61.ハーディエンス侯爵夫人
雷がひどくてPC落としてたら遅くなりました・・・。
いやいや怖かった。
『それでまだ王都にいたんだ。探したんだよ?』
「えっ、もうフロンターレ領まで来てくれてたの?ごめんね、シマ」
私はシマの頭を撫でながら、謝る。
シマは気持ちよさそうに、私の手に身体をこすりつけた。
『マーカスがお嬢様がいないのになんてけなげな、って言っていっぱいクッキーくれたからいいんだけどさ』
「・・・ちゃっかりしてる」
芽吹きの宴から一週間。
ハーディエンス家にしばらくお世話になることが決まり、その翌日には早馬を飛ばしてフロンターレ領から私の荷物が届いた。
その荷物を確認した後、さんざん侯爵家では問題を起こさないようにと言い含められ(起こさないよ!)父様と母様は領地へ戻られて、兄様は学院の寮へと向かわれた。
なので、それからはハーディエンス侯爵家のお屋敷で過ごさせてもらっている。
午前中はノルディスと一緒に、家庭教師の教えを受ける。
ただ、先生の都合でそれは明日からになっている。
どんな先生が来て、どんな授業をするのか本当に楽しみだ。
なので、今日の午前中はハーディエンス家の別館図書館をノルディスに案内してもらった。
目もくらむような大きな本棚が並んでいて、前世でのちょっとした地域の図書館並じゃない?!って思った。
幼い頃、ノルディスとアームズ様はここでかくれんぼをしてしこたま怒られたそうな。
いや、やりたくなるのわかるわ、これ。
時間がなさ過ぎて、並んでいる本をあれこれ取り出しては見てみるのが精一杯だった。
また来たらいいから、とノルディスは言ってくれたけどね。
今は、昼食後の休憩時間。
部屋でのんびりしていたら、窓をコツコツ叩く音に気付いた。
見てみると、シマが窓枠に止まって窓をくちばしで叩いていたのだ。
そこで部屋に招き入れ、久々のおしゃべりを楽しむこととなった。
シマはアルトゥース工房で『循環』を繰り返し、完全に精霊としての力を取り戻したのだとか。
それでさっそくフロンターレ領まで向かってくれたのだけど。
シマがフロンターレ領に着いた時は、たまたま父様たちが帰り着いた直後だったらしく、使用人たちが私がハーディエンス侯爵家にしばらく滞在すると聞いて大騒ぎだったらしい。
『みんな心配してたよ?お嬢様が何かやらかすんじゃないか、って』
「どっちの心配してるんだか・・・」
『エスバンが皆やらかす方に賭けるから、賭けにならないって嘆いてた』
「ひどくない?!」
ピュフピュフとシマが笑うので、私も一緒になって笑っていると、部屋のドアがノックされた。
「はい?どうぞ」
答えつつも、この時間はひょっとして・・・と思っていると。
「今、いいかしら?」
ドアが開いて、ハーディエンス侯爵夫人が顔をのぞかせた。
「アムリータ様。もちろん、どうぞ」
侯爵夫人ではなく名前で呼んで欲しいと言われ、そう呼ばせてもらっている。
「あのね、今日これから・・・あら!」
アムリータ様は机にちょこんと止まっているシマを見つけて、目を丸くした。
シマもすかさず首をかしげて、くりくりと目を動かす。あざといな。
「まあまあ・・・どうしたの、この小鳥は?」
「お友達なんです」
そう言って、アムリータ様に説明する。
冬月にフロンターレ領で雪の中を保護して、シマと名付けて家で面倒を見ていたこと。
芽吹きの宴の時に王都まで連れてきたら、王都で飛び立ってしまったこと。
園遊会の時に、アルトゥース工房で飼われている鳥だとわかったこと。
賢い鳥のようで、こうやって遊びに来てくれているということ。
若干苦しい説明のような気もするけど、嘘は言ってない。
実際にアムリータ様は納得されたみたいで、さっそくシマに手を伸ばされた。
シマは心得てるとばかりにその手の平に乗り、ちょんちょんと軽く突っつく。
薄いけど、思っていた以上に多くのオーラがふわっと広がるのがわかる。
それを全部吸収して、満足そうなシマ。
侯爵夫人が物作り???と思っていると、シマから念話が届いた。
『流通のオーラだよ』
流通・・・ああ、売ったり買ったりすることか。
そうか、そういう商売に関するものも風のエレメンタルが関わってくるんだっけ。
魔道具を作るアルトゥース工房は、魔道具を流通させるアルトゥース商会でもあるからね。
侯爵夫人なんだもの、そりゃあ色々いっぱい買い物なさってるんだろうなあ。
「うふふ、可愛いわねえ。今日のお茶会のゲストに来てくれないかしら?」
「あ、大丈夫だと思います。シマはフロンターレ領でもお菓子が好きで、よく食べてましたから」
「まあそうなの?」
じゃあ来て頂戴ねシマちゃん、なんて話しかけられてシマもご機嫌に身体を揺する。
満足そうにうふふと微笑んだアムリータ様は、思い出したようにこちらを向いた。
「そうそう今シャルちゃんにも言おうと思ってたんだけど、もうすぐトルドバール商会が来るのよ」
「・・・はあ」
トルドバール商会?
