71.再び夢の中で
『・・・く、・・・やく!』
『・・・ぱらな・・・、引っ張らないでってば!』
『あはは、ごめんごめん。ほら、彼女だよ!』
『これ?・・・思ったより普通ね』
むむむ、私なんかディスられてる?
何か会話が聞こえたような気がして目を開けると、そこはまた真っ白な世界だった。
あ、ここは夢の中だ。以前、シマと話をした夢の中。
ってことは、今聞こえた会話の主はシマなんだろうか?
「シマ?」
声をかけると同時に、ぽんっと目の前に子供の姿のシマが現れると、私に飛びついてきた。
「シャル!」
「やっぱりシマだ!元気してた?」
ぎゅっと抱きしめて、頭をぐりぐりと撫でるとシマは満面の笑みですりすりしてくる。
ああ~癒される~私の天使~!
「・・・なんなの。何を見せられてるの、アタシ」
不意に、シマではない声がする。
あれ。やっぱり2人いたの?
最初、会話してたものね。1人がシマで、それからもう1人は・・・。
顔を上げると、そこには1人の少女が立っていた。
シマが前世で言う幼稚園児ぐらいだとしたら、その子は小学校高学年ぐらい?
あ、ちょうど今の私と同じ年頃?それぐらいに見える。
金色のふわふわとした長い髪、天使のように愛らしい姿。
シマと同じような白っぽいワンピースを着て、腕を組んで立っている。
ちょっと不満げな顔つきもまた、可愛らしい。
「おぅ、2人目の天使だ・・・めちゃくちゃ可愛いそこのお嬢さんは誰?」
「かっ・・・」
言葉を詰まらせて、固まる少女。その顔が見る見るうちに赤くなっていく。
そして顔に集まった熱が熱いのか、ぶんぶんと髪の毛ごと顔を振りながら叫んだ。
「かか、可愛いとか!そういうの失礼でしょ!精霊様に向かって!」
あ、やっぱり精霊なんだ。
シマと一緒に来たから、多分そうなんじゃないかなーとは思ってたんだけど。
「それは失礼いたしました・・・可愛いものには目がないもので、つい」
カーテシーをしつつ頭を下げると、ふん、と少女は鼻息を荒げたままそっぽを向く。
「まったく、あなたといいラルフといい・・・」
ラルフ?ひょっとして、ラルフィード様のこと?
ってことは、この精霊様って。
「あの、火の精霊様でいらっしゃいますか?」
目を閉じてそっぽを向いていた少女の目が開き、じろりと目だけでこちらを見る。
「・・・どうしてそう思うのよ」
「ラルフ、と聞いたので。ラルフィード様のことかなあと」
「ふん」
肯定なのか否定のなのかわからない反応が返ってきたけど、シマが私の腕にぶら下がったまま教えてくれた。
「そーだよー。彼女は『火の』だよ」
「あらやっぱり?」
「ちょっと!勝手に教えないでよ!」
少女・・・火の精霊様はまたぶんっとこちらを向いて、両手を腰にあてる。
いかにも怒ってます!なポーズなんだけど、それがまた可愛い。
そんなことを言ったらまた怒られそうだから、言わないけど。
さっきからぶんぶんと頭を振っているからか、髪の毛が首筋にまとわりついている。
その髪の毛をうっとおしそうにかき上げながら、彼女は言った。
「確かにアタシは火の精霊。だけど、『風の』がうるさいから1度会いに来ただけ。別にあなたに加護を与えたいわけじゃないわ」
「はあ」
「大体、ラルフだってまだちゃんと『循環』出来ない時も多いのよ。あなたもちょっとは出来るみたいだけど、それだけでいいと思わないでよ」
「・・・はあ」
「そもそもブリザド、とかフレア、とかって何?聞いたことないんだけど」
「・・・」
「ちょっと?!聞いてるの?」
怒ったような声に、はっと我に返る。
しまった、全然別のこと考えていた。
このままじゃ気になって仕方ないから、先にそっちを解決させてもらおう。
「あの、火の精霊様。髪の毛、うっとおしいんですか?」
「え?ああ、そうね。あなたたちみたいに自由に切れないから」
怒られるかな、と思ったものの火の精霊様は普通に答えてくれた。
「じゃあ、結んでおきます?」
そう言いながら、念じる。夢の中だからいけるよね?
ぽんっと私の手のひらに現れたのは、愛用しているブラシと白いレースのリボン。
この白いレースは、アムリータ様に指導を受けながら編んだものだ。
貴族令嬢の嗜みとして覚えるなら、何か風の加護を受けやすいものがいいと思って聞いてみたらレース編みなら教えられるということだったので。
「では、失礼しますねー」
火の精霊様の後ろに回り込み、髪の毛を手で持ち上げた。
「ちょ、え、何?」
「あ、動くと痛いですよ?」
そう言ったら大人しくなってくれたので、ふんふーんと鼻歌を歌いつつ髪の毛をとかさせてもらう。
すべすべして、とても柔らかい髪の毛だ。いいなあ、髪質の良さは女の子の憧れだよね。
無言でじっとしてくれている彼女に、シマが正面からニコニコ笑いながら話しかける。
「気持ちいいでしょ?ボクもね、鳥の姿ではよくブラッシングしてもらうんだ~」
「・・・あなたと一緒にしないでよ」
文句を言いながらも嫌がる様子はないので、心ゆくまで髪をとかさせてもらった後、その髪の毛をそっと編んで1本の三つ編みにする。
最後に、編み終わりを白いレースのリボンで結んで完了だ。
「出来上がり!」
「わあ~可愛いねえ~」
声を上げると、シマが無邪気に手を叩いて絶賛してくれた。
おさげなんてありがちな髪型だけど、これぐらいの年の子には似合うよねえ~。
真っ白なレースのリボンとワンピースも相まって、まるで避暑地のお嬢様みたいだ。
火の精霊様は三つ編みの端っこを手でつまんでしげしげとリボンを見つめていたけれど、その手を離してぶんっぶんっと左右に首を振る。
それに合わせて揺れる三つ編み。
最後に首筋に手をあてて、絡まった髪の毛がないことを確認するように一撫でする。
「どうでしょう?これで少しは、すっきりしたならいいのですが」
聞いてみると、彼女は少し逡巡するように視線をさ迷わせると、小さな声で「悪くないわね」と答えてくれた。
よかった、満足してくれたみたいだ。
こちらも美少女の髪の毛アレンジなんてできて、満足満足!
