していない。


 役所の一室。


 机の上には新制度案の草稿が山積みになっていた。


「発行主体と監査主体を完全分離」


 アシュレイが読み上げる。


「発行は都市、監査は連盟監査院」


 リシェルが補足する。


「監査院は収益を持たない。固定報酬、連盟共同負担」


「さらに」


 アシュレイは続ける。


「信用証書の発行上限を、前月実収入の三割に制限」


「今までは五割だった」


「甘すぎた」


 グランの粉飾は、その余白を突いた。


「担保は?」


「実物在庫と税収予約分」


「予約分?」


「将来の税収のうち、確定契約分のみを担保に」


 リシェルが頷く。


「不確定収入を排除するのね」


「未来を担保にするのは危険だ」


 聖剣が未来を削る。


 同じ過ちを繰り返さない。


 右目に、新しい光の骨格が浮かぶ。


 以前より細い。


 だが歪まない。


「問題は市場の反応よ」


 リシェルが言う。


「凍結解除後に戻る保証はない」


「保証はない」


「でも?」


「戻らせる」


 淡々と。


 夜、港の広場で住民説明会が開かれた。


 町長が前に立ち、アシュレイが隣に立つ。


「連盟信用証書は七日後に再開する」


 ざわめき。


「だが条件が変わる」


 アシュレイが一歩前に出る。


「発行量は減る。審査は厳しくなる」


「じゃあ不便になるじゃないか!」


 商人が叫ぶ。


「短期的には」


「なら意味がない!」


「あります」


 静かな声。


「薄く広い信用は、簡単に崩れる」


 視線が集まる。


「細く強い信用は、崩れない」


 沈黙。


「私は、広げることを急ぎました」


 初めて公に認める。


「その結果、揺らぎが生まれた」


 ざわめきが止まる。


「だから一度止めました」


「……」


「逃げるためではなく、強くするために」


 少年が前に出る。


「また黒字になるか?」


 真っ直ぐな問い。


「なる」


 即答。


「だが時間がかかる」


 嘘は言わない。


「急がない。確実に積む」


 静寂の後、小さな拍手が起きた。


 広場の端から。


 それが少しずつ広がる。


 大歓声ではない。


 だが、消えない。


 右目に映る赤は、広がらない。


 夜。


 役所に戻る途中、リシェルが言った。


「あなた、変わったわね」


「どこが」


「完璧を装わなくなった」


 少し考える。


「完璧ではなかったから」


「今さら?」


「今だから」


 遠く、王都の空が赤く光る。


 聖剣の閃光。


 負債の竜が、さらに巨大化する。


 だが。


 ヴェルグの光は、消えていない。


 七日後。


 新制度で信用証書が再開される。


 それが成功すれば、再び連盟を広げられる。


 失敗すれば、終わる。


 三か月の期限。


 残り二か月弱。


 アシュレイは夜空を見上げた。


 竜は、確実に近い。


 だが。


 今度は急がない。


 骨組みは整った。


 次は、強度を証明する番だ。


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