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76.公爵様は頭を抱える

投稿したつもりでいました・・・遅れてすみません!

金茶の髪を襟足で軽く結び、穏やかそうな灰色の瞳をした優しそうな青年。

そんな印象のクレイモス公爵様は片手を胸にあて、優雅にお辞儀をされた。

慌てて私もカーテシーにて挨拶を返す。さすがにちょっと緊張する。


「まずはお詫びを申し上げる。この度は我が邸に滞在中の客人が、君に暴言を吐いたとのことで大変嫌な思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」

公爵様がその顔を少し曇らせて、私におっしゃった。

事情を聞く前にお詫びをされたことにびっくりして、「いえ、とんでもないです」と小さく返した。

それにしても客人?あのハイゴッサムの王子が?

「ハーディエンス侯爵殿の護衛からざっと話は聞いたが、一度君から事情を話してもらえるだろうか」

そう言われた公爵様は「ああ、それからもちろん」と言葉を続けられる。

「実際に、関わった者の名も教えていただきたい。悪いようにはしないと約束する」


・・・カリーナ様の名前も出せと言うことか。

ちらりとハーディエンス侯爵様を見ると、黙ってうなずかれた。

悪いようにはしないという言葉を信じていいのかはわからないけど、ここまで来ていただいたのだから話さないわけにはいかないだろう。


私は自分の目で見たこと、聞いたことをそのままお話しする。

カリーナ様とヴァネッサさんの諍いに関しては、最初の部分などは見ていないのでわからないと素直に言う。

カリーナ様がヴァネッサさんを突き飛ばしたとあのエドワルド様は言っておられたが、それは少し違う。はずみでぶつかってしまっただけだとも言っておいた。

そして、カリーナ様がナシャーヴ族の民族衣装を知らないが故、誤解をして暴言を吐いたということは告げ口になるだろうけど付け足しておいた。さすがに知らなかったとはいえ、ひどい言いがかりだったので。

ただし、ナシャーヴ族に関しては自分も最近知ったばかりなので、この国の平均的な貴族令嬢があの服に眉をひそめても仕方ないだろうと付け加えておく。それを情状酌量してくださるのかは不明だけど。

もちろん、エドワルド様に暴言を吐かれた件に関しては、一言も余すことなくしっかり言いつけておく。物知らずだ、身の程知らずだ、田舎貴族だと言われたと。

自分の勘違いだとわかった後も謝罪はなく、逆にカリーナ様の名前を言わなかったことに対して使えないやつだと文句を言われたと話すと、クレイモス公爵様は特大のため息をついて頭を抱えられた。その横でハーディエンス侯爵様も、眉間のしわをますます深くされる。


・・・言い過ぎたかな。でも、事実だしね。


私が話し終わると、今度は店長さんが促されてカリーナ様とヴァネッサさんのトラブルの始まりから話をされた。

そもそもはヴァネッサさんが先に店にいて、あのお付きの人とドレスを見ていた。

彼女の美しさに店長さんは少し浮かれてしまったようで、最近作り上げたばかりの最新作のドレスを奥から出してきたらしい。

そのドレスは少し大人っぽいマーメイドラインに似た感じのドレスで、確かにヴァネッサさんには似合うだろうと思われた。

ところが、それをたまたまカリーナ様たちに見られてしまい「そのドレスをこちらに見せなさい」となった訳だ。

カリーナ様は美人と言うよりかはむしろ可愛いタイプで、正直そのドレスはあまり似合わないだろうと咄嗟に判断した店長さんは、あくまでも丁寧に「こちらのお客様がご覧になっているので・・・」と断ったのだ。あとで別のを薦めようと思って。

