8.悪目立ちしてます
ついに、ブックマークが100件になりました!とても嬉しいです!
これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。
「私だけクラスが違っちゃったわね」
しょぼん、と音が聞こえそうなほど肩を落とすパティを、デイジーと一緒に必死で慰める。
どうせクラスなど朝と夕に顔を出す程度だ、授業は何か同じものを履修しよう、お昼ご飯も一緒に食べようと誘うとようやくパティの表情も少し明るくなった。
「それに一応僕たちもいるから、さ」
マウリも横からそう言ってくる。
同性と異性の友人ではまた違うだろうけど、同じクラスに全く知り合いがいないよりかはいいだろう。
そうね、とパティは安心したように笑った。
そんなやり取りをしていたからか。
近づいてきてきた人物に、全く気付かなかったのは。
それとも、気配を隠すことに慣れておられるのだろうか。
そのどっちもかもしれないけれど、とにかく私たちは誰一人として気づかなかったのだ。
いつの間にか私たちの後ろに、1人の先生が立っていたことに。
「仲が良いのはよろしいことですが、そろそろ移動なさってくださいね」
穏やかな声に弾かれたように皆がそちらをみると、そこにはクレイモス公爵・・・じゃなかった、アデル先生が立っていた。
思わず挨拶をしかける私たちを、アデル先生が両手を上げて止める。
「私は、ここではただの教師です。教師に対する態度以上のものは求めませんし、必要とはしませんよ」
穏やかなその物言いに、私たちは顔を見合わせながら正式な挨拶をやめて、軽く頭だけ下げた。
先生は満足したようにうなずく。
「あ、じゃあ、行く?」
マウリの言葉に私たちは顔を見合わせた後、それぞれ先生に会釈して歩き出そうとした時。
「シャルリア嬢」
不意に、アデル先生から呼び止められる。
マウリとアルはなぜ名前を知られているんだとばかりに驚いた表情で、そして事情をしっているデイジーとパティはどこか心配げな表情で私を見た。
「はい、なんでしょうか」
返事を返しながらも、そういえば言わなきゃいけないことがあるんだったと思いだす。
えー・・・でもここで言うのもなあ。
デイジーとパティだけならともかくマウリ達もいるし、気のせいか周りの視線もちらちらこっちを窺っているような気がしてならない。
とりあえずは先生の用件を聞こうと、相変わらずイケメンなその顔を見上げる。
そんな私を見て、アデル先生はふわりと微笑んだ。
「もう、すっかり元気そうですね。心配致しました」
・・・やっぱりそれかあ・・・。
冬月に推定インフルで寝込んだ際、なぜかクレイモス公爵様からもお見舞いの品をいただいたのだ。
しかも、チョコレート!!
なんだろうと箱を開けてみて、中から懐かしいチョコレートが出てきたときの驚きと言ったらなかった。
前世のものほど洗練されたものではなかったけれども、ドライフルーツのチョコがけというそのスイーツは、少なくともつい最近までこの世界では存在しなかったはずだ。
一緒にいただいた手紙には、王都にまた来ると聞いたのでその際には改めてお詫びをしたかったのだがという言葉と、身体を気遣う言葉が書かれていた。
最近新しいスイーツが発売されたので、どうにか手に入れましたという言葉と共に贈られたそのチョコレートは、絶対高いし絶対希少価値バリバリの品だったに違いない。
なんでそこまでしてもらえるのか、ちっともわからない。
「あ、はい。もうすっかり元気です!ご心配かけてすみません、それからありがとうございました!」
これで通じるかな、と思いつつぴょこんと頭を下げる。
なんとなく周りの空気から、すごく注目を集めている気がする。
ああああああ、こんなことで目立ちたくないー!
