7.パティの幼馴染たち
誤字報告を頂きました!大変助かります!
注意しているつもりですが、時間がなくて焦って投稿しちゃうと間違えてるんですよね。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
式典が終了して外に出てからも、生徒たちの興奮は冷めないようだった。
聞くともなしに話を聞いてみたけれど、皆がマリーアンジュ王女様の決意をたたえ、彼女はやはりエレメンタル・プリンセスに相応しいと絶賛していた。
精霊王様の弱化については少し不安そうなことを言う生徒もいたが、大体の生徒が自分も頑張らねばという意識になったようだ。
・・・やっぱり、すごいな。
あれだけの言葉で、これほどの人を動かすというのは素晴らしい。
まさに、生まれながらの王族というか人の上に立つ器の持ち主なのだろうと思う。
彼女に影響されて、きっとこの学院自体のレベルが底上げされるだろう。
それによって優秀な人材がたくさん輩出されると、このフランズベルト王国の国力そのものが上がることになる。
精霊王様の弱化が今すぐではないにしろ、そうやって国力を上げておくといざという時にはきっと役に立つだろう。
「シャル」
ぼけっと突っ立っていた私に、デイジーが寄ってきた。
退場は後ろからだったので、私の方が早く外に出てきていたのだ。
ようやく今になって前の方に座っていた生徒たちが、外へ出てきているのがわかる。
「デイジー。なかなか波乱の幕開けね」
そう言うと、デイジーはぐるっと今出てきた講堂を振り返る。
「ああ。先生方も運営会も混乱しているみたいだ。王女様の挨拶は、予定と違ったみたいで、今先生方と話しておられるよ」
でしょうね。本来の挨拶は、ゲームと同じだったのだろうから。
外に出ている新入生たちは、本来ならこの後校舎にて履修の説明を受けるはずなのだけど、先生も運営会も出てきていないので、まだ誰もその指示が出せないようだ。
興奮して話していた状態も少し落ち着いて、今ではあちこち数グループに分かれて話をしている。
「シャル、パティは?」
「あ、さっきから私も探しているんだけど・・・」
言いながら周囲を見回す。
人がばらけてきているので少し探しやすくなった感じがする。
「あれ、そうかな」
デイジーが言う方に視線を向けると、パティらしき後姿が見えた。
葉の形をした髪飾り。彼女の領地の特産品である、紅茶の葉をモチーフにしていると言っていた。
多分、間違いない。だけど。
「男の子と、話してる?」
パティは園遊会でも話していたように、三人姉妹の長女として婿を取らなければいけない身。
なので、自身の相手は慎重に選ぶ必要があるため、学院でもあまり男性と接触するのは避けたいと言っていたのだ。
その彼女が話している相手は、明らかに2人組の男子生徒だ。
思わず周りを見回すが、彼女たちを注視している者はいなさそうだ。
むしろ、講堂から出てきたノルディスやゼファス様といった高位貴族の方たちに、どうやって話しかけるかとお互いけん制し合っている女生徒の方が多いような気もする。
じゃあ大丈夫かな、と思いつつもパティの表情が見えないために、そちらへと近づくことにした。
もし嫌がってたら、助けないとだしね。
少し近づくと、男子生徒たちの顔がよく見える。
1人は明るい茶色の髪をした、小柄な男の子。ニコニコしながら話しているその笑顔には邪気が感じられず、誰でも親しみを覚えるような感じだ。
反対にもう一人の男の子は、黒髪の少し斜に構えた感じの印象だ。アンシンメトリーな半分だけ長い前髪に、片方の目が隠れてしまっている。邪気眼とか使いそう。
すると、近づいていた私たちに気づいたのか、茶髪の男の子の方がこちらを見た。
ハ!と目を見開いて、隣の男の子の肩をばしばしと叩く。
そのしぐさにパティも気づいたのか、こちらを振り返った。
「パティ、ここにいたのか」
話しかけていいのかなと一瞬戸惑った私より早く、デイジーが声をかける。
パティが「ごめんなさい、探してくれていたの?」と答えるその表情には、助かったという気持ちや迷惑そうな気持ちは表れていない。いつものパティだ。
ということは、元からの知り合いなのだろうか?