ところが、それが気に食わなかったカリーナ様の「私を誰だと思っているの」発言。

その後は、私が見聞きした通りだった。


ただ、店長さんは私が特には言わなかったことも話された。

私がヴァネッサ様に手を差し出して立つのを助けたこと、薄い布で彼女の破れた服を隠したこと、カリーナ様のナシャーヴの民族衣装についての暴言を諫めたこと。

「私が不甲斐ないせいで、お嬢様には本当にご迷惑をおかけしました」

そう言って改めて謝られてしまい、ちょっと慌ててしまった。

「いえ!勝手にお店の布を使っちゃったりして、すみません!あ、それと美味しいお昼ご飯を頂いたのでもう本当にそれでいいです!」

「お昼ご飯・・・」

小さくつぶやくクレイモス公爵様と、軽く額に手をあてて目をつむるハーディエンス侯爵様。

絶対「この食いしん坊め」とか思われてるよ・・・。


「よくわかる説明をありがとう。君は大変聡明な子ですね、シャルリア嬢」

クレイモス公爵様は満足するように微笑み、うなずいて私を見つめられた。

よく見ると、この人めちゃくちゃイケメンだわ。

確か20歳だっけ?

早く跡取りを作るためにお嫁さん探しが進んでいるってこの間モーリス先生に聞いたけど、別に探さなくてもいっぱいいるんじゃないの?って感じよね。

「ナタリーから聞いていた話と大体一致しますな」

そう言ってクレイモス公爵様を見るハーディエンス侯爵様。

「ええ。最初は少し思い違いもあるのではと考えていたのですが、これだけしっかりとした証言をされた上、何人も目撃者がいるのでこれは間違いないでしょう」

クレイモス公爵様は自分に言い聞かせるようにそう言うと、傍らのお付きの人を見た。

「すぐ、処分を考えましょう。あちらと連絡を」


処分?!カリーナ様を?


「ま、待ってください!」

急に大声を上げたので、一気に視線が集まる。

だけど、ためらってはいられない。

「その、カリーナ様は今ちょっと調子に乗っちゃってるだけなんです!マリーアンジュ王女のご学友と認定されて、舞い上がってるだけなんです!多分、もう少ししたら落ち着くと思うので、その、処分はなるべく軽いものにしてあげてもらえませんか?」

意気込んで言うと、クレイモス公爵様は一瞬気圧されたようにぐっと身を引くと、ちょっと考えてから「ああ・・・」とつぶやかれた。

「カリーナ・ロング伯爵令嬢に関しましては、ロング伯爵殿とこっそり連絡を取って、内々にヴァネッサ殿に謝罪に来てもらうことにしましょう。君さえ納得してくれたら、おそらくそれで済むと思います」

「それはもちろん構いませんけど・・・え?じゃあ、何の処分を・・・」

「もちろん、エドワルド王子殿下ですよ」

クレイモス公爵様はにっこりと笑顔を見せられたが、その目が全然笑ってない。怖い。

「呼ばれてもいないのに他国へ押しかけた挙句、わがまま三昧。挙句の果てに勘違いから貴族令嬢に暴言を吐き、謝罪もないまま暴言を重ねる始末。こちらの件こそ、外交問題になっても無理がない案件なのです」


クレイモス公爵様が説明してくれたことによると、そもそもはナシャーヴ連合から族長の娘を社会勉強としてしばらくフランズベルト王国に滞在させたいとのことだったらしい。

なので、王都外務省の外相であるクレイモス公爵様は、せっかくならハーディエンス学院へ短期留学をしてもらおうとハーディエンス侯爵様とも話し合ったのだとか。

少し準備に手間取ってしまい、この春1の月からの予定が伸びてしまったけど、春2の月からは学院へ通えるということで寮の準備なども整いつつあった。

目途が立ったので先日族長の娘であるヴァネッサさんを迎え入れ、数日間のことなのでとりあえずはクレイモス公爵邸へと招き入れることになった。

このあたりは内々で進められていた話なのだとか。まあ、独身のクレイモス公爵様の家に女性が滞在するって言うのはあまり大っぴらには出来ないだろうし。


ところが。

どこから話を聞きつけたのか、ある日いきなりハイゴッサム王国から前触れもなくエドワルド王子がやってきたのだとか。

どうやら以前王族が集まって会合を開いたときに、たまたまそれについて行っていたエドワルド王子は、同じくついてきていたヴァネッサさんに一目ぼれしたらしい。

それからは距離もなんのそのでアピールしまくっていたらしいんだけど、今回フランズベルト王国に留学するという話を聞きつけて押しかけてきたのだとか。

もちろん「私も前々からフランズベルト王国に留学したいと思っていたのだ」と言って。

困ったのはクレイモス公爵様。慌ててハイゴッサム王国に連絡を取ったが、「王子は言い出すと聞かないので・・・」と謎の理屈で押し切られ、なし崩し的に面倒を見る羽目になったらしい。