早く行ってくれないかな~と思いながら頭を下げ続けていると、そっとその頭に手の平の感触を感じた。
おい。
ちょっと待て、それはダメだろう。
「本当に元気そうで安心しました。アレもね、きっと君が喜ぶだろうと思って頑張って手に入れたんです」
そんな怖いことを言いながら、私の頭を撫でるアデル先生。
ああ、視線がビシバシ飛んでくるのを感じる。
絶対この人、私のこと未だに小さい子供だと勘違いしてるよ・・・。
別に勘違い自体はいいんだけど、私が「小さい子扱いされてるな」ってわかってても、他の人がそう見るとは限らないし。
そろっと周りを窺うと・・・ほら、やっぱり、めちゃくちゃ険しい顔してる女生徒だらけじゃないか・・・。
「あ、じゃ、じゃあ私達行きますね!ありがとうございました!」
逃げよう。そう思って言い捨てると、まだ何か言いたげだったアデル先生に頭を下げて、とっとと校舎に向かうことにした。
メインヒロインの陰に隠れながら、地味に努力するつもりなのに入学式から変に目立つ羽目になるとは。
どうせすぐに「あれは別にお相手候補でもなんでもなくて、単なる顔見知り」だとわかってもらえるとは思うけど、女生徒たちからしたら第一印象最悪だよ。
歩きながらも「シャル・・・」「どうなってるんだ、あれ」「知り合いか?」「大丈夫なの?」と口々にデイジーたちに聞かれたけれど、もう知らないよ~!
校舎に入ると、教室を確認してそちらに向かう。
私が心底うんざりしていることに気づいたようで、デイジーたちは黙ってくれている。
特に事情を知らないマウリとアルは聞きたくて仕方がないだろうに、あれ以上何も言わないでいてくれるのはきっと優しさなのだろう。
1年生の教室は一番奥になる。
そこまで、この上級生の教室の前を抜けなきゃならないのか。やだなあ。
上級生のクラスからもとげとげしい視線が飛んでくるところを見ると、ずいぶん多くの人に見られたようだ。
まあ、あの場にいなかったとしても、校舎からでも丸見えだっただろうからね・・・。
私の学院生活、前途多難じゃないの、これ?
「シャル」
また声をかけられて一瞬ドキッとしたものの、それが聞きなれた声だとすぐに気づいて肩から力を抜く。
上級生の教室の前で待っていてくれたのは、シェアト兄様だった。
「兄様!」
わっと駆け寄って、兄様の元へ行く。
ほんとは泣きつきたいけど、さすがにそれは我慢。兄様も眉を下げて困った顔つきだ。
「兄様・・・」
「うん、見てた。あれはないな」
小声で言う兄様の周りの温度が、一気に下がった気がする。怖い。
「ないですよね・・・」
2人揃ってため息をついた後、兄様は首を振る。
「だけど、今更言っても仕方がない。うちの立場じゃ抗議も出来ないし」
ですよねー・・・。
うちはしがない伯爵家。クレイモス公爵様のなさることに、とやかく言える立場じゃない。
がっくりとうなだれていると、「シェアト、教室に入れよ」と声がかかった。
振り返ると、アームズ様が戻って来られていた。メリッサ先輩も一緒だ。
「ああ、わかった。じゃあシャル、またあとで」
もう先生たちもいらっしゃるのだろう。軽く手を振って室内に戻る兄様を見送って、私たちも行こうとした時だった。
「・・・俺が父上に言っといてやるから、心配するな」
すれ違いざまにアームズ様がそうつぶやいた。
え、と思って振り返った時にはもう教室の中に入っておられたのだけれど。
アームズ様・・・そうか、ハーディエンス侯爵様ならうまく言ってくれるのかも。
ありがたい言葉にお礼を言いたかったけど、私は待ってくれていたデイジーたちに「ありがとう、行こう」と促した。
これ以上よけいな詮索をされないで済むようにと、アームズ様は私に表立って声をかけることなく、こそっと言ってくれたのだ。
その心遣いを無駄にするわけにいかないので。
また、そのうちお話しする機会はあるだろう。その時に、いろいろとお礼を言おう。
そう決心しながらその場を離れたのだけれど、アームズ様の言葉が他の人に聞かれていたことは気づかなかった。
その言葉を聞いていた人・・・メリッサ先輩が、私のことをじっと見ていたことも。
1年生は2年生や3年生より人数が多いらしく、A、B、Cの3クラスに分かれている。
2年生と3年生はAとBだけだ。
3つのクラスのうち、Cクラスの前でカリーナ様に出会った。入りたくないのか、前をうろうろしている。
多分、知り合いが1人もいないのだろう。
そうだよね、王都育ちだもんね・・・今、Cクラスにいるのはほとんどが王都から一番離れた領地の子ばかりで、男爵家や子爵家の子息だけだと思う。
私も記憶を取り戻さなかったら、きっとこのクラスだっただろうなあ。
前を通り過ぎると、カリーナ様はびっくりしたような顔でこっちを見ていた。
同じクラスだと思っていたんだろうか?
