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『赤字を見る眼(バランス・アイ)』 追放鑑定士は国家の嘘を暴く ~聖剣が育てた負債の竜を、信用で倒します~  作者: 黒翼ルシオ


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第14話 初の歪み

 連盟構想が動き出して、二週間。


 ヴェルグ、オルテナ、グラン。


 三都市の収支報告は、週次で公開されていた。


 掲示板に並ぶ数字は、表面上は順調だった。


 ヴェルグは安定黒字。

 オルテナは緩やかな増益。

 グランは――急回復。


「……早すぎる」


 アシュレイは呟いた。


 グランの収益曲線が、あまりに急だ。


 右目に浮かぶ赤は、以前より薄い。


 だが消えていない。


 滞留の仕方が、変わった。


「どうしたの」


 リシェルが横から覗き込む。


「グランの鉱石輸出量が三割増」


「需要増加じゃない?」


「価格が動いていない」


 不自然だ。


 供給増なら価格は下がる。


 だが市場価格は横ばい。


「在庫を前倒しで計上している可能性」


「粉飾?」


「……可能性が高い」


 胸の奥が冷える。


 連盟は、信用が命だ。


 一都市でも不正が発覚すれば、全体が崩れる。


「すぐ確認を」


 翌日、グランへ急行した。


 市庁舎の空気は、以前より張り詰めている。


「突然だな」


 若い市長が笑う。


 その背後の赤が、以前より濃い。


「収支報告の再確認に来ました」


「公開済みだ」


「原簿を」


 市長の目がわずかに揺れる。


「信用していないのか」


「信用するために確認するのです」


 静かな応酬。


 原簿が運ばれてくる。


 アシュレイの右目が、即座に反応した。


 赤い滞留が、鉱石輸出の項目に集中している。


 だが帳簿上は整っている。


「……」


 ページをめくる。


 出荷記録。


 受領証。


 倉庫在庫。


 数字は合う。


 だが。


 「出荷日」と「市場到着日」の間隔が異様に短い。


「この輸送経路は?」


「南回りだ」


「通常は北回りのはず」


「今回は特例だ」


 市長の声が硬い。


 赤が濃くなる。


 アシュレイは倉庫へ向かった。


 積み上がる鉱石。


 帳簿上は出荷済みのはずの量が、まだ残っている。


「……やはり」


 振り返る。


「架空出荷です」


 市長の顔色が変わる。


「証拠は」


「在庫量が一致しない」


 冷静に指摘する。


「出荷済みの鉱石が倉庫に残っている」


 沈黙。


 空気が重く沈む。


「……短期の資金繰りだ」


 市長が吐き捨てるように言う。


「王都の圧力で融資が止まった」


 赤が一気に膨らむ。


「連盟参加のために数字を整えた」


 その言葉が、胸に刺さる。


 焦り。


 それは自分にもある。


「報告は修正します」


 リシェルが静かに言う。


「今なら、まだ間に合う」


「修正すれば信用が落ちる」


「隠せば崩壊する」


 アシュレイは低く言った。


「連盟は透明性で立っている」


「理想論だ!」


 市長が机を叩く。


「王都は猶予をくれない!」


「だからこそ」


 アシュレイの声が硬くなる。


「内部の歪みを許さない」


 右目の奥で、連盟の光の線が揺らぐ。


 ヴェルグとオルテナを繋ぐ線が、グランを通じて濁る。


 赤い亀裂が入る。


「……公表します」


 重い決断。


 リシェルが息を呑む。


「本気?」


「今隠せば、後で崩れる」


 信用は、痛みと引き換えにしか強くならない。


 翌日。


 連盟掲示板に、グランの修正報告が貼り出された。


 ざわめき。


「粉飾だと?」

「連盟は信用できないのか?」


 赤が一気に広がる。


 商人が契約を保留し始める。


 信用証書の取引量が落ちる。


 数字が下がる。


 アシュレイの右目に、連盟全体の収支が走る。


 信用指数、急落。


「……早すぎる」


 リシェルが低く言う。


「市場は噂に敏感」


 港の空気が重くなる。


 少年が不安そうに見上げる。


「また、船減るのか?」


 答えられない。


 王都の方向で、聖剣の光が閃いた。


 その瞬間。


 負債の竜が大きく身をよじる。


 連盟の揺らぎを嗅ぎつけたかのように。


 アシュレイは唇を噛む。


 焦りが制度を歪ませた。


 グランの粉飾は、連盟全体の信頼を削る。


 三か月の期限。


 残り二か月半。


 信用指数は下落中。


「……ここが底だ」


 自分に言い聞かせる。


 だが数字は冷酷だ。


 翌朝、信用証書の交換率が一段下がった。


 連盟は、初めての大きな揺らぎを迎えていた。


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