73.ぽっかり予定が空いたので
今日はいきなり暇になった。
いつものようにハーディエンス侯爵家で朝食を食べ、モーリス先生を待っていたところ。
急遽、王城にて有識者会議が行われるという知らせがあり、先生はそちらへ向かうことになった。
モーリス先生は自己紹介の時に王都内務省出身の文官だったと聞いていたのだけれど、その現役時代の役職は、前世で言えば文部科学省長官といったところか。
ハーディエンス学院及び平民の子息が通う市井の学校のカリキュラムなどを決めたり、その卒業生の就職斡旋やマッチングなどいわゆる教育的分野にかかるものを担当されていたらしい。
なので私たちの予習をしてくださる先生にはぴったりだということで、ハーディエンス侯爵様がお願いしてくださったようなのだけど。
その先生までが駆り出される有識者会議。もちろん、ハーディエンス侯爵様もだ。
・・・これは、あれかなあ。
シマとフレアに聞いた、『精霊王の力が弱まっているため、出来るだけ早くエレメンタル・プリンセスを選ぶ必要がある』っていう話かな。
ちなみにどうやってそれを伝えるのかというと、精霊と話が出来る人はちらほらいるのだとか。とはいえ精霊の加護が平均して高い王族ぐらいにしか、普通は発現しないものなのだそうだ。
現在のフランズベルト国王様もその中の1人で、おそらく精霊たちの誰かから聞いたのだろう。
私の場合は異世界から転生したせいか、精霊との相性がやたらいいという存在らしい。
この間夢の中に現れたシマとフレアも、最後は私に引っ付いてすりすりしてから帰っていった。
なんか、私が気持ちいいもの?を発しているらしい。謎だわあ。
まあ、可愛い天使たち2人にすり寄られるのは悪い気しないけどね!
そんなこんなで午前からの勉強は中止。
そして、それならばちょうどいいとばかりにアムリータ様がノルディスを連れて昼食会に行かれることになった。
昼食会。え、お茶会じゃなくて?って思ったんだけど、どうやら違うんだって。
アムリータ様の説明で把握したのは、集団お見合いなのかな?って感じ。
参加者は学院入学前ぐらいの子供たちとその親。お茶会だとどうしても女性同士の話の方がメインになってしまうので、景色のいい屋敷で昼食をとりながら色々話をして、そのあともし引き続き話がしたければ庭とか散策しながら話を続けるのだとか。
いやもう、それ完全にお見合いだよね!って思った。
「頑張ってね!」なんて気楽にノルディスに声を掛けたら、すっごい嫌そうな顔をされた。
まあ、嫌なのはわかるけどそんな顔しなくても・・・。
アムリータ様が、園遊会でノルディスを見初めた方々から軽い圧力をかけられたらしく、これも貴族のお付き合いと思って我慢してくださいな、なんておっしゃってた。
ただ、食事するときは皆が平等に話を出来るようにホスト側が配慮する必要があるので、男性にとってはいい情報交換の場にもなるらしい。
お茶会だとどうしても貴族令嬢たちの猛アピールをひたすら受けるだけ、ということが多いらしいから、それを思うと昼食会参加の方がまだマシなのかもね。
さすがにそんな場に私を連れて行くと、何言われるかわからないからってことで当然私はお留守番。
渋るノルディスもむりやりメイドさんたちに連れていかれて、身支度させられているようだ。
さて、では私はどうするか。
ハーディエンス家の図書館に籠ろうかなって最初は思ったんだけど、読みたい本はちょこちょこ借りて部屋で読んでるんだよね。
なので、夢の王都図書館へ行ってみることにした。
入れるのかな?と思ったけど、アムリータ様がハーディエンス家からの紹介状を用意してくださった。
これは私の身分証明書みたいなもので、何かトラブルが起きた時でもハーディエンス侯爵家が保証人として身分を証明しますからっていう大事な書類だ。
これがあれば、多分王都の大体の建物には入れると思うからっておっしゃってくださった。
悪用されたらヤバイものだと思うけど、それだけ信用してくださっているのだからありがたく頂戴した。
お供をしてくださるのは、護衛のナタリーさん。嬉しい。
アムリータ様についていかなくていいのかと思ったけど、今回は男性も多い昼食会なので男性の護衛を連れていかれるらしい。まあ、ノルディスもいるしね。
身支度を整えてエントランスへ向かうと、同様に身支度が整ったらしいノルディスが立っていた。
「・・・後で、私も行く」
彼の言葉に、驚く。大事な集まりでしょうに。
「え?何言ってるの、ちゃんとお嫁さん候補見つけないと」
私の軽口に、苦虫をかみつぶしたような顔になるノルディス。
これ以上からかったら、後が怖いからやめておくか。
「それは冗談だけど、アムリータ様の立場もあるんだから。愛想振りまけとは言わないけど、せめて体裁だけは保たなきゃいけないでしょ」
「・・・わかっている」
苦々しい顔をしながらも、ノルディスは諦めたようにため息をつく。
そして私の顔を見て、ちょっと眉を下げた。
「でも、王都図書館を案内する約束をしていたからな。出来るだけ行く」
「・・・そっか、うん、そうだね。ありがとう、待ってるね」
約束を果たそうって思ってくれてたんだ。やっぱり、ノルディスいい奴だなあ。
私がそう言ったからか、ノルディスはようやくちょっとほっとした顔になって、私の後ろに立つナタリーさんを見た。
「ナタリー、シャルを頼む」
ナタリーさんは力強くうなずいて、笑った。
「はい、お任せください。シャルリア様は全力でお守ります」
全力でお守りする、だって。乙女が言われたいセリフナンバー1じゃない?!
