68.お茶会終わりにスチルが2つ
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「今日は本当に楽しかったわ!シャル、また遊びに来てね!」
アンドレア侯爵家でのお茶会終了後。そう言ってくれたのはデイジー様、ではなくて。
キラキラと目を輝かせて、私の手を握っているリンナ様だった。
最初にお目にかかった時は儚げな印象だったのに、いつの間にか生き生きして明るく笑っているその姿に、私の前世の友人たちの姿が重なる。
美味しいスイーツの話や、好きな男の子の話。クラスメートのうわさ話に、テストの愚痴。
そんなとりとめのない話を毎日ひたすら繰り返して、笑って泣いてはしゃいだ宝物のような日々。
貴族令嬢の友人は出来たけれど、そんなたわいもないことで盛り上がるのは今世では不可能だと思っていた。
だけど寂しそうなリンナ様の顔が辛くて、少しでも笑わせてあげようと色々な話をしていたら、だんだんその顔が明るくなってきたのがわかった。
そして、自分から平民だったころの失敗談も話してくれたりして・・・それがまた私にとっては「一般市民あるある」だったから、同意して大いに盛り上がることができた。
デイジー様は若干ぽかんとしていたし、ニコニコしていたアムリータ様は内心眉をひそめていたに違いないけど、それはもう仕方がないと諦めた。
「シャル、私からもお願いしたい。こんなに楽しそうな母上を見るのは、初めてだ」
デイジー様はそう言ってくれた後、それに、と少ししょぼんとした顔で付け足す。
「私もシャルともう少し話がしたい・・・」
うぅ。ごめんなさい、デイジー様。
すっかり会話から置いてけぼりにしちゃったのは、貴族令嬢として失格だったと反省してます。
「すみません、デイジー様。今度はまたいっぱい話をしましょうね」
「ああ、約束だよ?」
ぱあっと笑顔になるデイジー様。リンナ様のキラキラした笑顔と同じ笑顔だ。
「リンナ様、私とももう少しお話していただきたいですわ」
アムリータ様も、ぷっと少し頬をふくらましてそうおっしゃる。可愛い。
本当は怒ってないことが丸わかりなその態度に、リンナ様も頬を緩められる。
「ええ、ごめんなさい。次はぜひ、最近の社交界のことを教えてくださいな」
最初のどこか緊張したような口調から、ずいぶん滑らかな口調になったリンナ様がそう言うと、アムリータ様はいたわるような顔つきになる。
「もちろんですわ。・・・でも、無理されなくても構いませんのよ」
優しいアムリータ様の声に、リンナ様は微笑んで首を振られた。
「いいえ。今日、久しぶりにアムリータ様にお会いして、思い出したのです。あの頃、嫌な思いばかりしたと思っていたけれど、いい思い出もあるんだって」
「リンナ」
驚いたようにアンドレア侯爵様が声をかけるが、リンナ様は片手を胸にあてて目を閉じる。
「ここに、ちゃんと残っていたのです。アムリータ様が優しく色々教えてくださったこと、オリガ様が振る舞いをほめてくださったこと。他にも、本心から私を気遣ってくださった方々が何人もいらっしゃったことを」
「リンナ様・・・ええ、そうですわ。あなたが戻ってくるのを、私たちは心待ちにしておりますわ」
アムリータ様が感激した面持ちで、何度も大きくうなずく。
リンナ様は今度はデイジー様の方を向いて、優しく微笑む。
「デイジー、あなたにも迷惑かけるかもしれない。でも、来年の宴からはあなたも参加できるもの。ぜひ、一緒に行きましょうね」
「母上!はい、嬉しいです!」
・・・よかった。
園遊会の時のデイジー様もどこか不安気だったけど、お母様と一緒ならきっと大丈夫だ。
2人でなら、悪意なんてきっときっと蹴散らせる。
ふいにラルフィード様がリンナ様の前に出てきて、そのままひざまずいて手を差し伸べた。
「母上、その時はぜひ私にエスコートさせてください。俺が、全身全霊でお守りします」
・・・!
これ、スチルで見たことある!