Bクラスの前で、パティとマウリ、アルと別れる。
「じゃあ、またあとでね!」
そう挨拶してAクラスへ向かうと、なんとなく周りに注目されている気がする。
しつこいなあ、と思わず顔をしかめたけれど、デイジーが「あれは誰だって感じなんだよ」と言った。
「え?」
「良くも悪くも、王都の貴族社会って狭いからね。お茶会なんかもよくあるから、Aクラスにいるほとんど全員が知り合いだって言っていいと思う。その中で、見知らぬ顔はやっぱり目立つよ」
デイジーの言葉に、納得する。
なるほどね、名前をはっきり覚えてなくても顔ぐらいは全員知っている感じなのか。
で、そんな顔見知りの集団に見知らぬ者が入ってきたら、そりゃ注目するよね。
仕方ない、居心地は悪いけど我慢するか。
Aクラスに入ると、ますますちょっと周囲が騒めく。
あの方誰なの?とか、見たことないわね、とか。それはまあ仕方ないんだけど。
中には、これ見よがしに「クラスを間違えておられるのではなくて?」などとクスクス笑いながら言っている集団もいる。失礼な。
横のデイジーが何か言ってくれようとしたのだけれど、その前に教室の前方から声が飛んできた。
「シャルリア・フロンターレ殿」
よく通る、声だ。記憶していた声より少し低くなっている。
そちらを見ると、何か片手に書類を持っているノルディスが立っていた。少し不機嫌そうに、ぎゅっと眉を寄せている。
そして、その横にはファイルのようなものを抱えたゼファス様がいる。
「君の席はこの列の一番後ろだ。デイジー・アンドレア殿は、その前の席だ」
「・・・はい。ありがとうございます」
ノルディスの案内に軽く頭を下げて、席へと向かう。
席へとつくと、間違いではなかったのかとお互い顔を見合わせている生徒たち。
それでもまだ何かひそひそされている気はするけれど、もう気にしないことにして前を向く。
まだこちらを見ていたノルディスと目が合う。
他の人から見たら、間違いなく自分の席に座るのかを監視しているかのような厳しい視線だけど、あれは違うのだ。
・・・多分、私のことを心配してくれている。それを表に出すまいとして、必要以上にしかめ面になっているだけだってわかっている。
ノルディスも、それからアームズ様も。ハーディエンス家の人は優しい方ばかりだ。
ありがとうね、ノルディス。
そんな思いを込めて少しだけ微笑んでみせると、彼はちょっと目を泳がせて視線をそらした。
また次に入ってきた生徒の席を案内しているので、きっとその役割はアームズ様辺りに押し付けられたんだろうな、とちょっとおかしい。
「これ、履修用の資料だ」
いつの間にかゼファス様が私たちのすぐ横に来られていて、私とデイジーに資料を渡してくれる。ゼファス様もお手伝いしてるんだ。なんか、仲良くなってるのかな?
「ありがとうござ・・・」
お礼を言って受け取ろうとして、見上げたその姿に固まってしまう。
だって、ゼファス様が制服を着て、そばに立っているんだよ。
今まで何度かお会いした時は制服じゃなかったし、スチルだ!とか思ってた園遊会のシーンも、遠目に見ていた。
だけど、今このすぐ横におられるゼファス様は、私の同級生なんだ。
ゲームのキャラじゃなくて、同級生なんだ。同じ制服を着ているんだ。
ちょっと気を緩めたら、なんだか気を失いそうな気がして、まともに顔も見れない。
ぽかんと開けていたであろう口を慌てて閉めて、視線を伏せたまま手だけ伸ばしておそるおそる資料を受け取った。
そんな挙動不審な私が面白かったのか、ゼファス様がふっと声を漏らして笑ったのが気配でわかる。
生スチルとかそんなレベルじゃないよ、なんだこのシチュエーション。
ゲームでは描かれなかった姿に、ちょっと動揺しまくっている。
今更だけど。
すっごい今更なんだけど。
大好きなキャラのいる乙女ゲームの世界に転生って、なんか心臓が持たない気がしてきたよ・・・。