聞いたこともあるような気がするけど、なんだっけな。
ゲームに出て来てたんだっけ?
「シャルちゃんがうちへしばらく滞在してくれるって決まってから、急いで注文を出したのよ。好きな色とかサイズとかわからないから、いくつか持ってきてもらって手直ししてもらおうと思って」
「・・・・・・!!」
思い出した!
トルドバール商会は、貴族街の一等地にあるドレスショップだ!
宴の夜会ではドレスをそろえる必要があったので、ゲームでは季節毎に行く場所だった。
うっかりプレゼントとか体力回復アイテムとか買いまくると、ドレスを買うお金が無くなって初期デフォルトのシンプルすぎるドレスで参加する羽目になるんだった。
好きな色とか、サイズとかってまさか・・・。
「あの、アムリータ様・・・」
「シャルちゃん!」
がしっといきなり両手を握られる。
「ごめんなさいね、実はルーシアにも怒られたの!」
「え?」
「友人の娘だからと言ってそんなことまでしてもらう義理はないって。でもね」
アムリータ様は手を離し、すっと姿勢を整えて立つ。
今までの親しみやすい姿とは打って変わって、いかにも侯爵夫人としての立ち居振る舞い。
その姿は、王都でも名高い高位貴族として自信と威厳にあふれていて美しい。
「あなたは本気でエレメンタルプリンセスを目指すのでしょう?」
「はい」
それだけは迷いなく答える。
その答えを聞いてアムリータ様は満足そうにうなずき、言葉を続ける。
「ならば、形からもプリンセスになりなさい。教養や知識はこれからノルディスと共に学べばよいのです。私からは自分に似合うドレスの選び方や、それをいかに着こなして自分を美しく見せられるか、お茶会だけでなく夜会での振る舞い方をお教えしましょう」
「はい・・・!」
「それにはとっておきの淑女の武器が必要なのです。ドレスに装飾品といった武器が」
そう言って、アムリータ様は母上のように厳しくも優しい笑顔を見せられた。
「なので、それに関しては私が責任をもって準備いたします。ルーシアも納得してくれているわ」
「はい!ありがとうございます」
思わず最上級の礼をする。
お世話になることが決まった時に、母のように思って頼って欲しいと言われていた。
確かに娘のようにかわいがってくださっているけれど、それ以上にやはりこの方は「ハーディエンス侯爵夫人」なのだ。
エレメンタルプリンセスを目指す私にとって、かけがえのない師になることは間違いなかった。
ちょうどその時、メイドさんがやってきてトルドバール商会の到着を告げてくれた。
私は再び親しみやすい笑顔を浮かべたアムリータ様に、さあさあと連れ出されて応接間へと連れていかれた。
そこで待っていたトルバドール商会の人、メイドさんたち、そしてもちろんアムリータ様に寄ってたかってああでもないこうでもないと着せ替え人形にされたのは言うまでもなかった。




