↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/165

6.メインヒロインの決意

式典、というものは異世界であっても退屈なものには変わりないらしい。

何人目かのお偉いさんが出てきて話す長い訓辞に,皆がうんざりした顔になる。


それでも前方半分ぐらいの生徒たちは皆姿勢を保ち、まっすぐ前を向いている。

私の席はちょうど真ん中ぐらいだけど、後ろからはひそひそ話やくすくす笑いなどが聞こえる。

ちらりと後ろを見てみたら、姿勢もだらりとしているものが多い。


なるほど、これが教育の差か。

前世の日本では、義務教育があるからこういった式典にはある意味慣れている。

どれだけ退屈であろうと、心の中で違うことを考えたりしつつも表面上は話を聞いているふりぐらいは出来る。

それに対して、異世界では幼稚園も小学校もなくて、前世で言う中学生の年齢からこうやって集団生活を送ることになる。今までは家の中では自分の好きにやれていたことが出来なくなり、とまどっている子も多いに違いない。

長くて退屈な話を長々と聞かされる、ということに何の意味があるのかと考えている子もたくさんいるだろう。

・・・いや、それは私もだけれども。


それに対して前方に座っている身分が高い貴族家の出身の子たちは、こういった場であっても静かに座っておくという訓練を受けてきたのだろう。

今、前に立って訓辞をされている方は王都内務省のお偉いさんだ。

万が一、聞く態度が悪いと不興を買ってしまった場合、自分だけでなく家族にまで影響が出かねない。

なるほど、侯爵家や王都住まいの伯爵家出身といった面々を前方に座らせるのは、忖度だけが目的でもなくて理にかなっているようだ。


とはいえ、そんな訓練された高位貴族の子女たちの顔にも、さすがにうんざりした表情が見え隠れし始めたころ、ようやく挨拶が終わって先生方の紹介へと式次第がうつった。

ここで驚いたのが、なんと歴史学の先生としてモーリス先生が着任されたこと!

引退して、悠々自適に暮らしておられた先生を引っ張り出すなんて・・・やはり、そこまで事態はひっ迫しているということなんだろうか?

いや、むしろマリーアンジュ王女様が入学されて、一番エレメンタル・プリンセスに近いところにおられる方を引き上げるためと考えた方がいいかもしれない。


そんな風に色々と考えていたのだけれど、次の新任の先生の紹介で全部吹っ飛んだ。

生徒のざわめきと、隠しきれない小さな悲鳴。

礼儀作法の先生として壇上に現れたのは、なんとクレイモス公爵様だったのだ。

女生徒たちが一気に色めき立つのも無理はない。

我が国一番といっても過言ではない、優良株のお相手。

今までは遠い存在だったその方と、お近づきになるチャンスが転がり込んできたのだから。


いやほんと、この人って隠しキャラか何かなんだろうか?

そういえば『エレプリ』は学園を舞台にした恋愛ゲームの割に、先生の攻略対象者っていなかったんだよね。お約束なのに。

マリーアンジュ王女様のお相手としたら、文句なしだろう。むしろ、何でこの方が王配候補に上がらないのかが不思議だ。王配でなくても降嫁先としても全く問題がない。

ゲーム的に精霊使徒でないと意味がないからか?

でもそれだと、ゼファス様が王配候補に選ばれていないのはなぜか、という話になる。

・・・誰かが、そう仕向けているのだろうか?


「・・・これからはどうぞ、気軽にアデル先生とお呼びくださいね」

クレイモス公爵様は、さすがの優雅な仕草と誰もがうっとりするような微笑みで手短に挨拶を終えられる。

おおぅ、女生徒たちの目が完全にハートになってるよ。わかるけど。

でも、彼がお嫁さんを探しておられるってこともまた事実なわけで。本人の意思はわからないけれど、周囲からしてみれば女生徒の中の1人が彼を射止めたところで何の問題もないだろう。

私のような一介の伯爵令嬢にはあまり関係ないけれど、王都住まいの侯爵家令嬢の方々なんかは目の色変えちゃうのも仕方ないよねえ。


式次第は進んで、次は運営会からの歓迎の挨拶だ。

運営会って何だと思ったけど、要は生徒会のようなものだと理解した。

と、いうことは今挨拶のために前に立ったのは生徒会長ってことになるのか・・・あれ、アームズ様だ。

そういえば寮でお見かけしてからも、あちこちでうろうろしておられる姿を見たな。

そうか、アームズ様って生徒会長・・・じゃない、運営会?の会長なのね。

堂々とした挨拶とその凛々しい立ち姿に、またもや女生徒の視線は釘づけだ。

いや、だからおかしくない?なんでこの人が攻略対象じゃないの??

ゲーム会社の人がいたら、大声で抗議したいレベルだよ、全く。


でも待てよ。

ゲームの中でも、アームズ様はキャラクターとしては出てこなかったものの、ノルディスのルートには関わってくる重要な役割だった。

ハーディエンス家の長男であるのにも関わらず、土のエレメンタルの加護は次男のノルディスより低い。それを本人が自覚しているからか、ノルディスに対して当たりが強く、父である侯爵様にも反発をしている。