そういえば、と思い出して問いかける。
「それで、ご用は何でしょうか?加護を与えるわけじゃなくて、シマに誘われていらっしゃったんでしたっけ?」
髪の毛が気になって半分ぐらいしか聞いてなかったけど、そんなことを言っておられた気がする。
「そうだよ~」
私の質問にはシマが答えて、その場でくるりんと宙返りする。
「シャル、今日のお昼に魔術使ったでしょ?」
「うん。何で知ってるの?」
ひょっとしてまた遊びに来てくれてたんだろうか、と思いつつ聞いてみるとシマは嬉しそうに笑った。
「シャルのことならなんでもわかるよ、って言いたいとこだけど。本当は、大きな魔力の発動にはボクらの力も使われるからさ。なんか引っ張られた感じがあったんだよね」
・・・精霊様にお願いする、というより無理やり引っ張り出しちゃう感じなの?
それってどうなんだろう?シマたちは嫌じゃないの?
少し眉をひそめた私に気づいたのか、慌ててシマが言う。
「いや、ボクたちの全部の力からしたら、些細なものだよ?」
「・・・そうよ、些細なものなのよ。ほとんど気づくこともないわ」
シマの言葉に火の精霊様も同意して、その先を引き取る。
「だけど、今日のは違った。ぐっと力が引っ張られる感覚があって、驚いたわ。最近ようやくラルフがそれぐらい引き出すようになっていたけど、全然違うところからだったから」
それで驚いた火の精霊様は、取るものもとりあえずその精霊力を引き出した場所に向かおうとした。
それと同時に、シマも私のところへと向かっていた。
本来なら100%の力を火の精霊様から頂くはずが、ちょこちょことシマと『循環』しているせいかその内のいくらかの力をシマから引っ張り出してしまったらしい。
引っ張られたついでに遊びに来ようとしていたシマと、火の精霊様が出会うことによって原因となった私の存在を知ったのだとか。
「『風の』から話を聞いて、すぐにわかったわ。ラルフの力が大きくなったのも、あなたが関わっているのだと」
「えっ?!」
全然記憶にないことを言われて驚いたものの、ちょっと考えて思い出した。
「ひょっとしてお茶会の時の、あのオーラですか?」
「そうね。あの時アタシは遠目から見てただけだから、あなたの姿をちゃんと認識してはいなかったのだけど」
でも、と火の精霊様は続ける。
「『土の』加護を受けてる子たちもいたし、ラルフより劣るけれどアタシがちょっと目をかけている子もいた」
ノルディスとアームズ様と・・・もしかして、シェアト兄様だろうか。
「そして、あなた。『風の』加護を受けているのはわかったけど、『土の』加護も少し受けていて。その上・・・」
火の精霊様はそこで言葉を切り、言うか言わないか迷っているようなそぶりをした後でそっぽを向きながら言った。
「アタシの加護も与えてもいいかもしれない。きっと、相乗効果でアタシ達精霊にもいい影響が出るに違いない。瞬間的にそう思ったわ」
その言葉に驚いて目を見開くと、隣でシマがやれやれと肩をすくめた。
「ね、シャルの傍は居心地がいいんだよ。精霊にとってすごく心地よいんだ。だから加護を与えちゃえばよかったんだよ」
「うるさいわね!」
キッとにらみつけられたシマが、慌てて私の後ろに隠れる。可愛い。
「そんな簡単なものじゃないのよ」
火の精霊様は、真面目な顔つきで私をじっと見る。
「『風の』から聞いて知っているみたいだけど、アタシたちは『循環』をしながら存在している。これはと思った者に加護を与え、その者が正しく強い『循環』を行えるようになった暁には精霊使徒として唯一の加護を与えることになる」
精霊使徒ってやっぱり、唯一の存在なんだ。
それが4人揃う今の世代ってなんかすごいな。ゲームの都合とはいえ。
「精霊使徒とは意思の疎通も出来るし、それによってより良い『循環』を行うことができ、アタシ達はますます強くなれる。そしてそれが、精霊王様の力の源にもなるのよ」
火の精霊様は、少し切なそうな顔をしながら言葉を続ける。
「今、精霊王様は眠っておられるわ。力が足りないの」
「え、そうなんですか?!」
驚いて問うと、火の精霊様はコクン、とうなずいた。
それは幼く見える姿と相まって、とても心細そうに見えた。
「精霊使徒に出来るだけの力を持つものがしばらく現れなかったけど、最近になってようやくその力の片鱗を見せるものが次々に出てきた。だから、慎重にやらなきゃいけない」
火の精霊様は深く息を吐いた後、思い切ったように言った。
「このまま精霊王様が目覚めないと、この世界は滅びてしまうわ」