確か、学院内で女子生徒同士の派閥争いが起きたんだよね。
心優しいマリーアンジュ王女はそれをどうにかして治めようとするんだけど、争いはエスカレートする一方。
ついに彼女たちを断じて、学院に秩序を取り戻すよう決心した王女だったのだけど、いざその場へ行こうと思ったら足が進まない。
王女とはいえ、自分に女生徒たちを断ずる資格はあるのか。
こうなる前にどうにか出来なかったのか。
そんな風に悩む彼女の前に、迎えに来たラルフィード様がひざまずくんだ。
相手が違うけど、そんなことはまあどうでもいい。
ラルフィード様を金色のオーラが取り巻いているのが見える。
そのオーラはだんだん紅く色が変わっていく。
きっと、彼の心の火だ。
お母様を守りたいという強い気持ちが、火の精霊様に届いているに違いない。
ものすごく綺麗で、そして力強いオーラ。
彼は間違いなく、火のエレメンタルの加護を強く受けるにふさわしい人なのだろう。
が、私のそんな感動もそこそこにラルフィード様の頭にごつん、とげんこつが落とされて彼は「痛っ!」と悲鳴を上げた。
「馬鹿者、20年早いわ。その役目はまだまだお前に譲る気はない」
げんこつを落とした主のアンドレア侯爵様が、ふんっと鼻息荒くそうおっしゃる。
そして、これ以上ないほど愛情こもった目つきでリンナ様を見つめ、優しく言葉をかけられた。
「あれから15年くらいか。まだまだ若造だったころに比べ、今はかなり頼れる男になったつもりだ。安心して、私の傍にいてほしい」
「はい、タングステン様・・・」
潤んだ目で見つめるリンナ様に、深くうなずいて返すアンドレア侯爵様。
渋い・・・超渋い。
ちょっとオジサマ属性が目覚めそうになるぐらい、かっこいい。
やっぱり歳を重ねることによって、魅力がどんどん増していくっていうのはいいなあ。
「ラルフも、ありがとう。あなたがいてくれたら心強いわ」
息子にもフォローを忘れないリンナ様。
ラルフィード様は、まだ痛むのか頭をさすりながらも「俺だって頼りになりますから!」と主張していた。
それに微笑み返したリンナ様は、今度は私の方を向かれた。
「シャル、あなたとも来年の社交界で顔を合わせることになるわね。どうかよろしくね」
「もちろんです、リンナ様!」
意気込んで答える。
「もし、なんか嫌な目に合ったら合図してください!逃げちゃいましょう!」
「まあ、逃げるの?」
リンナ様が少し目を見開いて、クスクスと笑った。
「返り討ちにするのも悪くはないですが、それだと後々面倒くさそうなんで。王城の大広間からこっそり抜け出すルートを、今度ハーディエンス侯爵様に聞いておきます!」
ぐっと握りこぶしを作ってリンナ様に約束する。
「そんなことを父上に聞くなよ!」
「シャルは怖いもの知らず過ぎる」
「どうしてそんな発想になるのかが理解できません」
アームズ様、シェアト兄様、ノルディスが口々に言うけど、知ったことじゃない。
ぽかんとしていたリンナ様とアムリータ様、それからアンドレア侯爵様が揃って笑いだした。
「いやはや、シャルリア殿は本当に面白い子だ!デイジーをよろしく頼むよ」
頭をぐりぐりと撫でられながら、アンドレア侯爵様にそう言われる。
なんか最近、よく撫でられるなあ・・・別にいいんだけど。
「奥様」
護衛のナタリーさんが声をかけてきて、私たちは馬車の前へとそれぞれ進んだ。
改めてアムリータ様とリンナ様が笑って顔を見合わせると、お互い軽く抱き合った。
「きっとまた、近いうちに会いましょうね」
「ええ、ぜひ」
私もデイジー様と手を握り合って、挨拶する。
「シャル、必ずまた遊びに来てくれるかい?」
「はい!王都にいる期間はあと少しですが、出来ればまた来ますね!」
2人でうなずきあっていると、横から手が伸びてくる。
ラルフィード様が、私に手を差し出しておられた。
「シャル、今日は本当にありがとう」
珍しく、ニコニコ笑顔でないラルフィード様の真剣な顔。
その雰囲気に飲まれるかのように、私の手は彼の手に取られる。
ラルフィード様は私の手を取ったまま、その場にひざまずく。
えっ?!なに?
「どう感謝を表していいかわからないけど・・・俺は、君にこの忠誠をささげよう」
あれ?!またスチル?!
またなんかオーラが出てるし!なんで私なの?どうなってるのこれ??
混乱している私の手をそっと自分の唇にあてるラルフィード様。
いやっ、ちょ、これは・・・!
顔中に全身の熱が集まったようになり、ぼっと燃えるように頬が熱くなる。
あらあら、なんて笑ってみているアムリータ様とリンナ様も。
うむ、上出来だなんてうなずいているアンドレア侯爵様も。
お話の中の姫君と騎士のようだ、なんてつぶやいているデイジー様も。
苦虫をかみつぶしたような顔をしているアームズ様と兄様も。
そしていつも通り、冷静な顔で眼鏡の位置を直しているノルディスも。
誰か。
誰か、どうにかして。
見てないで何とかして・・・。
前世喪女、今は普通の貴族令嬢はこんな風にお姫様扱いされるのには慣れてません。
すでにキャパテシィオーバーです。
明日は日曜日なので更新お休みします。
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