出来のいい弟と比較され続けているからか、すべてに対していい加減であったりやる気のなさそうな態度を取っている事が多い。

そんな兄が将来宰相として立ち、マリーアンジュ王女様の横に並び立つことが許せなくてノルディスは自分が兄を蹴落として宰相になることを考えるのだ。


たとえアームズ様が攻略対象であっても、そんなキャラクターを攻略したいと思うプレイヤーはあまりいないだろう。

とはいえ、不良を更生させる?というシナリオにしてしまえば、それはそれでありな気もするけどな・・・母性本能をくすぐられる、ってことで。

うーん、やっぱり隠しキャラとかだったのかもなあ。

実際のアームズ様はノルディスに負けず劣らず優秀で、兄弟仲も悪くなく、家族からも大事にされている。

こうやって人前に立つだけの実力も人望もある方で、将来宰相様になられてもなにもおかしくはない。

来賓としていらっしゃっているハーディエンス侯爵様も、さぞかし鼻が高いだろうな。


そつなく挨拶をこなされたアームズ様に代わり、今度は新入生代表の挨拶だ。

コツコツと軽い足音が響くのが聞こえるぐらい、講堂は静まり返る。

壇上に立たれたのは、マリーアンジュ王女様。

それは、ゲームの時もそうだったのでわかっていたことだけれども。

園遊会の時からまた一段と美しさが増し、まるで聖母のような微笑をたたえたその姿に、誰もが息を飲んだ。

そして、そのピンクに彩られた可愛らしい口元から鈴が転がるような声が響いてきた。


「・・・この国、いえ、この世界は今、危機に瀕しています」


な、なんだってー!!!


もし、声を上げれるような雰囲気であったなら。おそらく全員がそう言ったに違いない。

だけど実際は、目を見開いた者、ポカンと口を開けた者、黙ってつばを飲んだ者。

すぐそばに立っていたアームズ様なんかは、焦った表情になっている。

そして私も驚きを隠せずに、壇上のマリーアンジュ王女様をただただ見つめる。


ゲームでも新入生代表の挨拶は、マリーアンジュ王女が行う。

だけど、その内容は「ハーディエンス学院の生徒として恥じない行動を心がけます」といったような、いたってオーソドックスな挨拶だ。

ゲームのオープニングではそんな内容が書かれたあいさつ文を渡されたものの、これぐらいなら覚えられるわとさらっと目を通すだけで暗記してしまうという、彼女の優秀さがプレイヤーに伝わる演出がされている。

少なくとも、こんな風に爆弾発言がなされることはなかった。


「精霊王様の力が弱まっているという今、一刻も早くエレメンタル・プリンセスと精霊使徒の選出が待たれているのです」


マリーアンジュ王女様の演説は続く。

その内容は、私がシマやフレアに聞いていた話とだいたい同じものだった。

精霊王が自分の分身ともいえる精霊を生み出した際に、力を使い果たして眠りについてしまったということ。

そのせいで精霊王の加護が少しずつ弱まり始めていて、フランズベルト王国や周辺の国々を囲う結界が薄くなってきているということ。

その結果、魔獣等の侵入が少しずつではあるがあちこちで見られるようになってきていること。


「これからもこの平和なフランズベルト王国を守りたい。私は王女として、強く思います。

だからこそ、ここに宣言します。私は、エレメンタル・プリンセスになりますと」


マリーアンジュ王女様がそう高らかに宣言すると、一瞬静まり返ったあとでわーっという何とも言えない歓声が講堂を揺らした。


「だから皆さんもどうか、協力してください」


その一言に、行動は再び静まり返る。


「精霊使徒に選ばれるように、自分の力を精一杯学院で伸ばしてくださいませ。そして、女生徒の皆さんは私とともに、エレメンタル・プリンセスを目指しましょう」


そう言い切ると美しいカーテシーを披露したマリーアンジュ王女様に、割れんばかりの拍手が送られる。

私も心の底から感心して、拍手を送る。

チートなメインヒロインは、努力もせずにエレメンタル・プリンセスになれた。

だから、ひょっとしたらマリーアンジュ王女は、世間知らずの生粋のお嬢様の可能性があるなって思ってたんだ。

でも、この発言を聞く限りは王国の未来に不安を持っていて、出来る限りの努力をしようとしているように聞こえる。そして、それを自分だけでなく周りの人の力も借りて、成し遂げようとしている。


ならば、ひょっとして私はエレメンタル・プリンセスを目指さなくてもいいのか?

そんな大変そうなことに関わらずに、楽しく学院生活を送ればいいのか?

・・・でもなあ。


ゲームのように、何もできない劣等生は嫌だ。

エレメンタル・プリンセスになる。

そのために、この1年半ほど色々なことを積み重ねてきたんだ。

だからこそ、パティ様やデイジー様のような方々と知り合い、アムリータ様やリンナ様のような方々にかわいがってもらい、ノルディスやゼファス様と交流が出来たんだと思っている。


精霊王様の力が今すぐ無くなることはないらしいけど、弱くなっていっているのは確実。

ならその守護を受けるマリーアンジュ王女の力も、これからどんどん弱くなる可能性もある。

もしかしたら、彼女が1人で支えきれない場合もあるかもしれない。

その時は、多少なりとも私の力が役に立つかもしれない。

ならば、私だってエレメンタル・プリンセスを目指すことをやめなくてもいいだろう。


ここはひとつ、手ごわいライバルがますます手ごわくなって、超ハードモードになったとでも思おう。

勝てるかどうかわからないし、勝てる気が全くしないけど、その代わり負けてもこの国が滅びることはないだろう。


やっぱりマリーアンジュ王女様は、チートで無敵なメインヒロインだ。

そして私は、ごくごく普通のサブヒロイン。


でもいいじゃないかそれで。

大事な人たちを守るために、私はただ自分にできることをやるだけなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。