第15話 連盟崩壊の危機
信用証書の交換率は、三日で二割落ちた。
ヴェルグ港の掲示板には、数字の下に赤い線が引かれている。
前週比マイナス。
ざわめきが止まらない。
「連盟は大丈夫なのか?」
「グランが粉飾してたんだろ?」
「次はどこだ?」
噂は、赤より速く広がる。
アシュレイは港の倉庫で帳簿を睨んでいた。
右目に映る連盟の光の線が、細くなっている。
ヴェルグからオルテナへはまだ繋がっている。
だがグランの線が濁り、全体の網が歪む。
「撤退を考える都市が出始めているわ」
リシェルが低く告げる。
「オルテナの市長が、再評価を求めてきた」
「予想通りだ」
「冷静ね」
「内心は違う」
数字は残酷だ。
信用は、減るときは一瞬だ。
「拠出も始まる」
王国への一割拠出。
この状態での流出は痛い。
「資金繰りは?」
「ギリギリ回る」
だが余裕はない。
そのとき、町長が駆け込んできた。
「商会が三つ、契約保留だ!」
赤が一気に広がる。
右目の奥で、連盟の光が揺れる。
「……早い」
「どうする!」
町長の声に焦りが滲む。
アシュレイは深く息を吸う。
「信用回復策を打つ」
「具体的に!」
「二重監査の即時導入」
リシェルが目を見開く。
「予定より早い」
「予定は壊れた」
焦り。
それが声に出る。
「急げば制度が歪む」
「急がなければ崩れる!」
思わず声が強くなる。
倉庫の空気が凍る。
リシェルが静かに言う。
「感情で設計しないで」
胸に刺さる。
だが時間がない。
その夜、連盟臨時会議。
ヴェルグ、オルテナ、グランの代表が集まる。
「粉飾は事実だ」
アシュレイは隠さない。
「だからこそ制度を強化する」
「強化で信用は戻るのか?」
オルテナ市長の声は硬い。
「時間が必要だ」
「時間がない」
同じ言葉が重なる。
沈黙。
その瞬間、右目が焼けるように熱を持った。
視界が歪む。
王都。
聖剣が振るわれる。
赤黒い竜が巨大な翼を広げる。
その尾が、連盟の光の網に触れる。
パチン、と音がした気がした。
一本、線が切れる。
現実に戻る。
「……オルテナが、保留を宣言します」
市長の声。
会議室がざわつく。
「一か月の試験参加は終了だ」
撤退。
光の線が、実際に一本消えた。
右目の幻視と重なる。
「待ってください」
アシュレイが言う。
「今抜ければ、王都の増税に飲まれる」
「それでも連盟より安全だ」
冷たい現実。
理屈では動かない。
信用は理屈以上に脆い。
会議は紛糾し、結論は出ないまま解散した。
夜。
港は静まり返る。
船の数が減った。
少年が不安そうに立っている。
「……また減るのか?」
言葉が出ない。
リシェルが隣に立つ。
「初めてね」
「何が」
「あなたが、言葉を失ったの」
否定できない。
「私は……」
喉が乾く。
「制度で全部動かせると思っていた」
「思っていないでしょ」
「思っていた」
正直に言う。
「数字が正しければ、皆ついてくると」
リシェルは静かに首を振る。
「信用は恐怖で動くこともある」
「……」
「今、皆が怖いのは赤字じゃない」
「連盟か」
「不安よ」
その言葉に、胸が重くなる。
王都の方向で、雷光が走る。
竜が咆哮する。
連盟の光は細くなり、今にも消えそうだ。
「……失敗だ」
初めて、はっきり口にした。
リシェルが横を見る。
「終わりではない」
「だが負けた」
「一戦ね」
小さく笑う。
「あなたは全体しか見ていない」
その通りだ。
「足元を見なさい」
港を見る。
ヴェルグの赤は、まだ薄い。
完全には戻っていない。
黒字は維持している。
「全部を一気に繋ごうとした」
リシェルが言う。
「まずは、強くする」
「……強く?」
「ヴェルグを、誰も揺らせない都市に」
その言葉が、胸に落ちる。
連盟は脆い。
だが核は、まだある。
右目に、細い光が一本だけ強く輝く。
ヴェルグ。
まだ切れていない。
「……やり直す」
静かに言う。
負債の竜は、空で身をくねらせる。
連盟は崩壊寸前。
だが、完全には折れていない。
敗北の夜。
だが終わりではない。
ここから、再構築が始まる。
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