幸か不幸かハイゴッサムとフランズベルトは言語が同じであり、相互の意思伝達に不自由はない。

だからエドワルド王子にはハーディエンス学院へ留学するための最低限の知識だけ身に着けてもらおうとしたものの、勉強そっちのけでひたすらヴァネッサさんにまとわりついていたのだとか。

クレイモス公爵様が引き離そうとすると「お前も彼女が好きなのか!」と斜め上の反応が返ってくるし、ヴァネッサさん自身も通訳をしてくれているイダ曰く「邪魔だ」と言っていたとか。

このままではヴァネッサさんの準備もままならないので、今日は学院の催しで使うドレスを見に行くからと朝早くから貴族街へと送り出したそうな。

ゆっくり起きてきたエドワルド王子は公爵邸に引き留められて勉強をしていたものの、途中で無理やり打ち切って貴族街へ向かった。

そこで、ヴァネッサさんがカリーナ様とトラブルになったことを公爵邸へ報告しに行こうと急いでいたイダに出会い、激高してこの店へと突進してきたのだとか。


「クレイモス公爵様も大変ですね・・・」

その苦労がまざまざと想像できたのでそう声をかけると、公爵様は驚いたように目を見開いた。それからふわっと笑顔になる。

「ああ、全く。こんな小さい子ですらそれを理解してくれるのにな」

丁寧な話し方が崩れて少しだけ年相応の青年らしい表情を見せながら、彼は私の頭を撫でてくれた。

・・・どうしてみんな、私の頭を撫でるんだ・・・。

まあいい。イケメンに撫でられるのは悪い気がしないので、ニコニコと愛想よく笑っておく。

「可愛い子ですね。なんだか、年の離れた妹のような気がしてなりません」

ハーディエンス侯爵様に、そう言ってニッコリ微笑むクレイモス公爵様。

リップサービスも完璧!さすが公爵様ともなれば違うわあ。

・・・なぜか、ハーディエンス侯爵様は微妙な顔をしておられましたけどね。


クレイモス公爵様とハーディエンス侯爵様は、これから王城へ戻って他の関係者と共に今後のエドワルド王子の処遇について話し合うらしい。

ただでさえ忙しいのに、余計なトラブルを追加してしまい申し訳ない。

そう言って謝ると、クレイモス公爵様は「むしろあのバカ王子をハイゴッサムへ送り返すいい機会をつくってくれた」と上機嫌で言ってくださった。

バカ王子とか言っちゃったよ、この人。よっぽど腹に据えかねてたんだろうなあ。

ハーディエンス侯爵様も「問題ない」と言ってくれた後で、少し厳しい顔つきになって私を見て告げる。

「シャルリア嬢。これからハーディエンス学院とそれを取り巻く環境は、変わっていくだろう」

やっぱり、エレメンタル・プリンセスを至急選ぶようにという話を聞いたのかな。

ここ何十年、百年以上現れていなかったエレメンタル・プリンセスの選定を急ぐようにと言われても、多分どうしていいのかわからないよね。

精霊使徒の選定も、その人物たちによるエレメンタル・プリンセスの選定も、きっと多分まだ夢物語のように現実味がないに違いない。

「だから、今は少しでもたくさんの経験をしなさい。学院へ入るときには、それがすべて君の力になるから」

「わかりました」

うなずくと、ハーディエンス侯爵様も頭を撫でてくれた。



ハーディエンス侯爵家で過ごす日々も、もうすぐ終わりに近づいていた。

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