「ああ、やっぱりパティと友達だったんだ」
茶髪の彼が、私達を見ながらそう言う。やっぱりって?
「さっき、式が始まる前に見かけたんだ。パティ・・・パトリシア殿と、仲が良さそうに話をしている子たちがいるなあって」
「そうなんですか」
納得してうなずく。確かに式の前、私たちは3人で固まって話をしていた。
それを見られていたとしても何の不思議もない。
私とデイジーがパティと男子生徒たちを見比べていることに気づいたのか、パティが少し苦笑して私たちに言った。
「紹介するわ。エスタンス領の隣であるモントレー伯爵家のマウリッツ様。それから、その隣のラングドン子爵家のアーノルド様よ」
「僕ら3人は、幼馴染なんだよ」
ニコニコと説明するのが、茶髪のマウリッツ様。黙ってうなずくのが、邪気眼のアーノルド様。なるほど。
「王都住まいでもないのに、幼馴染って珍しくない?」
ふと、不思議に思って聞いてみる。1つの領は日本でいう都道府県ぐらいの大きさはあるから、新幹線も飛行機もないこの世界では、ちょっと気軽に行き来するのも難しい。
なので、私の場合は隣であっても他の領地の方と交流はなかったのだ。
それについてはパティとマウリッツ様が交互に説明してくれた。
パティ達の出身である北部地域は山が多く、どうしても人が住むのは領地の半分ぐらいに集中してしまう。そこがそれぞれ隣と面しているので、3領地の主な地域全部でも1領地分ぐらいの広さにしかならないのだとか。
その上でアーノルド様の子爵家がラングドン商会という商いを行う仕事であるため、アーノルド様がそれについてエスタンス領やモントレー領へはよく行っていたのだとか。
いつしかマウリッツ様もそれについて行くことが増え、エスタンス領に訪れた時にはパティ様と3人でよく一緒に遊んだらしい。
家族ぐるみの付き合いがある、幼馴染ってことか。それはちょっと羨ましい。
「それから、こちらはアンドレア侯爵家のデイジー様と、フロンターレ伯爵家のシャルリア様よ。園遊会や入寮で知り合ったの」
パティに紹介してもらい、私たちも軽く挨拶する。
制服はドレスの様につまむ裾もないから、スカートに軽く手を添えて頭を少し下げる程度だけど。
「よろしくね。僕のことは、マウリでいいよ。こっちはアル」
マウリッツ様が手を差し出してくるが、ちょっとどう反応していいかわからなくて戸惑う。
この世界では珍しいぐらいに馴れ馴れしい。
初対面の異性には、割と一歩引いて挨拶から始めるのが普通なのに。
初対面のノルディスにやりたい放題だった私が言えた節じゃないのはわかっているけど、あれは攻略キャラということで以前からの知り合いと同じように捉えたからだ。
完全に初対面の人に対しては、それなりにちゃんと礼儀正しく接しているつもりだ。
「マウリ!・・・じゃなくて、マウリッツ様。そんなことを言われても、デイジーもシャルも困ってしまうわ」
パティが慌ててそう言うが、その言い方で普段はそうやって愛称で呼び合っているのがわかる。さっき、言い直していたけどマウリもパティと呼んでいた。
そうだよね、貴族とはいってもずっと小さい頃から親しくしていたのならば、わざわざ様付けとかしなくても構わないよね。
「じゃあ、うるさいことを言いそうな人がいない時だけ、そう呼ばせてもらうね」
私はそう言って、差し出されたマウリの手をしっかり握る。
「私のことは、シャルでいいよ!よろしくね、マウリ」
マウリはぱっと目を見開くと、その笑顔を数倍増しにしてぶんぶんと握った手を振ってくれた。
「君はなかなか話せる子だなあ!よろしくね!」
私たちが意気投合?してしまったことに諦めたのか、パティはため息をついて頬に手をあてた。
「シャルのこと、誰かに似ているような気がしてたんだけど・・・マウリだったんだわ」
ええー・・・それはなんか、微妙だなあ。
私のそんな感想など知る由もないマウリは、続いてデイジーに手を差し出す。
ただし、その手の出し方は握手じゃない。手の平を上にして、貴婦人に手を差し出す時のやり方だ。
「初めまして、デイジー様。どうか、パティだけでなく僕とも仲良くしていただけたら嬉しいです」
うわあ。なんだその態度の違い。
アルが呆れたように首を振り、パティは顔を覆ってしまう。
いや、別にいいんだけど。いいんだけど、ちょっと複雑。
デイジーも苦笑しながら差し出された手に自分の手を乗せて、言う。
「私もデイジーでいいよ。よろしく、マウリ」
「そんな、恐れ多い・・・!だけど、遠慮なく呼ばせてもらいます、デイジー」
どっちだよ、と突っ込みたくなったけど、デイジーの手を額に押し戴いて挨拶したマウリが、本当に彼女を敬慕するような視線を向けていたので、不問にすることにした。
デイジーは魅力的だもの、当然だよね!