その凛とした姿にほれぼれしていると、ノルディスは「いや、それよりも」と答えた。
「むしろ、シャルが何かやらかさないかをちゃんと見張って欲しい。目を離すと、ろくなことをしないから」
え、そっちなの?!
「図書館でそんな暴れたりしないよ!」
「暴れるとは思わないが・・・本を読んで目についた魔術を片っ端からためす、ぐらいのことはやりそうだから」
しないよ!失礼な!
・・・しないと思う、多分。
なんとなく不安気なノルディスに見送られ、今日は歩いて王立図書館へ向かう。
前回はすぐそこの貴族街へ行くのに馬車を使うんだって思ったけど、今日徒歩なのは訳がある。
ハーディエンス家の馬車は家紋の入った立派で正式なものが1つと、普段使い用の簡素なものが4つ、お忍び用の小さいものが1つある。
すごいよね、フロンターレ家なんて正式なのと簡素なのと2つしかないよ。
それはともかく、その簡素な馬車はハーディエンス侯爵様の乗って行ったもの、アムリータ様とノルディスが乗って行くもの、あとモーリス先生を迎えに行った後で急遽王城へ行先を変更したもの、今メンテナンスに出しているものとで全部出払っていた。
正式なものを私が使うわけにもいかず、お忍び用も昼日中に王都のど真ん中で使用するのはちょっといただけない。教えてくれたアームズ様曰く、「父上が悪だくみをするために夜中にこっそり使うもの」らしいからね。
なので、目と鼻の先の貴族街を歩いて通って王都図書館へ行くことにした。
アムリータ様には謝られたけど、別にフロンターレ領では歩いてあちこち行くのも珍しい話ではないので、どうということはない。
貴族街は治安もいいし、ナタリーさんも一緒だし、問題ないよね。
貴族街は、ハーディエンス侯爵家など高位貴族の屋敷が立ち並ぶ一角から、ハーディエンス学院や王都図書館、騎士団本部など国の重要施設が集まっているエリアにかけて広がっている。
そんな重要施設、一か所に固めたら集中攻撃された時に危なくないかってナタリーさんに聞いたら、むしろ守る側としては一か所に固まってくれていた方が楽らしい。
それはそうかもね。あちこち散らばっていたら、個別に人員配置するのも大変だもの。
「シャルリア様はそういったところにも目を向けられるのですね。博識ですし、聡明ですし、軍師として騎士団入りを目指されたらどうでしょう?」
「いやいや、素人の考えですから」
前世では戦略SLGも好きだったし、タワーディフェンスも好きだった。
だけど、ゲームによっては「鉄板」が割と存在するので、結局は作業ゲーになることも多かったんだよね。ここの砦はおとりにして見捨てて、こっちから攻めていくとかさ。
ゲーム内だから鉄板だからって、そういう非道なことも平気でやっていた。
・・・さすがに、リアルな人の命を使って戦略を考える気にはなれないよ。
それにしても、今日はあまり人が歩いていない。
前回が春の宴のお祭りの日だったのに比べて、今日はいわば平日のお昼前なのだから、当たり前か。学院生もいないし大人は仕事をしている時間だろう。
図書館へ着かなければいけない時間が決まっているわけではないので、ふらふらとあちこちの店をウィンドウショッピングしながら歩いてみる。
と、そこで見つけた1軒のドレスショップ。
トルドバール商会ではない、もっと小さい店。だけど、ウィンドウに並んでいるドレスはハッと目を引く素敵なものがいくつかあった。
「ナタリーさん、ここへ入ってみてもいいですか?
「ええ、もちろん。混雑している様子はないので、中までお供しますね」
ドアを開けようとしてふと不思議に思う。こういう店には大抵控えてくれているドアマンがいて、ドアを開けてくれるんだけどな。
代わりにナタリーさんが開けてくれたので、遠慮なく中に入って周囲を見回す。
と、その時。
「私を誰だと思っているの?!」
・・・おや、なんだか悪役令嬢のテンプレみたいなセリフが聞こえたんですが。