こっちの彼はどうかなあ?
ちょっと反応がわからないからためらったものの、思い切って手を差し出してみた。
「アル、でいいのかな?よろしくね」
彼は私の手と顔を往復するように見た後で、さほど躊躇も見せずにそっと手を握ってくれた。
「ああ、よろしく」
ちょっと微笑んでくれたその顔は意外に人懐っこい感じで、好印象だ。
確か、商会の息子なんだっけ?それじゃあ、将来のためにも少なくとも愛想ぐらいは身に着けているってことか。冷たい態度を取られなくて、よかった。
アルとデイジーも挨拶を交わした(こっちは普通に握手してた)ところで、ちょうど周りがざわざわし始めた。
見ると、話が終わったのか講堂から先生方と運営会、そしてマリーアンジュ王女様の姿が現れたようだった。
すかさずイザベラ様とアンジェリカ様がマリーアンジュ王女様に駆け寄り、少し遅れてカリーナ様も。
おおう。さっそく抜け目ないなあ、取り巻きーズも。
でも、それがきっかけになったように先生方が新入生たちを校舎の方へと誘導を始めた。
遅れたけれど、ようやく履修の説明が始まるらしい。
事前に案内された3クラスへ分かれるように、という指示がある。
「そういえば、パティはクラスどこなの?」
マウリの問いに、パティは「Bクラスよ」と答える。
「あ、一緒!」「一緒だな」と、マウリとアルが口々に言う。
「私はAだ」
デイジーがそう言うと、露骨にがっかりするマウリが少し面白い。
「やっぱりか・・・試験ってほどじゃないけど、入学前に軽い面談があっただろ?」
マウリの話に、あれか、と心当たりを思い出す。
春月を目前にした冬3の月に、学院の職員という方がフロンターレ家を訪れていた。
シェアト兄様の時にはなかったのだけれど、今年から入学前の生徒全員と面談をするとおっしゃられていた。
応接室で少し話をしたのだが、その話の内容が王国の歴史や地理、果ては魔術や剣術の話にまで広がっていた。
知識のある人と話をするのはとても楽しくて、なかなか有意義な時間だったと思っていたのだけれど。
どうやらあれが入学考査のようなものだったらしく、合否はないがクラス分けの参考となったらしい。
「エレメンタル・プリンセスや精霊使徒に近いものほど、Aクラスになるらしい。だから、当然王女様もAクラスだろうし、デイジーもなんだよ」
マウリの言葉に、デイジーとパティは一斉に私を見た。
「・・・シャルはAだろ?」
「シャルは、Aクラスよね?」
口々に問われて、素直にうなずく。私はAクラスだ。
やっぱりな、という表情のデイジーとパティに対し、驚いた表情をするマウリとアル。
「Aなの?!王都住まいじゃない、伯爵令嬢なのに?!」
「それはすごいな・・・」
だってエレメンタル・プリンセス狙ってるもの!最初の一歩だよ!




